抵当権の順位とは、優先弁済が受けられる利益をいいます。
 順位の変更も譲渡も同じくこの優先弁済の利益について変動するものなので条文をみるだけでは違いがわかりにくいでしょう。
 そこで、次のような具体例を使って検討してみましょう。
 
 【事実関係】
 A:抵当権設定者
 B:第1順位抵当権者 300万円
 C:第2順位抵当権者 400万円
 D:第3順位抵当権者 500万円
 それぞれ上記金額の金銭債権についてA所有の甲土地に抵当権設定を受け登記しており、最終的に甲土地の売却価格を600万円とします。なお、他に利害関係人はいないものとします。
 この場合に順位の変更と譲渡でどのような違いがあるか検討しましょう。
 
 
 ①変更の場合
 例えば、順位をD,C,Bの順に変更するとします。
 この場合に、それぞれが抵当権を実行して甲土地から受けられる弁済額は、単純に順番が入れ替わるだけなので、D:500万、C:100万、B:0となります。
 
 ②譲渡の場合
 順位の譲渡は、優先弁済を受ける利益について譲渡することですから、BがDに順位を譲渡した場合には、自らの被担保債権300万について優先弁済を受ける利益を譲渡することになります。
 したがって、抵当権が実行された場合に得られる弁済額は以下のように計算されます。
 まず、Dは300万について第1順位で優先弁済を受けます。
 次に第2順位のCが300万について優先弁済を受けます。
 まとめると、B:0、C:300万、D:300万となります。
 
 このように、Cの立場では順位を変更したのか、自分より優先順位が高い者から低く者へと順位が譲渡されたかでは、担保価値に大きな違いが生まれる場合があります。
 順位の譲渡は、あくまでも譲渡人の利益の範囲で優先弁済の利益が動きますから、優先弁済を受ける順番、言い換えれば「誰が」という点は、順位が劣後する抵当権者の立場でも問題にならないわけです。
 
 しかし、順位を変更する場合には、自分の順位自体は動かなくても、被担保債権の価額が大きい人間が自分の前にくると自らの抵当権の順位の価値が大きく下がる可能性があるわけです。
 上記の例でいえば、CはBがいても400万の債権のうち大部分の300万は回収できる見込みがあるからこそ、第2順位でも抵当権を設定して担保を得る意義があったわけです。しかし、そこにDというBの抵当権が消滅する可能性にかけて大きな額の債権の担保を取ろうとする人物が現れます。
 こんな担保価値が残ってないものにまで抵当権を設定するということは、Aはいよいよ財産状況が破綻寸前といえそうです。したがって、Aの財産に対する担保は一層重要になります。
 このような場合に、Cは順位の変更に同意するでしょうか。
 順位の変更の場合には、この例からもわかるように、それぞれの被担保債権の価額が違うわけですから、「誰が」自分の前にくるかによって、自らの担保の価値が大きく変動してしまうわけです。
 順位の変更と順位の譲渡のこの違いは、「順位の変更には抵当権者全員の合意と利害関係人の承諾が必要である」という順位の変更の手続き的な要件にも表れています。
 
 その他にも、一般債権者との関係で違いがあります。
 順位の変更はあくまでも抵当権者間で優先弁済を受ける順番を入れ替えるものです。
 一方で、順位の譲渡は条文の文理上一般債権者に対しても可能です。
 例えば、一般債権者E(債権額400万)がいた場合に、Bは順位を譲渡できます(=300万の優先弁済を受ける利益を譲渡できます)が、Eは抵当権者ではないので順位の変更によって優先弁済の利益を得ることはできません。