(抜粋)
「神の手」の話と同じ要領でそれを一種の均衡点と解釈して、物事がそこで定まるとするならば、それはこの経済世界を事実上一枚のグラフで表現できることになるのではあるまいか?

それはある意味でケインズの本意ではなかったかもしれない。実際、ケインズ自身は経済世界とはそのように需要と供給の均衡で安定して定まるほど安易なものではないと考えており、そのように解釈されることは、むしろ彼が嫌った世界観の中に無理やりはめ込まれてしまうに等しい。

しかしたとえそうであったとしても、資金の移動の縦方向と横方向を扱う最重要な二つのコア領域から2本の曲線を持ってきて、その組み合わせで経済の中枢部を本当に表現できるとすれば、それは人類がこれまで手に入れた中で、最もコンパクトに経済世界の真髄を記述するツールとなり得る可能性を秘めていることは事実なのである。

そう考えれば彼らの当時の興奮もわかろうというもので、実は読者も現在まさに当時の彼らと同じ体験をしているのかもしれない。それはともかく、彼らが当時この曲線を経済学の真髄であると考えてそれを熱狂的に支持したという事実は、まさにわれわれの「二点の重要ポイントを突破すれば経済学は理解できる」という主張を裏付ける、何よりも有力な証拠となっていると考えられるわけである。


(コメント)
「ケインズ自身は経済世界とはそのように需要と供給の均衡で安定して定まるほど安易なものではない」ということのエピソードほしいところだ。