翌日、広希は友悟のバーにいた。
別に強がったわけでも逃げたわけでもなく、ただかおりから渡された番号が繋がらなかったからだ。

友『しけた面せずに飲めよ。』
そういいながら友悟は、ビールのおかわりを持ってきた。
こんなに情けない気持ちになるのは何年ぶりだろうか。
恋も仕事も全てにおいてチャランポランに過ごしてきた広希には耐えがたいものがあった。

広『ためいきしかでないわ。』
そういいながらため息を吐く広希に友悟は優しい笑顔を見せた。

友『いいんじゃない。適当にやってうまく行くよりは全然いいよ。』

広『そうだな。』
上の空で答えている自分がいた。
広希の頭のなかは、りかでいっぱいだったからだ。
昔から馴染みのこのバーでも、りかの面影をつい探してしまう。

友『おし!客も来ねーし。今日は店閉めて朝まで飲もう!』
広『あぁ。そうだな。』
友『適当につまみ買ってくるからクローズの札だけだしといて。』
広『あぁ。』
上の空で返事をした広希を置いて友悟は店の外に出た。
広希は、それを目で追ってそのままガラス張りの入り口からそとを眺める。
沢山の人が家路を急いでいる。
その人達を眺めながら何処かで楽しそうにしているであろう、りかを思い目を閉じて笑った。
しばらくして、店のドアが開く音で目を開けた。

『やっぱりここにいた。』
今一番聞きたい人の声が脳に届く。
りかが笑顔で店の扉に寄りかかりながら広希を見ていた。

広『ここで、何してんの?』
り『どっちの台詞よ?』
広『いや、今日祝勝会だろ?』
り『そう。私のね。行こう。』
笑顔のりかに手を引っ張られ店を出た。
友悟がつまみを買ってくる事もクローズの札を表に出してないことも、もうどうでもよかった。


Android携帯からの投稿
圧巻だった。
りかは宣言通り難なく優勝を決めた。
踊るようにしなやかに、舞うように鮮やかだった。
小さな体から出る凄まじい生命力を感じた。

り『ほらね。優勝したでしょ?』
可愛らしさすら残るあどけない笑顔の裏にある自身とプライドを見た気がした。
そして、その笑顔を見て広希は恋をしている事に改めて気付く。

広『ほらねって簡単に言うけど凄すぎだよ。』
思わず広希は苦笑いになってしまっていた。

り『ありがと。でも、簡単にじゃないよ。一番練習してると思うから自信はあったのさ。』
へへっとまたあどけない笑顔でブイサインをしてみせた。

か『りかおめでとう!』
り『かおりありがと。お祝いしてね。』
また、大きくブイサインを見せる。
『りか集合だよ。』
部員の呼び掛けに軽く手でオッケーマークを出し、またねと手をふってりかは去っていった。

か『はい!』
かおりは、そう言ってぶっきらぼうに紙切れを渡してきた。
広『なにこれ?』
か『私の携帯番号。あんたもお祝いくるでしょ?明日あけといて。』
広『ちょちょと待ってよ。』
広希の言葉もむなしく、かおりは振り向きもせずに、その場から去っていった。

Android携帯からの投稿
後日、広希は友悟に貰った紙を頼りに代々木体育館にいた。
すごい数の人が溢れている。
『今日は、りかちゃん出る日だからメッチャ人がおんねん。』
『そうなんや。』
聞きたくもない隣のカップルの会話が耳に入ってくる。
『そんな所にたってると邪魔なんですけど!』
広『すいません。』
女性の声にふりかえりながらそう言うとクスクスと笑っている見知った顔の女性が立っていた。
かおりだった。
か『びっくりしすぎ!りか見に来たんでしょ?』
広『あぁ。そう。』
か『今日は、静かなんだ。』
広『いつも、五月蝿いわけじゃねーよ。』
か『ふーん。とりあえず、声かけてくれば?』
広『俺が?』
か『他の人に言ってるように見えますかね?』
広『いや、りかちゃんは今日来ることも知らねーよ。』
か『喜ぶと思うよ。りかの性格上ね。おいで。』
かおりに手を引っ張られて一番前の座席までおりた。
一番前の座席まで来るとはっきりと選手達の顔が見える事に気付く。

か『りか~。』
かおりが大きく手をふりながらでかい声でりかを呼んだ。
広希は、嬉しくもあるが少し照れ臭い気持ちもした。

りかは、すぐにかおりに気付いて笑顔で手をふって背中を向けた。
少し監督らしい人と話した後こちらに向かって走ってきた。

り『やっほー!広希も来てくれたんだね。』
満面な笑みで手をふるりかが眩しかった。
広『たまたま、通りかかったらやってたからさ。』
り『はは。すごい寄り道だね。ありがと。見てて絶対優勝するから。』
そう言ってりかは元気に去っていった。

Android携帯からの投稿