君と僕の物語 (第三話) | 若宮桂のブログ・空と海がぶつかる場所
今朝の4時頃だったか、ひどい手の痒みで目がさめた。

そういえば、あいつも晩年はよく痒がって、後足で躰掻いてたな。
そんなことを思い出し乍ら、今日は休みだ。もう少し眠った。

午後に、ようやく雨は上がった。

久しぶりに飯盛神社へ御參りすることにし、出かけた。

この神社は自宅のベランダから見える飯盛山の麓にあり、由緒あるところだ。

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……6年前。2005年9月のことになる。
妹は、この数ヶ月前に何もない地下鉄通路で何故か転び、腰の骨にヒビが入って入院していた。
入院先の病院で、あいつのことをいつも心配していた。
あいつ―自分の最後の飼い猫のめっしゅクンは、年老いて歯も悪くなって食も細り、すっかり痩せてしまっていた。

ある日、急に容体が悪くなった。
トイレに行こうとして、猫トイレの仕切りを乗り越えられなかった。
そして、その場で失禁した。
あの日の申しわけなさそうな顔を忘れない。
もうほとんど立てないようだった。

出会ったときにはすでに成猫だっためっしゅ。
長生きだったので賢い猫だった。自分等の会話もたいていは理解していたようだった。
この家で一緒に暮らすようになってもう10年経っていた。
15年くらいは生きたのだろうか?
腎臓も弱り、行きつけの病院に入院させ、体の血を全て入れ替えるなどして手は尽くしていた。年を取り、もう仕方のないことだった。

入院中で居ない妹の布団の上に、尿がジェル状に固まるシートを置いて寝かせ、隣で寝るようにした。

数日後、早朝にふと目が覚めると、もう息をしていなかった。

入院していた妹に告げると、泣いた。

自分も、ショックだった。
仕事で大きなミスもした。
当時招待制だったmixiで日記を書いてみないかと誘われたけど、何も手につかず、断った。
それで、mixiを始めたのは、半年後の翌年4月からになった。
mixiをはじめた頃、ニックネームを「msh」と、めっしゅの名前を略したものにした。




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……今日はあいつの命日。もう6年にもなるのか。

カラカラと、鈴を鳴らす。
奥から、祝詞(のりと)が聞こえてくる。

遅くなったけど、飯盛山にも久しぶりに登ろうか。

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雨ニモマケズ

風ニモマケズ

雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ

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積木ヲ積ミアゲテハ崩シ

マタハ崩サレ

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残骸ニナッテモ

決シテマケズ

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山頂だ。少し雨が降ってきた。

自分の人生のラストシーンには、何が待っているだろう。

最後まで、この山の土を踏み締めることができるだろうか。

最後まで、何もかも憶えているだろうか。

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……2006年9月27日のはなし。
あの日も、こんな風に山に登った。
この飯盛山とは連山になっている、職場近くに登山口がある叶ヶ嶽だ。
当時はこんな軽登山の趣味などなく、仕事の深夜勤明けに軽い気持ちでなんとなく登ってみたのだ。
徹夜明けだったし、大変だったけど、とても充実した気持ちで下山し、帰宅した。
この日の体験から、軽登山という趣味が新たに加わった。

帰宅してひとり、横になっていると、風呂場の前あたりのフローリングの床からカチカチと音がするのが聞こえた。
行ってみると、ずっとカチカチ音がする。
もう彼岸は終わっていたけど、あいつが帰ってきたんだなって思った。
だってさ、。
あいつの後足は爪が伸びていて、それが床板に当たってカチカチ音を立てて歩いていたから。

あいつが愛用してた器で水を汲み、床に置いたら急に音は止んだ。
水飲んでるのかな。

あの日が最後だったな。
あいつの足音聞いたの。

今日はあいつの命日。

時々、こんな風に山へ行きたい。
山の近くの神社へ御參りしたい。

御參りして、帰宅したら、あいつが待っていてくれるかもしれないから。

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お気に入りの場所 軒下の冷たいコンクリート
夜は星見上げ君と過ごした日々 思い出す

人見知りの僕 誰からも愛される君
対照的だけど いつもどこでも一緒だった

ある日、君がいなくなった みんな心配をしていた
どこへ行ってしまったの? なにも言わずに

君を探した 昼寝をした屋根の上 塀を越えた抜け道
君はいなくなった 僕をひとり、残して

お気に入りの場所 ママのひざの上 温かいな
心地いい眠気が 夢の世界へ連れてゆく

あの頃みたいに 駆け回ったりもできるんだ
君と競争した あの路地や森への迷路

目を覚ますとそこに 君はいるはずもなく
どこへ行ってしまったの?なにも言わずに

君を探した かくれんぼした草むらも 大きな駐車場も
僕は年をとった 君を、探し続けて

目も耳も悪くなって 身体も思うように動かない
君が帰ってきたら したいことが沢山あるのに

君を探した 昼寝をした屋根の上 塀を越えた抜け道
君はいなくなった 僕をひとり、残して

君を探した かくれんぼした草むらも 大きな駐車場も
僕は年をとった 君を、探し続けて

君を探した 戻らない日々の面影 薄れる君の記憶
僕は年をとった 君を想い続けて

僕は今も探してる

君の姿探してる

作詞作曲、吉崎硝子。「君と僕の物語」より。

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吉崎硝子さんの楽曲を聴いていて思い出した、ちいさなちいさな、いのちの物語。
最後までお読みくださってありがとうございます。

「君と僕の物語」は不定期で連載しています。

第四話は、また後日。

ではまた。