クボタの建設機械事業が成長している。米国のインフラ投資を追い風に2023年12月期の建機売り上げは6000億円を超え、5年以内の1兆円達成が目標だ。けん引役は独自開発の小型建機。米キャタピラーなど大手との正面からの勝負を避けつつ、市場を開拓する。農機にも共通する、小兵ならではの生き残り戦略が奏功している。

米カンザス州サライナ市のクボタの建機工場では急ピッチで生産設備の増強が進む。22年10月に量産を始めたばかりだが、約150億円を追加投資して、24年中に溶接や塗装の設備などを増強する。住宅の建設現場などで使う「コンパクト・トラック・ローダー(CTL)」の生産能力を年間5000台から8400台に引き上げる。

建機需要の拡大は業績をけん引している。

 

クボタの23年12月期の連結売上高(国際会計基準)は前の期比13%増の3兆207億円だったが、建機は6411億円と27%増えた。22日に大阪市内の本社で開いた株主総会で、北尾裕一社長は「建設機械は北米やアジアなどでポテンシャルが高く、クボタを支える中核の事業になる」と語った。

「非主流」のCTL、米で市場創出

米国で販売を伸ばしているCTLはクボタの戦略を体現する製品でもある。10年の発売当時、米国では整地や土砂運搬に使う小型建機ではタイヤ駆動の「スキッド・ステア・ローダー(SSL)」が主流だったが、クボタはベルト式のクローラー駆動のCTLを投入した。「スリップしてしまうタイヤ式より押す力が強い」(建設機械事業部長の湯川勝彦・専務執行役員)とみたからだ。

クボタは日本で培った小型建機のノウハウで旋回性能や走破性を高め、「北米のCTL市場を引っ張ってきた」(湯川氏)。足元の需要は年間10万台規模となり、3万台ほどのSSLを逆転した。市場の拡大を受けてキャタピラーや農機最大手の米ディアもCTLに参入してきたが、小型では一日の長があるクボタが販売を伸ばしている。

もう一つの主力建機「ミニバックホー」もクボタらしい製品だ。6トン未満の小型のショベルカーで、クボタが海外展開を本格化した00年ごろには米国には市場がほとんど存在していなかった。当時はショベルと土砂運搬機を一体化したタイプが主流だったが、クボタは旋回性能の高さなどで需要を開拓した。

小回りが利く小型ショベルカーで米国の需要を開拓してきた(クボタ提供)

クボタが小型建機に集中するのには歴史的な背景もある。1953年に建機に参入し、大型ショベルなどに製品領域を広げたが、国内メーカーでは後発だった。コマツなどの競合がひしめく市場でシェアを獲得できず、73年には小型建機に集中する方針を打ち出した。その後も赤字体質で90年代には撤退も噂されたが、海外展開で活路を見いだした。

国内トップが定位置だった農機でも、大陸育ちの米ディアなどと比べれば、クボタは小型に特化した企業だ。そして、自動車では大型車ほど利幅が大きいように、農機や建機でも大型のほうが利益を出しやすい。クボタの売上高純利益率は前期で7.9%だが、ディアとキャタピラーは15%を超える。一方で、「採算確保が難しい小型機械に特化しているからこそ、巨大企業にも飲み込まれない」(湯川氏)というメリットもある。

 

海外大手と正面からの勝負を避けつつ需要を開拓する。クボタの成長戦略は小回りの利く機械という強みを生かせる市場を見つけ、育てることが基本だ。北尾社長は「地下水脈型で周辺領域を伸ばしていく」と説明する。既存事業と技術面などでつながりのない「飛び地には行かない」。

コンピューター事業の失敗が教訓

クボタ経営陣には、飛び地に降り立つ「落下傘型」事業の失敗が刻み込まれている。水道管に使う鉄管とトラクターに次ぐ「第3柱」としてコンピューター事業を育てるため、クボタは86年に米ベンチャー企業に出資した。しかし、出資先が内紛で分裂するなど誤算が続き、94年に一部を残して事実上撤退した。吉川正人副社長は「知らない領域に入っても、うまくいかない。身に染みて理解した」と語る。クボタの米国向け売り上げは23年12月期で前の期比15%増の1兆1153億円だった。家庭や果樹園向け農機の存在感も大きいが、小型建機の拡販で成長を狙う。米国の小型建機市場では米ボブキャットが首位で、シェアが2割ほどのクボタは2位グループだ。北尾社長は「30年にシェアを30%にしてトップになる」と語る。農機で大手と戦う足場を固めるためにも、建機での着実な成長が欠かせない。