鹿児島県警が二名の内部告発者、 藤井光樹巡査長と本田尚志元警視正を逮捕し、また藤井氏の内部告発を受けたネット新聞社HUNTER(福岡市) の代表中願寺純則氏宅の家宅捜索を行い、同代表が教日しているにもかかわらず、捜査員が「内部情報だ」と主張し、強制的にパソコンのデータを消去した問題だが、下記のような記事が株式情報を提供しているサイトみんかぶのマガジンから配信された。

 

国鉄改革、郵政改革レベルの警察改革は必要なのか

 さらに、警察組織特有の問題について、次のとおり語る。

「ほとんどの警察官は都道府県警察で採用され、国家採用のキャリアとは別の世界です。30歳過ぎの中途入社組はほとんどおらず、警察官の大半は定年までの40年間を狭い男社会で過ごす。このような『職人社会』では、新卒一括採用をベースとする日本の労働市場の中でも特に特殊性が際立っており、昭和時代のパワハラ気質が色濃く残っています。本来、警察組織の改善については弁護士会やマスコミがもっと役立つべきですが、『国選弁護人の報酬が安すぎる』と不満を抱く弁護士や、『記者クラブのしがらみで身動きが取れない』と嘆く新聞・テレビ関係者が多く、なかなか前に進まないのが実情です」

 何か良い特効薬はないのだろうか。野澤隆弁護士は、最後にこう提言した。

現時点で考えられる次善策としては、小さすぎる採用規模・人事異動レベルをもう少し上げる、具体的には47都道府県ではなく、8つの高等裁判所・高等検察庁レベルにすることです。7万人を超える警察官を抱える警視庁(東京都)は別格としても、2000から3000人程度しか警察官がいない県警察が大半を占める現状は、少子高齢化が進む日本で持続可能性がないと言わざるを得ません。警察組織は、30万人近い大きさと強大な権限の割には天下り先の質・量ともにそれほどではなく、かつての国鉄改革・郵政改革などと比べると、時の権力者がちょっと力を入れれば意外に早く改革できそうな気がします

 筆者は国会議員の秘書をしていたこともあるが、不祥事を墓場まで持っていく業界美学にはある種の違和感を抱いていた。すぐにはムリでも悪事はいつか暴かれるべきである。一層の再発防止策の徹底が急務だ。

 

引用元:「本部長の犯罪隠蔽」告発で揺れる鹿児島県警の大暴走”警察のもみ消し実態”弁護士の告発
小倉健一 2024.06.25

 

 まず、このような記事がきちんと配信された事を、称賛しなければならない。

 

 警察改革が必要だと唱える記事が配信された事自体か素晴らしい事です。

 

 ですが……。

 

 やっぱり、相変わらず、主要新聞社はきちんとした記事を配信できず、この種の問題とは本来無関係な株式情報をニュース配信しているサイトからしかこういう意見が配信できなかったのだなと残念に思うと同時に、この改革案は、問題解決には全く至らないものである事を指摘しなければなりません。

 

 もしかしたら、警察の監視の目が厳しすぎて、萎縮し、この程度の『警察の気に障らない』事しか書けなかったのではないか、という気もしますが、それが真相であるとすれば、なおのこと、この国は既に浄化作用が機能停止状態に置かれているのだなと、より深刻さを痛感させられます。

 

 警察改革が必要なのは事実ですが、求められているのは下記です。

 

  1. 監察官制度の都道府県警察からの完全独立
  2. 警察官僚の都道府県警察幹部への任用制度の廃止
  3. 都道府県警察が自治体内で生ずる全ての警察行政を担う自治体警察の完全復活
  4. 都道府県議会で適切な追及の出来ない問題は国会で追及できるようにする
 
 警察内部の不正を調査するポストを監察官と呼びますが、監察官は監察官室と呼ばれる部署に所属し、階級は、多くの県警では所属長級の警視となっています(所属長級の警視=警察署長と同等のポスト)。
 
 監察官室には室長と首席監察官のポストがあり、監察官室長は、県警では参事官級の警視のポストで、首席監察官は部長級のポストで警視正が充てられます。
 
 この監察官室は都道府県警察の警務部に属し、警務部というのは、通常の企業における人事部に相当するポストで、階級は警視正(警視庁や大阪県警など規模の大きな自治体では警視長)、警察庁のキャリア官僚や準キャリア(旧国家二種試験に合格して警察庁に採用された警察官)らが着任します。

 

 これまで度々、おかしいから改革すべきだと言われてきたのが、この監察官室が都道府県警察本部内に設置されている問題です。

 

 内部に設置されていて、警察官採用試験に合格して採用された警察官が監察官、監察官室長、首席監察官を務めるような機構になっていたら、監察官制度がまともに機能するわけがない。

 

 しかも、前々から、監察官室には暗い噂もあります。

 

