高出力レーザー兵器については長年、期待が膨らむ一方でなかなか成果が出ていなかったので、戦場で役に立つ日はこないのではないかと疑ってしまうのも無理はない。だが、その日がついに訪れたようだ。米陸軍は、配備しているレーザー兵器が初めて実戦でドローン(無人機)を撃墜したといううわさを確認も否定もしていないが、関係者らの慎重に言葉を選んだ発言からは信憑性が高いとみてよさそうだ。

補足しておくと、米陸軍の調達部門の責任者であるダグラス・ブッシュ陸軍次官補は先ごろフォーブスに、中東でレーザー兵器を使ってドローンを撃墜したと明らかにしていた。しかし、現在は米陸軍の関係者で公にそれを認める人はいないようだ。

驚くべきことに、米軍のレーザー兵器がドローンの撃墜に成功した秘密は、ハードウェアというよりもソフトウェアにあったらしい。

国防総省も高評価

筆者は、米陸軍の「P-HEL(Palletized-High Energy Laser:パレット式高出力レーザー)」に用いられているレーザー兵器システム「LOCUST(ローカスト)」を手がける米BlueHalo(ブルーヘイロー)社のジョナサン・マネーメーカー最高経営責任者(CEO)に話を聞いた。同社のプレスリリースによると、P-HELは2022年11月に米国外で運用され始め、今年に入り2基目が配備されている。

マネーメーカーは、LOCUSTがドローンを撃墜したかどうかについては話すことができないので陸軍に問い合わせてほしいとしながらも、LOCUSTの性能は現場の兵士らからも米国防総省の高官たちからも高く評価されていると話した。

「最近、LOCUSTのそばで勤務していた軍人の方々と会ったのですが、彼らからはLOCUSTによる防護に個人的に感謝の気持ちを伝えられました」というエピソードも教えてくれた。

レーザー兵器によるドローンの撃墜は、数十年の年月と数百億ドル規模の予算を費やしてきた国防総省の取り組みが結実したものと言えるが、マネーメーカーは、レーザー兵器を有効なものにするには最新のテクノロジーが必要だったと語る。

60年来の悲願

国防総省は、レーザーが発明された当初からレーザー兵器の虜になっていた。電磁波の「殺人光線」を開発しようという取り組みはそれ以前にもあったものの、派生物としてレーダーを生み出した以外、不毛な結果に終わっていた。レーザー兵器は、米軍がまさに求めているもののように思えた。レーザーが実験室で誕生してかららわずか2年後の1962年、国防総省は「ディフェンダー計画」の一環で、レーザー兵器によってソ連のミサイルを撃墜することを目標に掲げた。

1963年、キューバ危機を受けてレーザー兵器開発の緊急性が高まり、ケネディ大統領はディフェンダー計画を「国家の最優先事項」に格上げした。実現性のある兵器の開発までにはさらに10年を要したが、1973年11月13日、ディフェンダー計画を受け継いだ計画のもと開発されたレーザー兵器が、ニューメキシコ州のカートランド空軍基地で標的のドローンの撃墜に成功した。ただ、この計画は結局、実用的なレベルまで技術を成熟させることはできなかった。

その後も高出力レーザー兵器は続々と開発され、いずれもドローンの撃墜能力が実証されている。最も有名(にして壮大)なのは、ボーイング747旅客機を改造してメガワット級化学レーザーを搭載した試験機「YAL-1空中発射レーザー」だろう。レーガン時代の「戦略防衛構想(SDI)」、通称「スター・ウォーズ計画」から派生したYAL-1は2002年に初飛行したが、実際に運用されることはないまま2014年に開発が打ち切られた。

2014年に実地テストのため米海軍の輸送揚陸艦「ポンス」に搭載された「XN-1 LaWS(Laser Weapon System:レーザー兵器システム)」のように、実戦投入されたレーザー兵器もある。同艦がペルシャ湾にいた間、XN-1は戦闘での使用が許可されていたものの、実際に戦闘で使用されることはなかった。あるレビューでは、XN-1は小さな目標の追尾やビームのコヒーレンス(可干渉性)に問題があるため、製品として量産するのには向かないとの見解が示されている。

米軍は現在、高出力レーザー兵器の開発計画を少なくとも31件進めている。うち少数の兵器は、イエメンの反政府勢力フーシ派やイラクなどの武装組織が用いるドローンからの防御のため、現地で使用されている。もっとも評価は低いものもある。たとえば、ストライカー装甲車に搭載された「指向性エネルギー機動短距離防空システム(DE M-SHORAD)」というレーザー兵器に関するある記事では「これまでのところ、兵士からのフィードバックからは実験室や試験場での結果と実際の戦術展開時との間に大きな差があることが示されている」と紹介されている。

