【幻惑酒場の誘惑】❹ 稀守池實
昼間からウーゾを抱えて、海岸脇のオープンカフェでエーゲ海を見つめながら天真爛漫に飲んでいるギリシア人を見て、ふと心配になった。欧米に見捨てられないだろうか。いらぬ心配だ。一緒に飲んで楽しむしかない。
かつて長崎に行ったとか、横浜、神戸、東京・・・船員も多かった。
「日本人の女性は、最高だった。長崎も良かった。神戸も良かった。また行きたい」
女の話になって興に乗ってきたが、僕たちは、どうでもいい話を早々に切り上げた。
因みに、いくつかの島に行ってタクシーに乗ったが必ずと言っていいほど運転手が言う、
「おお日本人か、遠いところをよく来た。教えてあげよう。あの神話のイカロス、蠟で固めた翼で太陽に向かって飛んだが、蝋が融けて落ちてきた島は、ここなのだ。イカロスの神話の島へようこそ」
いったい本当は、どの島に落ちたのか。他の島でも聞いた話に僕たちは、返事をする。
「すごい島に来た。教えてくれてありがとう」
パトモス島の港の突端にそのバーはあった。ディスコバーコンソラートと言う、日本語に訳せば領事館と言うディスコがあった。
いたってシンプルな空間だった。長いバーカウンターと自由に踊れる広いステージだけがあった。
バーテンダーが話しかけてきた。
「ヤポネ!日本人のカクテルがあるけど御馳走しようか」
「なんていう名のカクテルだい。頂戴」
「これさ」
差し出した物はカクテルと言うよりは、ストレートグラスに並々と注いだ透明の酒だった。
ギリシアでは、甘味がある、氷を入れると白濁するギリシアの蒸留酒「ウーゾ」を良く飲んでいた。
ウーゾではないと言うその酒を一気に飲み込んだ。頭にカット血が昇った、走り出したくなった。きっとストレートのジンだ。
「ウーゾじゃないそのカクテルはなんていうのか」
尋ねたら、そのバーテンダーは、
「カミカゼさ」
なんと神風と命名されたカクテルがあった。
その一杯で一気に酔いが回った。
ウーソみたいなほんとの話し。なんとなく複雑な気分になった。日本人の男は、特攻隊とみられていたのか。いい気分には酔えなかった。
❺ー➁に続く