 監察官室に勤務した経験のある警察幹部であれば、監察官がどのようにして不正の証拠を集めて立証するのか、その手口を知り尽くしています。

 

 そのような人物が人事異動で警察署や警察本部の幹部となり、自分の部署で不祥事が発生すれば、監察官室に勤務した経験を悪用し、不正の隠蔽を図る事が可能である、と。

 

 酷いケースでは、例えば、警察幹部が私怨だったり、組織や団体からの依頼(要請)で、県民相手に警察組織を動かして嫌がらせを働いたとします。

 

 しかし、それらの嫌がらせは上述の知識を悪用して行われている為、監察官室が動いても、その証拠を掴めない。

 

 火のないところに煙は立ちませんから、実際にそのような組織犯罪的な問題が生じたケースがあるのだと考えられます。

 

 今回の内部告発で渦中の人として取り上げられている前刑事部長の井上昌一元警視正は首席監察官の経験者であり、その事が疑いを持たれている隠蔽疑惑等に何らかの影響を与えた可能性も考えられるのです。

 

 また、愛知県警では、交通事故を起こしたパトカーのドライブレコーダーから音声ファイルを消去し、監察官室配属の警察官(被告側指定代理人)人物名義の報告書で「録音機能は使用していなかったので最初から音声ファイルは無い」と主張し、国賠訴訟を起こした被害者の県民相手に100%県警のパトカーが悪かったとの主張は認められないと損害賠償を求めて反訴する不祥事まで起きています。

 

 この問題には監察官室が関与した疑いも持たれており、それが事実であるとすれば、極めて深刻な事態です。

 

 まずは監察官室を都道府県警察から完全に独立した機関にする事が急務です。

 

 独立した都道府県の設置した完全な独立機関とするのか、都道府県庁の外局とするのか、知事(首長)直属の機関とするのか。

 

 この辺は十分な検討が必要ですが、完全独立させないと行けない事は、言うまでもない事です。

 

 また、独立に伴って、監察官室に所属する職員は、全員、警察官の身分でなく、通常の地方公務員の身分とし、監察官室に出向(採用)した場合、その後は出身である都道府県警察には二度と戻れない不可逆性の決まりを設ける事も必要です。

 

 監察官の職務の性質上、警察の業務に精通している事が求められる為、監察官室に所属する職員には警察官として長年に渡って働いてきた知識と経験が必要不可欠となる為、人員の採用は警察官としての勤務年数が一定以上に達した者の中から選ぶ必要がありますが、この辺の部分に関しても、どのような人材を採用するのが最善なのか、専門家らに十分に検討させる必要があります。

 

 監察官制度を機能させる為の改革は、とりあえずこれで何とかなると思います。

 

 次は2と3の問題です。

 

 世間では大きな誤解をしている方が結構いらっしゃいますが、都道府県警を支配しているのは、実際には都道府県警に警察官として採用された地元組と呼ばれる警察官達です。

 

 殆どの県警では、本部長と警務部長以外の部長は全員、県警が採用した警察官採用試験に合格し、警察学校を出て巡査から開始した普通の警察官で、ごく一部の警察署の署長、本部の捜査二課長、生安部のサイバー犯罪対策課の課長など、幾つかのポストがキャリア組と準キャリアに与えられているだけです。

 

 物凄く当たり前の話をしますが、警察官は30万人くらいいるのに、警察庁に採用されたキャリア官僚というのは、500人くらいしかいないのです。

 

 準キャリアに関しても、年の採用者は10人程度のようで、実は殆どいないのです。

 

 要するに、県警警察官が全てを取り仕切っている県警に、本部長と警務部長だけ警察庁採用のキャリア官僚を着任させて、人事権を警察庁が実質握っている体裁を取って、それで「県警は警察庁が完全掌握しています」という体裁を整えているだけの話です。

 

 じゃあ警察庁は何をやっているんだ?と疑問に思われる方もいらっしゃるでしょうが、本来であれば都道府県警がやるべき企画や政策立案などの行政に関連する部分を担い、それらを都道府県警に通達するという形で実行させています。

 

 つまり頭脳の部分に絞って行っているのです。

 

 だから都道府県警の事を「警察の現業部門」と呼ぶ事もあります。

 

 悪意でこの記事を書いているわけではありませんので、余り悪い例を取り上げるのもよくないのですが、例えば違法捜査に当たるGPS捜査について県警が行っていた事が発覚した後、警察庁が通達を出して行わせていた事が解り、物議を醸すといった事がありました。

 

警察当局が容疑者の車などに衛星利用測位システム(GPS)端末を取り付けて行動を確認するGPS捜査について、警察庁が各都道府県警に平成18年、「捜査書類にGPS捜査を実施したことを記載しない」などと秘匿を求める通達を出していたことが1日、関係者への取材で分かった。

 

(中略)

 

