昨年の話になりますが、ある大物アーティストが集客予定数が大きく下回ったことを理由に公演を直前に中止いたしました。

9000人集める、という話だったところ蓋を開けてみれば7000人であったのです。

これに関し、いつものように日本では賛否両論起きるわけです。

と言ってもこの件の批判はその大物アーティストののことを大して知らない方ばかりであったようですが。

わたしはこのアーティストの肩を持ってしまいます。

 

このニュースはまず報道の仕方に問題が有りました。

計量分析の方法を利用した報道ですね。

というのも「9000人集める予定で7000人しか集まらなかった」といえばあたかも予定の80%しか集まらなかったように見えます。

そうするとかなり高い水準にも思えます。

 

ここで、このアーティストの予定していたライブ会場を確認すると、さいたまスーパーアリーナでした。

さいたまスーパーアリーナは国内最大級のアリーナでその最大収容人数は40000人近いと言われています。

とは言え、席が可動式で席数を変えることができるため、その大物アーティストのライブで予定していた最大席数は存じ上げません。

なので、最大席数を簡単に予想してみます。

例えば演劇ですと、一つの公演での最低目標ラインを7割にすることが多いです。

というのもその数字を切ってしまうとスカスカに感じてしまうのです。

逆に7割を越えてくれさえすれば、かなりの密度感/満席感が生まれます。

ですから、予算の黒字ラインもお客様が7割入った場合の数字で作る現場がほとんどとなっています。

 

そのことを参考に、アーティストのライブもある程度の埋まっている感のラインと考え、9000人というのが七割だとしましょう。

そうするとこのアーティストのライブの最大席数は13000人くらいになるわけです。

そして先程の実際に集まったお客様を思い出すと7000人。

いかがでしょうか。

7000/13000人と考えると50%ちょっと、半分くらいしかお客さんがいないと感じてしまうわけです。

そうなると、こんな少ない人数では演奏ができない、と言った彼の気持ちがもう少し分かりやすくなります。

 

もちろん、「7000人も」のファンを無視してライブを中止するなんてありえない、そういった意見もあります。

こちらも非常に難しい問題です。

舞台やライブに行かれたことが有る方はよくお分かりだと思いますが、空いているスペースがあるとそこに会場のエネルギーが吸われてしまうのです。

このことは精神論とかそういった話ではありません。

人数よりも、空いているスペースの方がその作品のパワーを吸ってしまうことなんていくらでもあります。

変な話ですが、満員の中華料理屋さんに行けば繁盛しているな、楽しみだな、と思うのに対して、

誰もいないような店では、ここ大丈夫かな…?となるような具合であります。

つまり、お客さんの%が低いということはお客さま自身の楽しみ度合いも吸い取ってしまうのです。

単なる演じる側のモチベーションの問題ではないのです。

 

ライブであろうが、演劇であろうが、建前でもなんでもなく「お客様と作品を作る」の第一歩はそこから始まります。

そしてこれが一番むずかしいことなのです。

人を予定通りに集めることが一番大変なのです。

だからプロデューサーという職が世界には存在します。

商品を商品たらしめるために、お客様を用意する、

お客様が来たくなるようなキャストを選ぶ、宣伝をする、

そういったものをプロデュースする人。

だからプロデューサーなのです。

 

とても勘違いをされていることですが予算を管理する人ではありません。

限られた予算をプロデュースのためにどのように配分をするか。

その予算の配分が功を奏すように商品を管理し続ける人なのです。

俳優なんて、アーティストなんて、プロデュースされた商品の一部でしかありません。

彼らが表に立つから宣伝担当・集客担当、そんなわけはないでしょう。

俳優やアーティストにだけもっとチケットを売れというのは難儀な話で、責められるはずがありません。

 

むしろ、俳優がいつも売っている枚数を事前に調査し、7割行くようにキャストを組む。

そして、彼らがいつも売っている枚数に到達できるような環境をプロデュースするのが、

プロデューサーです。

 

そういう意味でプロデューサーは偉いのです。

ですから、日本では全くそんなことがないようですが、本来すべての作品はプロデューサーから始まらないといけないのです。

それはオファーをしたからその人から始まる、という話ではなく、

もともとある資産を組み合わせ、もっと大きい商品としてプロデュースする立場にいるから、偉いのです。

そんなことを分かっている、そんな声が何処からともなく聞こえてきそうですが、

それは本当に分かっているのか、分かっているフリをしているのか。

小さなニュアンスで、紙一重で、仕事はまったく別物になります。

 

下平