JR東海は2023年12月14日、「中央新幹線品川・名古屋間の工事実施計画(その3)及び変更の認可申請について」とのプレスリリースを発表した。駅や車両基地の建築などの認可を求めたことが明記され、これでリニア中央新幹線の建設に必要な認可項目は全て申請済となった。

ちなみに12月28日、申請は国土交通大臣から認可された。いずれにしても、これだけなら大きく報道されるような内容ではない。ところが、中京圏の愛知、岐阜、三重の3県をカバーするCBCテレビ(中部日本放送)は速報を流した。翌日の新聞にもJR東海の発表を伝える記事が掲載された。なぜ、これほど注目を集めたのか。担当記者が言う。 「JR東海は品川・名古屋間の開業時期を『2027年』から『2027年以降』に修正したのです。JR側は『27年の開業を断念したものではない』と説明しましたが、変更の理由についてプレスリリースには《南アルプストンネル(静岡工区)のトンネル掘削工事に未だ着手の見込みが立たない状況を踏まえ》と明記されています。メディアは開業のメドがついていない状況を詳報しましたが、原因は言うまでもありません。川勝平太・静岡県知事(75)が着工に反対の姿勢を示しているため、開業時期が延びてしまったのです」  その川勝知事は10月10日の定例記者会見で、リニア問題に関して「解決策を出せる」と豪語した。その発言が今になって改めて問題視されている。  それではまず10月の会見を振り返ってみよう。実のところ、川勝知事は理路整然と解決策を示したわけではなかった。当初から迷走に迷走を重ねていたのだ。

急に飛び出した豪語発言

 地元テレビ局の記者が川勝知事の任期が2年を切ったことに触れ、「知事の任期中に静岡工区の問題を解決することは不可能だとお考えでしょうか?」と質問した。 「すると川勝知事は『静岡空港のことを言われましたね?』と記者に的外れな確認を求めたのです。記者は『静岡工区です』と答えたのですが、何を思ったのか知事は延々と静岡空港の話を続けました。しばらくするとリニアの話題に戻ったのですが、今度は南アルプスの自然保全について語り、JR東海は保全についてどう考えているかという話をするばかりでした。ようやく終わりを迎えましたが、全く回答になっていません。きっと記者は困ったのでしょう。もう一度、同じ内容の質問を、今度は別の表現で繰り返しました。すると突然、知事が問題発言を口にしたのです」(同・記者)  川勝知事は「これは大きなビッグ・イフですけど」と前置きした上で、「もし私がJR東海の意思決定者であれば、現在の川勝と膝を突き合わせて話して、その場で解決策を出せるという自信はあります」と発言したのだ。  記者が「その自信はどこから来るのでしょうか?」と冷静に質問すると、知事は「現状を分析しているからです」と胸を張った。

まさかの建設反対論

「『一体、解決策とは何を指すのか?』『ルート変更のことでは?』といった憶測が乱れ飛びました。重要な発言ですから、知事のチェック機能を担う県議会が動きました。12月12日に開かれた議会で、発言の真意について説明が求められました。ところが川勝知事は、『JR東海との対話を速やかに進めるために、丹羽俊介社長に強いリーダーシップを持って取り組んでほしい』という趣旨の発言だったと回答したのです。そんな言い分が通るはずもなく、県議は『具体的な妙案があったのか?』と再質問しました。ところが、川勝知事は逃げの姿勢に終始したのです」(同・記者)  なぜか川勝知事は「静岡県は一貫してリニアに賛成している」と主張している。開業を目指して沿線の都府県で作る「建設促進期成同盟会」にも2022年に加盟した。 「ところが、川勝知事はエネルギー価格や建設資材の高騰などに触れ、2011年に国土交通省がJR東海にリニア建設を認可した時とは状況が大きく異なっていると指摘。『いったん留まって改めて考え直す必要がある』ため、JR東海の丹羽社長と話し合いたいとも発言しました。解決案について説明しないどころか、建設反対を明確にしたとも受け取れます。あまりに矛盾の多い答弁なので、県議は知事に対して『軽々しくいろいろなことを期待させるようなことを言う』と苦言を呈しました」(同・記者)

