昨日の記事(イギリス演劇から見る日本の演劇①)の続きです。
前回はイギリスと日本の演劇の差についてのお話を作り手側の観点からさせていただきました。
思い出したので、前回の補足です。
映画にもなった『戦火の馬』という作品ですがこれイギリスでは舞台でやられていました。
その初めてのワークショップ(稽古に向けての事前稽古)は確か初日の10年ほど前です。
すごくないですか?10年ですよ。
それともう1つ、なぜそこまで代表作を一本でも、にこだわれるかと言いますと、評価はもちろんのこと、経済的にもなのです。
というのは映像だったらDVD収入も日本とは桁が違いますし(日本はドラマでも国内向けにしか作らないがアメリカイギリス、韓国ですらも海外向けに作るので収入が全く違う)、
初演キャストのロイヤリティというのが存在するのです。
1つの作品が人気を博し、再演されようものなら、その作品の人気を作り上げた初演俳優たちには再演される度にギャラが入るのです。
良い作品=金になる、が綺麗に行っているわけです。
早速脱線してしまいました。
では改めて、本日はもう一つの違いである「お客さんの差」についてお話を進めましょう。
日本の小劇場と大劇場でも若干の差はありますが、日本の舞台のお客さんは女性が多いですよね。
これは皆さん予測の範囲内だと思いますが、イギリスは男女比がほぼ同じでした。
それもそのはず。夫婦でいらっしゃる方が多いんです。
日本ですとあまり見かけませんよね。
しかも、それも単に妻の趣味に無理やり連れられてこられた夫というわけではありません。
男性陣もなかなかの手練の観客なのです。
なぜそう思ったかと申しますと、例えばチェーホフの『かもめ』でもそうですけど、戯曲でシェイクスピアなどの有名なセリフが引用されるなんてこと、よくありますよね。
こういった一般教養の扱い方は難しく、というのもお客さんが知らなければ会場中に???が浮かんでしまいますからね。
しかし、そういったものが、イギリスの彼らには伝わります。
わたしが見た作品ではまさにシェイクスピアを悪く引用していましたが、会場中がそのセリフで笑うんです。
日本だとどうでしょう?
男性だけでなく、女性でもシェイクスピアを初めとする、所謂有名な戯曲は一通り読んだことがあるなんてお客さんは少ないと思います。
なので、過去の脚本家や演出家、俳優をおもしろおかしくいじったところで、会場中が笑いに包まれる、なんてこと見られないと思います。
この表現が適切かはわかりませんがイギリスのお客さんの演劇偏差値が高すぎるというくらい高いんです。
でも、よくよく考えれば、それが当たり前というか、少なくともスポーツはそうじゃないですか。
日本の場合、演劇のお客さんで演劇を勉強していた人は少ないですが、サッカーのお客さんはルールを分かっている人が大多数ですよね。
これは明らかに日本とイギリスの違いを感じた瞬間でありました。
もう一つが、お客さんのモチベーションです。
実はこれ、似たようなことを昔にTwitterでも言ったのですが、演劇を何かのついでに見に来る方が多いんですよね。
日本ですと、今日は観劇の日!ですが、ロンドンの人は出かけるついでに舞台でも見るかな、なんです。
変な言い方をすれば日本よりお客さんのモチベーションが低いんですよね。(笑)
わたしなんかは作品を作る際に、お客さんもめっちゃ楽しみにしているから、こちらも全力で喜ばすぞ!みたいなことを俳優に言ったりします。
それほどお客さまからの作品への情熱を感じるからです。
でも、今考えると、これって相当お客さんに甘えているんですよね。
というか相当お客さんに助けてもらってしまっているんですよね。
お客さんもよっしゃ!という気持ちだから作品を楽しみやすい(悪い言い方をすれば、良く見える)というのは絶対にあると思うんです。
そこに、今の日本の作り手って甘えているなって思うんです。
本来ならフラフラっと来るお客さんを全力で楽しませられたら最高なのに、ちょっとしたアドバンテージを頂いていると言いますか……。
このモチベーションの差を感じたときに日本の作り手は今一度お客様に感謝しないと行けないなと思いました。
同時に、お客様がふらふらと見に来れるような環境を整備しないとな、とも。
あとは制作的?な部分で感動したことがあります。
それはロビー開場が90分前なのです!
なぜそんなに早いかと言うと、その時間から劇場のバーが開くんです。
おそらく物販の代わりかなと思っているのですが、というのも、物販もほとんど無いのです。
パンフレットと台本のみ、がほとんどでした。
それはそれとして、なんだかゆったり入場できるのが個人的には嬉しいシステムでした。
気持ちのテンポみたいなのがかなりリラックスした状態で観劇できたんですよね。
日本だと良くも悪くもハイな状態でそのまま見るなんてことが多いので。
ちなみにですが、全然関係ないですけど、ロンドンのお客さんって酒読んでアイス食べてから観劇する人が矢鱈多いんですよね。
さて、もうひとつが当日券の制度です。
もちろん日本にも当日券はあると思いますが、その金額が少し変なのです。
例えばある作品のチケットが150ポンド(2万円ちょっと)くらいだったのですが、その当日券っていくらだったと思います?
20ポンド(3000円位)ですよ。
世界最高峰の演劇が当日券ならすごく安いんです。
これは日本では絶対にできないことだと思います。
ロンドンでは満席になることが基本なので、ふらっと来たお客さんのためにわざわざ席を用意する文化があるのです。
もしくはお金がない人のためでもあります。当日なら安く見せるよ、と。
アートはあくまでみんなのものですからね。その心意気もぐっと来ます。
なので、安心して必ず見たいなら正規の金額払ってね、というシステムです。
うーん、羨ましい。
他にも……とまだまだ続けたいところですが、これ以上長くなると読みにくくなると思いますので、一旦。
こんな具合に特に気になった、且つみなさんに知ってもらいたいロンドンの演劇事情、
そこから見られるイギリスと日本の演劇の格差を2回に渡ってお送りしました。
何度も言いますが、誰かに対するクレームなどではありません。
そうではなく、単純な「差」の話です。
わたしは出身もあり、今の演劇界が変わってくれればと、正直思ってしまいます。
しかし、それはエゴイズムだとも思っています。
ですから、それを世間が違うというのであれば日本の演劇がこのままでもいいとも思っています。
なので変えるためのブログでは本当にありません。
ただ、知らないでこのままの世界でいることと、
知った上でこのままの世界にいることは全く別の話だと思いますので、お知らせ、です。
そして、みなさんが、これを広めたほうがいいなと思いましたら、広めていただければと思います。
下平