(抜粋)
金銀貨1 回の往復で必ずその1 0 %が貯蓄として裏庭に埋められ、次の往復ではその都度前回の9 0% に循環量が目減りするとしよう。この場合、金貨も銀貨も等しくその比率に従うであろうから、銀貨の経済効果累計も、2回目の往復では9 0 % 、3 回目の往復では8 1 % 、という具合に減っていき、その最終的な合計を求めればよいことになる。

つまりこれは1 + 0. 9+ 0 .8 1+ ・・・という等比級数の和になり、公式集をひっぱり出して計算すると、それは10という値になる。つまり例えば最初に1 億円分の銀貨を注ぎ込んだとするならば、その経済効果の累計すなわち銀貨で買われた品物のプリントアウトの数十年間での金額合計値は、最終的に1 0 億円程度ということになる。( なお等比級数の公式を眺めると、この「10 」という数字は、貯蓄にどのぐらいの比率の金が回ってしまうかの数字の逆数として求められることがわかる。)

さすがに無限大というわけではなかったが、それでも最初に外からバケツで注ぎ込んだ資金の10倍もの経済効果が生まれるというなら、これはやはり大したものである。そしてこの効果もケインズ学派によって初めて理論的に明らかにされたのであり、その当時の多くの経済学者に、盲点を突かれたような大きな衝撃を与えた。

それゆえこの効果は「乗数理論」の名で呼ばれていて、ケインズ経済学を理解する重要な柱である。さてこうなってくると、政府の金でピラミッドやらダムやらを作ったりすることは、もう失業者に一日分のパンを買う賃金を与えてやるどころの話ではなくなってくることがわかるであろう。そうやって政府がバケツで流し込んで彼らに与えられた賃金は、最終的にその数倍の経済効果を経済社会全体に及ぼして、その規模を拡大することになるのである。

(コメント)
政府が公共事業を実施する。労働者は賃金をもらい使用する。そうすると抜粋した説明だと1億円投入したとすると10億円分の取引が実施されるということを示していて、それは貯蓄を前提に考えられている。それを乗数理論というので示すことができるということだ。

貯蓄という行為がある限り石の上にまかれた水は蒸発してしまう。その蒸発の仕方が焼け石に水のようにすぐ蒸発してしまうのか、それとも多少曇ったりして太陽が隠れる時間もあってゆっくりとなくなっていくのかの違いにより効果が違うようである。

でも一時的に経済の規模がおおきくなるにせよ貯蓄に最終的に回ってしまったら収束してしまうわけで、公共事業直後は一時的にでも経済の規模が大きくなるが乗数理論の説明されると恒久的に続くものではないような気がする。