早いもので、オコエ瑠偉が楽天に入団して4年が経った。今年プロ野球では、彼と同世代の大卒選手が入団しています


 2015年夏の甲子園。50メートル5秒9の快足と広い守備範囲と強肩、そして勝負強い打撃で関東一高のベスト4進出の原動力となったその身体能力は、観衆をくぎ付けにした。甲子園での活躍で「将来のスター候補」と呼ばれるようになったオコエは、一躍、ドラフトの上位候補となった。

 ドラフトで楽天から1位指名を受けて入団。プロ1年目は高卒ながら開幕一軍を果たし、51試合に出場するなど、誰もがオコエの将来に大きな期待を抱いた。

 しかし、それから3年。オコエはいまだレギュラーの座をつかんでいない。試合数も毎年50試合前後で、2年目の2017年に規定打席未到達ながら打率3割を記録したが、それ以外はすべて1割台である。昨年も52試合に出場し、打率.182、3本塁打、5盗塁と振るわなかった。

 それでもオコエは下を向くことはない。「いまだに身体能力に頼っている」という批判を受けようとも、「自分、まだまだヘタクソですから。数字だけを見れば、誰だってそう思うじゃないですか」と、笑みを浮かべながら飄々と振る舞っている。

 決して自嘲しているわけでも、楽観視しているわけでもない。オコエのそれは、根拠のある笑みなのだ。

 昨年のシーズン終盤、オコエは自分の未来を見据えるように、こんな話をしてくれた。

「周りは自分のことを『何も考えていない』とか言うじゃないですか。なんでそう言われるかというと、結果を出していないからなんです。たしかに結果は出ていませんけど、自分としては悪い方法には進んでいないって思えるんです。だから、いろんなことにトライできると思っていますし。そういう意味では、今年はいい経験をしました」

 2018年までのオコエは、どちらかと言えば打撃フォームの修正や改善といったように、技術向上に重きを置いている印象があった。それが昨年は、視野を広げ、他者の意見も精力的に吸収するように努めた。



大きなきっかけは2つあった。

 ひとつは、約3カ月の二軍生活である。この期間、オコエは三木肇二軍監督(今季から一軍監督)や打撃コーチをはじめ、首脳陣たちとの会話を重ねた。そこでオコエは原点回帰したのだという。

「今までホームランしか狙ってなかったんだなって思わされたというか......三木さんとかコーチの方たちと話をして、『お前はそういうタイプのバッターじゃないだろ。まずは打率を上げることを考えて練習に取り組んだほうが、お前の持ち味でもある足を生かせるだろう』って。目指すものができたっていう気持ちになりましたね」

 たしかに、この助言を踏まえて言うならば、オコエは「打席で力んじゃうです」と漏らすことが多かったような気がする。

 これまでトップの位置や足の上げ方、それらと連動したタイミングの取り方など、オコエは頻繁にフォームを変えてきた。その都度、いい手応えをつかんでいたものの結果が伴わなかったのは、無意識のうちにホームランを狙っていたからだった。

 この二軍での3カ月が、オコエの思考を柔軟にした。

 そしてもうひとつ、オコエにとって大きかったのが、FAで楽天に移籍してきた浅村栄斗の存在である。オコエ曰く、一軍にいる期間は「ずっと付きまとっていた」そうだ。浅村と過ごす時間のなかで、オコエは自己分析する大切さを学んだ。

「別にヒデさん(浅村)にいろいろ聞きまくったわけじゃないんです。でも、たまにしてくれるアドバイスだったり、ちょっとした会話のなかで『ヒデさんって、こんなことを考えながら打っているんだ』と感じられるだけでも勉強になるんです。だから、自然とヒデさんのそばにいる時間が多くなるというか」

 浅村は、西武時代の同僚で2年連続本塁打王の山川穂高の技術を引き合いに出すこともあれば、カウント別で狙い球について解説してくれることもある。そのほとんどが何気ない会話でのことだというが、そのすべてが知識となった。

 そのなかでオコエに響いたアドバイスがあった。それは浅村が身上としている、シンプルだが打者にとって不可欠な姿勢でもある。

「どんどんバットを振れ。空振りだろうがミスショットだろうが、振っていかなきゃ意味がないし、何も始まらない」


技術、知識、経験が豊富なプロだからこそ、時に思いきりのよさが失われる。オコエもまた、そんな自分を認識するように、浅村からのアドバイスを体にしみ込ませた。

「本当にそうだなって思うんです。年々、相手からの攻めが厳しくなっていくなかで、自分は考えすぎてバットが振れなくなったり、振ったとしても力んだり、変なスイングになったり......。結果的に、ピッチャーのクセがわからないと振れないようになっていた部分があって。でも、ヒデさんの言うとおりなんですよ。どれだけ技術的な練習をしても、その形で振れないと意味がないので」

 そう一気に言葉をつないでから、オコエはフッと息を吸い、声を張った。

「自分、もう迷わないっすから!」

 その話を聞いた直後の10月、オコエは有言実行を果たした。

 ソフトバンクとのクライマックス・シリーズ(CS)ファーストステージ初戦。オコエはソフトバンクの絶対的エースである千賀滉大から本塁打を放って見せた。見逃せばボールの高めストレートを迷いなく振り抜いた。

「千賀さんクラスのピッチャーは割り切っていくしかないでしょう。迷いはなかった。ストレートだったら振ろうと思ってスイングしました」

 浅村からのアドバイスを忠実に実践した一発だった。もちろん、その姿勢は今年も変わらない。

 レギュラー獲りを目指すオコエだが、外野手争いは熾烈を極めている。1億円プレーヤーとなった島内宏明をはじめ、2018年の新人王・田中和基、昨年のドラフト1位・辰己涼介など、ポジションを勝ち取るのは容易ではない。

 それでもオコエに迷いはない。その決意をグラウンドで示す時がくる。