18年の警察庁の通達は、GPS捜査のマニュアル「移動追跡装置運用要領」の運用について説明するもの。保秘の徹底として、(1)取り調べ時に容疑者にGPS捜査を明らかにしない(2)捜査書類作成時にGPS捜査を推知させるような記載をしない(3)事件広報時に報道機関などにGPS捜査を実施したことを明らかにしない-などとした。

警察庁の担当者は「具体的な捜査手段を推測されると、対抗手段を講じられかねないため」と通達を出した理由を説明している。

 

引用元:GPS捜査、警察庁が秘匿指示 平成18年に通達 産経新聞 2017/2/1 19:06

 

 規模の小さな県警で警察業務について研究したり、立案したりする業務を担うのは負担が大きい為、効率的な警察の運営という観点からは決して悪いわけではないのも事実ですが、その事が原因で、問題が起きます。

 

 都道府県警察の管理をしているのが都道府県公安委員会です。

 

 その為、都道府県警察の問題は、都道府県議会と都道府県議会に設置された警察委員会で行います。 

 

 ですが、実際の警察活動は都道府県警察が行っているにもかかわらず、企画と政策は警察庁が作成して決定している為、実質的に、都道府県議会と議会の警察委員会では何もできないからです。

 

 ならば国会でやればいいじゃないか、とお思いになられる方もいらっしゃるでしょうが、その場合、今度は県議会と県の警察委員会ですべき問題を、頭を飛び越して勝手に国会でやっている形になってしまい、越権行為のような形になってしまうわけです。

 

 つまり都道府県警が問題を起こした場合、それが同一の問題であったとしても、問題の各部分の性質によって、ある部分については都道府県議会で追及し、あの部分は国会で追及するという、一つの問題を総合的に一つの議会で完全に追求しきれないという、股裂き状態に陥るわけです。

 

 無論、これは警察庁が意図して問題追及を妨害させる為に仕組んだ罠の類ではないわけですが、県警で不正や不祥事が起きても、問題によっては、きちんと追及できず、改善策や対応策が出せないといった非効率的、非合理的な場面が出て来るのです。

 

 そこで、現在、警察庁が行っている企画・政策等の行政行為に当たる部分を、都道府県警察が実行する形にさせて、かつ、警察庁採用のキャリア官僚や準キャリアを都道府県警の幹部として着任させるシステムも廃止して、全ての事を都道府県警にやらせる自治体警察を完全復活させた方がよいのではないか、という話です。

 

 鹿児島県警の問題では、警察庁が今月24日に「県警による調査に加え、警察庁でも本部長から聴取するなど必要な調査を行った結果、客観的に見て本部長による隠蔽の指示はなかったことが明らかだ」とコメントを発表したと報道されていて、野川本部長は長官訓戒処分という極めて軽い処分で済んでしまっています。

 

 その事に対して批判の声が上がっているのは言うまでもない話で、下記のような記事も配信されている始末です。

 

 

 

 結局、隠蔽体質は都道府県警だけでなく、警察庁も同じだった、という事なのでしょう。

 

 これでは自浄作用が働いているとは到底言えず、上述のような問題点(問題追及の場が都道府県議会と国会で分かれ、一つの問題を一つの場所で総合的かつ合理的に追及できない問題=問題解決を妨げる温床になる)も加味すると、警察庁と都道府県警とをきちんと分離した方がよい、という結論に達します。

 

 その上で、都道府県議会議員やその地域の名士、有力者で、警察に影響を行使できる人物や団体、組織が関与する事で引き起こされた警察の不正、不祥事で、都道府県議会では都道府県警察を十分に追及できない問題に関しては、国会で追及する事が出来るようにする制度を整える。

 

 これが4です。

 

 個人的には警察庁はきちんと機能していると認識していたので、警察庁までもが、きちんとした調査のメスを入れる前の段階で「客観的に見て本部長による隠蔽の指示はなかったことが明らかだ」とコメントし、結論ありきで動き、隠蔽に走った事には非常に大きく失望しましたが、警察が、警察庁まで含めて腐敗が進んでしまっているという事であれば、大改革の断行は不可避であると断じざるを得ません。

 

 また、これら改革を実行した上で、仮に大型の不祥事が発生した場合には、都道府県議会や都道府県知事、総理大臣等が特別監察官を指名・任命し、その人物にその不祥事に関する監察業務を担わせる等の仕組みを整える事も検討すべきでしょう。

 

 警察庁に関しても、都道府県警察の完全な自治体警察化を受けて、現在保有している公安警察の業務は維持するとして、日本版FBIのような組織に組織改編したり、シンクタンクとしての機能は保有し、研究成果を都道府県警察に提供する機関に特化したりするとか(ただし現在のような通達を出す等の上下関係・指揮命令系統の生ずるものは禁止)、組織の在り方を抜本的に改革すべきです。