井上ひさしさんが亡くなった。

お会いしたことはないが、
僕にとって、
人生で初めてサインをいただいた方である。

4歳の頃だったと思う。
ライオンの王様がソフトクリーム屋を
はじめるという絵本が好きで、
作者が井上さんだった。

父親がどういうわけか井上さんと
麻雀仲間で、絵本持参で打ちに行き、
サインをもらって帰って来た。

「サインって…これか…」と
当時がっかりしたことを憶えている。
「サインをもらってくる」の「サイン」は
実体のあるプレゼントか何かと思っていた
からだ。4歳的には。

思えば、実家には井上さんからいただいた
本がたくさんあり、井上さん原作の
NHKドラマの台本もあった。
人生で初めて読む「台本」だった。

なぜかオンエアされる前にあって、
「空き缶ユートピア」というドラマだったが、
台本には違う題名が書かれており、
ちょっと衝撃だった。
「これ、題名が違うじゃん…なんでだ?」と。
そういう大人の事情がわからなかったが
台本片手に見るドラマは刺激的だった。
小学5年生の時だったと思う。

僕が初めてチケットをとって観に行った芝居は
宮沢師匠が作演出をしていた
ラジカルガジベリビンバシステム「最後の正月」で
当時中学3年生だった。

しかし、人生で初めて観た「芝居」は、
父に連れられていったこまつ座の公演だった。
中学1年生だったと思う。
その後は何度か一人で行った。
「こまつ座」あっての「ラジカル」だったのだ。

井上さんの著作は何冊か読んでいるが、
これまで確認していなかったことがある。
父から聞いた話だ。

父が井上さんと麻雀をしていたときのこと。

「大野さんの息子さんって、
 なんていう名前?」
「けいすけです。
 慶応の慶に、助けるで慶助。」
「そうなんだ。いいね。
 今度小説の人物に使っていい?」
「どうぞどうぞ。」

あまり父の話を真剣に聞いていなかった
ということもあって、このエピソードを
まともに受けとめていなかった。
父が言うには、おそらく「四千万歩の男」だろうと。

すぐにアマゾンで買った。「四千万歩の男」。
ページをめくってみると、あった。
「慶助」という名の登場人物がいた。

もっと早く確認するべきだった。

僕のこれまでの人生は、
かなり井上さんの影響によるものが大きい。

さっそく「四千万歩の男」を読もう。

合掌。