中国が住宅バブル崩壊の後始末に悩まされている。在庫の積み上がりと販売不振が重なり、売り切るのに必要な月数は単純計算で60カ月を超えた。生活の豊かさを映す「居住面積」は日本や英国といった先進国の水準に達し、人口減も相まって実需は減少に向かう。中国勢による建築資材の「爆買い」から「安値輸出」へ――。世界も新たな摩擦に身構える。

「110平方メートルが22%引きの62万元(約1270万円)。本当に購入してもらえるなら、もっと値引きします」。中国西部の四川省南充市。経営難に陥ったマンション開発大手、碧桂園控股(カントリー・ガーデン・ホールディングス)が在庫物件の換金売りを進めている。「遼寧省瀋陽では1平方メートル当たり3000元安の8300元」。情報サイトやSNS(交流サイト)では値下げ情報が飛び交う。

市場の飽和が激しい値引き合戦を生んでいる。住宅の建設面積から販売面積を差し引いて「在庫」を試算すると、2023年末で50億平方メートル近くにのぼる。1戸当たりの面積を100平方メートルとし、3人が住むと仮定すると5000万戸、1億5千万人分もの在庫がある計算だ。

建設ラッシュは2020年の規制強化で鎮静化した。それでも在庫が減らないのは販売不振によるところが大きい。23年の販売面積は9億4000万平方メートルと、ピークだった21年(15億6000万平方メートル)より4割減った。需要の減少で問題解決は逃げ水のように遠のいていく。

販売減は不動産会社への不信感、投機による需要の先食いが響いている。続いて人口減がのしかかる。住宅の1次取得層である30代の人口は20年には2億2千万人を超えていたが、35年は1億6千万人を割り込む。米ハーバード大学教授のケネス・ロゴフ氏などの研究では、35年にかけて都市部の新規建設は年率3%のペースで減少する。

もう一つの理由がキャッチアップ時代の終わりだ。中国が改革開放にかじを切った1978年、1人当たりの住宅面積は8平方メートルに過ぎなかった。「より広く、快適な住宅を」。根源的な欲求が人々を住宅購入に駆りたてた。足元で面積は40平方メートルを超え、日本や英国と肩を並べた。

住宅不況は地方経済を直撃する。地方政府が実施する土地使用権の入札では不調が続く。在庫過剰の不動産会社が入札に参加しなくなったからだ。主要な収入源を失った地方政府は、傘下でインフラ整備を手掛ける「融資平台」の過剰債務に苦しむ。中国人民銀行(中央銀行)は追加の金融緩和に踏み切ったが、住宅需要の掘り起こしには力不足との見方が多い。

住宅余剰は国際商品市況に下落圧力をもたらす。住宅投資は22年春以降、大幅な前年割れが続く。主要部材の棒鋼や銅の先物価格は住宅投資に連動しやすい。

銅は電気自動車(EV)向けなど脱炭素需要が増えている。中国住宅向け需要の減退で価格高騰が抑えられれば、脱炭素目標の達成に追い風となる。一方で世界は中国勢が国内余剰の建築資材を安値で輸出することを警戒する。

中国の上場鉄鋼45社の23年1〜9月期決算をみると8割近くで最終損益が赤字か減益だった。中国鋼鉄工業協会によると23年の鋼材輸出は9000万トンと前年より2000万トン以上も増えた。譚成旭副会長は「輸出の伸びは供給過剰を緩和した」と話す。

メキシコは中国を念頭に鉄鋼や関連製品の関税を引き上げた。安い中国製品の流入で自国産業の競争力が奪われかねないからだ。中国はアルミやセメントでも大きな生産能力を持つ。住宅バブル崩壊と過剰在庫がもたらす悪影響は、もはや「中国の国内問題」とは言えない。