対照的に、LOCUSTは実戦でも想定どおりに働いているようだ。

鍵はソフトウェアに

「LOCUSTがほかのレーザーと違うところは、世界トップクラスの捕捉、照準、ビーム制御を行える点です」とマネーメーカーは言う。「加えて、信頼性が高く実戦で使えるシステムを構築できることも実証されています」

ブルーヘイローは40年あまりにわたってレーザー通信を専業としてきた会社だ。同社のシステムは国際宇宙ステーション(ISS)や米国の軍事衛星でも採用されている実績がある。こうした歴史から、高速で移動する目標をレーザー照射点で追尾する技術である「ビーム制御」に関して、同社は非常に高い専門技術と知見をもつ。

マネーメーカーによれば、ハードウェアの大半は特製品ではなく市販の部品からつくられている。真の技術的進歩は別のところにある。

「当社の『特製ソース』は、ソフトウェアによるビーム制御と、そのソフトの上で動くAI(人工知能)ツールキットです」

この制御システムは、たんにレーザービームを目標のドローンに向けるのではなく、そのドローンを可能なかぎり最も効率的に破壊できるように照準を合わせる。これは、AIツールによってドローンのタイプを識別し、ビームで最もダメージを与えられる弱点を特定することで可能になっている。

「たとえばドローンに回転翼があれば、当社のシステムはモーターがどこにあるかを理解し、そこを狙って攻撃できます」とマネーメーカーは説明する。より高度なタイプのドローンではシーカーヘッド(目標を探知・追尾するセンサー)を攻撃することなどもできるという。

LOCUSTのレーザー照射点は25セント硬貨(直径約24mm)ほどの大きさで、一点に集中して当て続けられるので、米軍で「グループ3」と分類されるような比較的大型のドローンも一瞬で焼き切って破壊できる。マネーメーカーの話では、ビームは6mmの厚さの鋼鉄もたやすく貫通するという。

もっとも、パワー(出力)以上に重要なのはコントロール(制御)だ。メガワット級の出力があっても、目標に当てることができなければ意味がない。

「より高出力のレーザーが求められがちですが、それは有効性という点を覆い隠してしまうきらいがあります」とマネーメーカーは話す。「安定性と制御性能が高ければ、もっと低い出力でも非常に効果的に交戦できるのです」

まさに的を射た指摘である。1973年の実験での撃墜は、本来は標的のドローンの燃料タンクを発火させ、激しく炎上させて破壊するはずだった。ところが、ビームは燃料タンクの後方に当たり、制御ケーブルが溶かされた結果、ドローンは墜落した。それに対して、LOCUSTはドローンの特定のポイントを正確に狙って破壊できる。レーザーの力任せにまぐれ当たりを期待するのではなく、優れたソフトウェアで精密に制御することで、高出力レーザー兵器はようやく実用的なものになったということだ。

低コストで無限に撃てる

低コストの攻撃ドローンは現代の戦争で現実のものになった。ウクライナの戦場で多用されているFPVレーシングドローンから、フーシ派やロシアが用いているイラン設計の「シャヘド」まで、こうしたドローンは、少数のミサイルに対処する目的で設計された防空システムを圧倒している。しかも、安価なドローンは非国家主体も含め、誰でも入手できる。一方、朝鮮戦争以来、航空優勢を頼りにしてきた米軍は、空中からの脅威に対する準備が十分とは言えない。

無限に撃つことができ、1発当たりのコストも低いレーザー兵器は、この脅威に対抗するのにうってつけの装備だ。ただしマネーメーカーは、レーザー兵器はそれだけでは完全な防御にならず、あくまで重層的で統合された防御システムの一部を構成するものだとも強調している。具体的に言えば、センサーやジャマー(電波妨害装置)、指揮統制システム、さらにミサイルのようなほかのドローン撃墜手段と組み合わされることになる。ちなみに、ブルーヘイローはこれらの技術も開発している

今後、ドローンとレーザーの遭遇が頻繁に起こるようになれば、レーザー兵器の有効性についてもっと知ることができるようになりそうだ。米軍もいつか、レーザー兵器によるドローンの初撃墜の全容を明らかにしてくれるかもしれない。いずれにせよ、ウクライナだけで今年200万機のドローン製造が計画されるなど、戦場にドローンの大群が姿を見せようとするなか、戦術レーザー兵器が地上部隊の生存にとって重要なものになっていく可能性は高い。レーザー兵器がようやく実戦で役に立ち始めたらしいのは朗報だ。