36.彼は秋葉系
お客さんにいろんな人がいれば、同僚にもいろんなタイプの人がいる。
宮出くんが座席につくのが見えた。
宮出くんがどんな人なのかというと…
・少し太っていてメガネをかけている。
・少し汚れたベージュのズボンに型の悪いチェックのガラのシャツ。
いわゆる秋葉系と呼ばれるタイプの人である。
サクラのバイトは「パソコンによる入力系の仕事~」というふうに募集してるので、
パソコンによる~の文言にひかれて「我が職を得たり」と、秋葉な人達もやってくるのである。
しかし、
沙都子(宮出)→のぶお(1385pt) 「それでどんなアニメとか見てるのかな(汗」
のぶお(1350pt)→沙都子(宮出) 「アニメって例えばどういうの?」
沙都子(宮出)→のぶお(1350pt) 「『おねえさまへ』とか『アリ見て』とか百合系なんかどうかな!?『百合兄弟』とか雑誌もみてるし(^^;」
のぶお(1315pt)→沙都子(宮出) 「『おねえさまへ』とか知らないな。アニメとか好きなんだね(^^;」
彼(ら?)の特徴は、アニメなど自分の趣味の話になると、ここぞとばかり濃い内容のメールを書き、本音では『女の子と会いたい』と思っている客の気持ちにを察するのがお留守になっているような感じがするところである。
いい歳の男の人で、アニメとか見てる人は少数派だった。
お客さんは会話についていけてない感じだった。
「なーにが『百合兄弟』だろうな?」
突然、太い声があがった。オフィスの隅に陣取っている中村とその一味だった。
「客も『萌えてる』らしいからいいんじゃねー?」
わざと本人に聞こえるくらいの、大きな声でいう。
アハハハと笑う声がひびいた。
女の人の笑い声も混じっていた。
これは、そう、
いじめ
である。
少し宮出くんのほうを見ると、彼は顔を真っ赤にして耐えていた。
こういう人たちは敏感なのである。
以前、宮出くんがわたしの席の近くにいたとき、自分のキャラに返信してくれる客が少ないんだと嘆いていたことがあった。
「僕は実際の恋愛の経験がないんだ。だから、キャラに色気が無いのはいかんともしがたい…。」
というようなことを吐露していた。
わたしはというと、男どうしのやることに何もできなかった。
ただ、何の話をしているのか、聞こえないふりをしているだけだった。
たまに、「今日のはよかったよ。」とかなぐさめを言うくらいだった。
それから、たまにしか宮出くんの姿を見かけることはなくなり、
やがて、すっかり見なくなると同時に、彼のタイムカードも消えた。
あいかわらず、サクラのバイトの出入りははげしい…。