議長も知事に“厳重注意”

 ところが、ご本人は馬耳東風。最後は「自分はJR東海の意思決定者ではない」と言い、「従って私がそれを言うのは失礼であるというか、資格がないと思っています」と開き直ってしまった。これには議場から失笑が漏れたという。  静岡県議会には「再質問は2回まで」というルールがあり、不完全燃焼のまま論戦は終了してしまった。だが、その後、議会運営委員会が知事の答弁を問題視し、知事の再答弁を決定。議長も知事に「分かりやすい答弁を求めているにもかかわらず、明確な答弁をされない。これは議会軽視だ」と厳しく注意する事態に発展した。 「川勝知事は再答弁で、山梨・神奈川間の“部分開業案”が解決策だと説明します。これには県議だけでなく、地元記者も強い違和感を覚えました。確かに部分開業案が知事の持論だった時期はありました。ただ、車両基地や指令設備等の多くの設備もセットで完成させる必要があるなど実現のハードルは極めて高く、JR東海は部分開業を明確に否定しています」(同・記者)  部分開業ではJR東海の掲げる「大動脈輸送の二重系化」という、中央新幹線のそもそもの目的が果たせない。 「加えて2022年11月、知事はリニア実験線に試乗し、記者団に対し『部分開業は困難だ』との認識を示しました。それが一転して県議会で再び部分開業を持ち出したのです。直前に『私がそれを言うのは失礼であるというか資格がない』と発言しましたが、知事は過去に何度も部分開業を主張しています。『失礼であり資格がない』という発言とは整合性がないと言わざるを得ません。地元記者が『これは問題だ』と考えたのは当然でしょう」(同・記者)

質問に答えない知事

 12月13日の知事の定例記者会見に、地元メディアは厳しい姿勢で臨んだ。まず地元テレビ局の記者が「去年、知事は『部分開業はできない』という考えを示した。1年で考えが変わったのか、なぜ部分開業を県議会で言及したのか?」と鋭く追及した。 「川勝知事はいつものように延々と喋り続けました。真意を汲み取ることは非常に難しかったのですが、『変電所を作ればいい』ということは口にしたようです。その後も迷走は続き、記者が『リニア建設を改めて考え直す必要がある』との発言は、期成同盟会の趣旨に反するのではないかと質問しても、知事は生態系の話しかしません。記者は『質問と回答が噛み合っていないのでもう一度聞く』と言わざるを得ず、別の記者も『部分開業が無理なら他の一手はないのか?』と加勢したのですが、やはり知事は南アルプスの自然について熱弁を振るうだけです。その記者も『少し質問と回答が食い違っている』と指摘しました。いみじくも自治体トップの会見で、ここまで滅茶苦茶なやり取りはないでしょう」(同・記者)

地元紙も読まない知事? 

 ひょっとすると川勝知事は、自分にとって都合の悪い質問はピント外れの熱弁を振るうことで煙に巻こうとしているのかもしれない。  だが、やはりその推測は間違っている可能性がある。何しろ川勝知事は、自分にとって歓迎すべきニュースでも感度が低いのだ。 「12月12日、JR東海の丹羽社長は都内で会見を開き、来春の東海道新幹線のダイヤ改正で東京発下りの『ひかり』の静岡、浜松両駅への停車本数が、それぞれ1日1本増える予定だと発表しました。翌13日、地元紙の静岡新聞も第2社会面で丹羽社長の発言を伝えました。定例会見が行われた日の朝刊に載った記事ですから、新聞記者が川勝知事に受け止めを尋ねました。ところが知事は『それは今初めて聞いた』と答えたのです。知事は新聞も読んでいないのかと呆れる声が出ています」(同・記者)

静岡県民に顔向けができない状態が続いている。