この4月は、ロボットの開発で知られるボストン・ダイナミクスのヒト型ロボット「Atlas(アトラス)」に関する記事が注目された。全面刷新された新型アトラスは、旧型に使われていた油圧機構を廃止して電動のアクチュエーターを採用しており、まるでCGのようにスムーズに旋回したり回転したりできるようになっている。ボストン・ダイナミクスを2020年に買収した韓国の現代自動車(ヒョンデ)が将来、新型アトラスを自社の自動車工場で働かせる可能性もありそうだ。このほか、電動ピックアップトラック「Cybertruck(サイバートラック)」のリコールに関する記事もよく読まれた。テスラは、アクセルペダルの不具合で車両が加速してしまう危険性があるとして、約4,000台のリコールを発表した。米国の運輸省道路交通安全局によると、テスラはアクセルペダルのパッドを取り付けやすくするために組み立てラインで“せっけん”を使っていたとのことで、残留した潤滑剤によりパッドがペダルから外れやすくなったと報告されている。

老ロボットは死なず、ただ消え去るのみ(そして、おそらく少しさびるのだ)──。ロボットの開発で知られるボストン・ダイナミクスが、10年以上前に登場したヒト型ロボット「HD Atlas(HDアトラス)」に別れを告げ、すぐにその“代替”となる新型を発表した。

アトラスは長年にわたり、かわいらしいダンスやパルクールを披露してくれた。そして、いつか人類滅亡の日が訪れるのではないかと、わたしたちを怖がらせてくれたのだ。

しかし、当然のことながら“ロボカリプス”(ロボット黙示録=ロボットによる人類征服)が訪れることはなかった。アトラスは箱から落ちたり、テーブルから跳ねたり、芝生の丘を転げ落ちたり、映画『ダーティ・ダンシング』の曲に合わせて踊ったりするなど、さらにかわいくなっていったのである。

そんなアトラスの“電源オフ”を前に、引退を告げる動画に続いて約40秒のショートムービーが4月17日(米国時間)に公開された。全面刷新されたアトラスの姿だ。

ボストン・ダイナミクスのヒト型ロボットが大幅に進化、そのありえない動きから見えてきたこと(動画あり)

PHOTOGRAPH: BOSTON DYNAMICS

新型アトラスが見せた驚異の動き

新しい寝汗をかく準備はいいだろうか。この新型アトラスはCGのように“ぬるぬる”とスムーズに動くが、決してCGなどではないのだ。

現在は韓国の現代自動車(ヒョンデ)傘下となったボストン・ダイナミクスは、この新型について現時点では詳細をほとんど明らかにしていない。最高経営責任者(CEO)のロバート・プレイターは『IEEE Spectrum』の取材に対し、この新型が「 ほとんどの関節が人間より強く、最高のアスリートさえも上回ります。そして、人間を上回る可動域をもっています」と語っている。なんてこった。

プレイターによると、旧型アトラスで使われていた時代遅れの油圧機構は廃止され、電動のアクチュエーターに置き換えられたという。また、旧型は人間のようでもカクカクとぎこちない動きだったが、新型は薄気味悪いカニと軟体動物のような動きをする曲芸師が合体したように、自在に旋回したり回転したりする。

この超強力で全地形対応で二足歩行のヒト型ロボットが、階段を駆け上がり、バク転をして、即座に姿勢を正してわたしたちの首をへし折るようにプログラムされているかもしれない──といった心配をする必要などない。たとえ、1984年の映画『ターミネーター』でアーノルド・シュワルツェネッガーが演じた殺人サイボーグに茫然としたことがなくてもだ(とはいえ、レーザー銃は絶対に持たせてはならない)。

 

まずは自動車工場での作業に従事?

もしあなたがアマゾンの倉庫の作業員なら、また別の恐怖を感じることだろう。というのも新型アトラスは、そのマットグレーのボディに取り付けられた3本指の手が1本あれば、同じような仕事をこなせるからだ。

しかし、より可能性が高いのは、ボストン・ダイナミクスを2020年に10億ドルで買収したヒョンデが、新型アトラスを自社の自動車工場で働かせることだろう。ボストン・ダイナミクスは新型アトラスの発表に際して、「これからの旅路はヒョンデから始まる」とコメントしている。

改めて強調するが、現時点では詳細については何ら明らかにされていない。だが、こうした推測はできる。新型アトラスはヒョンデの工場で、退屈な繰り返しの伴う作業に従事することになるのだろう。例えば、レーザー溶接といった工程だ(繰り返しになるが、ロボットをレーザーに近づけてはならない)。

ヒト型ロボットを現場の作業員として活用しようと考えているのは、ヒョンデだけではない。カナダのSanctuary AIは4月11日、自動車部品や受託生産で知られるオーストリアのマグナ・インターナショナルにヒト型ロボットを納入すると発表している。マグナはメルセデス・ベンツやジャガー、BMWの自動車の組み立てなどで知られる世界的な企業で、これはテスラが開発を進めているヒト型ロボット「Optimus(オプティマス)」に先行する動きだ。

また、ロボット開発を手がけるカリフォルニアのスタートアップのFigureは今年2月、NVIDIAやマイクロソフト、アマゾンなどから計6億7,500万ドル(約100億円)を調達している。そしてOpenAIと共同で、ヒト型ロボット用の生成AIを開発するという。

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ロボティクスの分野は大きな転換点を迎えようとしている。かつて不器用だった人型ロボットたちは今、複雑な環境のなかでも上手に“手足”を動かせるようになった。複数のスタートアップ関係者が、倉庫や工場での作業を担当できるロボットが完成しつつあると語る。

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