おそらくこの考えというものは僕の立場が変わった時に全く異なるものになるやもしれません。

ですから、決して正しさとか安易な善悪ではありません。

ただ、朧気ながら、今のこの感覚は自分が将来迷った時に必要な気がするので、自らのために書き記します。

 

もう10年以上になるんでしょうか。

ずっと好きなアーティストがいます。

どれくらい好きかと言えばシングルもアルバムもすべて持っていますし、DVDも入手できるものはほとんどすべて持っている、そんな具合です。

コレクター癖なるものがあるために、広く様々なアーティストの曲を聞くということはせずに、限られた少ないアーティストの曲を集めてしまうのです。

 

そのアーティストを僕が好きになったのはデビューしてから少しのことです。

たまたま同級生に勧められて聞きました。

当時は決して皆が知っているわけではないが、名前くらいは聞いたことある人が多数いるレベルで、その時点では「売れている」アーティストでした。

そのアーティストは非常にミクロな世界観と言葉遊びが特徴なのですが、それでいて根本はマクロなのです。

エピソードは偏っているのに多くの人が共感してしまうのです。

彼のそのスタイルにどうしようもなく惹かれてしまった僕はお金がないなりにずっと追いかけてきました。

 

そんな彼は少し前に紅白に初めて出場し、その上同じ時期に大きな映画の劇伴もやります。

もちろんそれまでも売れていたとは言え、そのチャンスでスーパーメジャーの世界に彼らは入っていきます。

名前を聞いたことがあるレベルから、皆が曲を聞いたことがあるレベルに成長するのです。

それはアートという特殊な世界で戦っている人間にとっては願ってもない素敵な状況であるとともに、

ある種の地獄の始まりです。

 

自分が届けることを望んで居ない人間にも届いてしまうから。

誹謗中傷、罵詈雑言が渦巻く世界へのダイブです。

 

届けることを望んでいない人間というのは、残念ながらどんなアーティストにもいます。

というのもそもそもアートというのは「心の学問」であり、その心をもつ人間自体、十人十色様々な人が居ます。

万能薬がこの世に存在しないように、心を救うという意味での万能のアートなんてないのです。

全員に「好き」と言われたらそれはそれは幸せなことですが、間違いなく夢物語でしょう。

ですから、スーパースターダムにのし上がればおそらく対象でない人間にも自分の音楽が図らずとも届いてしまいます。

 

そうなると、様々な意見が飛び交うようになります。

自分たちの事を知らない、知るつもりもない、そんな人間から様々な批評を下されます。

誰もが想像できると思いますが、それはまさに地獄です。

弁明もできないし、批判なんてのもできない。

ただ悪口を受容せねばありません。

結果、そのアーティストのボーカルである彼は変わり始めました。

僕の大好きな彼の音楽がそこから変わっていきました。

 

もちろん大衆映画への劇伴というのはそれまでの「自分達らしさ」と共に「映画に音楽を合わせる」作業が求められますので、それはもちろん音楽の方向性は変わります。

むしろ変えねばなりません。

それまでのように固定のファン以外のお客さんが増えますからね。

とは言え彼は、その点では大成功しました。

誰もが好きになってしまう、思わず口ずさんでしまう、それでいて彼らしい言葉遊びとメロディが織り交ぜられている、という曲を見事に作り上げたのです。

 

問題はそれからです。

その音源が入っているアルバムは実は最新作の一つ前のアルバムなのですが、

その次の最新のアルバムで音楽性が確実に変わりました。

視点が変わったのです。

ミクロな、自分をあたかも蔑んでいて自信の持てない人間が持つ価値観から、上の世界にいる人間の俯瞰した曲が増えました。

 

何もデビュー当時の音楽性を守れという話ではありません。

それはファンとしてアウトでしょう。

押し付けはよくありません。

ですからそれをしたいわけでは無いのですが、

それでも最新の曲が明らかに無理をしているように聞こえてしまうのです。

彼にそのつもりはきっと無いのですし、実際にライブでも「自分が作りたい音楽を作っている」と言っています。

それでも、彼の人間性の延長線にない、むしろそれっぽい音楽を作っているように聞こえてしまうのです。

あちらからすればあまりにも迷惑な意見ですし、どうでもいい話なのですが、僕はそれが辛い。

 

ライブの雰囲気も10年前と比べて変わりました。

彼が明るくなったというかハキハキするようになったといいますか。

中には、彼のMCがうまくなっただけ、という人も居ますが、こちらからすれば元々下手でもなんでもありません。

彼が言葉につまろうとなにしようと、お客さんの僕らは心が動いていたから。

今では彼から言葉がスラスラ出てきても、ごめんなさい、意味はわかるけど心には届かないのです。

 

実は少し前に彼が作ったMV(PV)が話題になりました。

彼が首をつられながら芸能記者に対する批判を歌っているものです。

これが一番のショックでした。

何度も言いますが、彼のその歌いたい気持ちは痛いほどわかります。

ムカつく、なんなら殺したいと思っていると思います。

でも、あなたは売れているのです。

あなたはその歌詞で

あんたのわずかなオマンマのタネに 世間のわずかな娯楽のために 抹殺された人々

というのを言っていますが、こちらからすれば同じなのです。

あなたは売れているから、どんな発言でも影響力があるし、お金になってしまいます。

わたしは別にパパラッチを擁護も批判もしませんが、少なくともあなたは彼らを執拗に批判した歌でお金を得てしまっているのです。

僕らファンがあなたの気持ちは分かっているから同じ様に人を傷つける人にならないで……、と思うのは罪でしょうか……。

 

いずれにせよ、彼が僕を作ってくれた人間の一人だと強く感じています。

ですから彼がなにしようが、どうしようが、感謝の念は尽きませんし、これからも応援していくのだと思います。

簡単に言えば、僕は彼にお金を貢ぎ続けると思います。

彼に求められなくても一方的に支えたいのです。

しかし、今の状況が悲しいと思うのは僕だけでしょうか。

そして、同じ様にスターダムをのし上がろうとしているわたしはこれからどの様に生きれば良いのでしょうか。

 

 

下平