八本木ヒルズにて(後編) | 会計進化論。

八本木ヒルズにて(後編)

 八本木ヒルズのあるフロアの応接室では、和やかな雰囲気お茶で会話が繰り返されていました。


ハロウィン「私は20年近く税理士の業界で働いて、そのうち15年は所長として

  事務所を運営してきましたが、今年の3月で事実上の引退をしました」

藤田社長「それは勇気のいるご決断でしたね。経営者の仕事というのは、働か

  ないことが大事ですが、なかなかできないものですよ。私も仕事が面

  白すぎて、ついつい働きすぎて怒られますからね」

ハロウィン「いえいえ。しかし同時に、危機感ももっていました。この業界では、コ

  ンピュータや安価なソフトウェアのおかげで、それはもう、一昔に比べた

  ら比べ物にならないほど便利になり、効率化が進みました」

藤田社長「私もSE(システムエンジニア)の端くれですから、それはなんとなくわ

  かりますよ」

ハロウィン「ただ、問題があるとすれば、そこに『知識偏重』と『技術偏重』が起

  こってしまったと思うんですよ」

藤田社長「ほぅ、それは興味深い! 私が今のビジネスを始めるきっかけも、ま

  さにそれでした。私はSEの派遣をやっていますが、当初は知識や技

  術をとにかくつめこんで送り出していましたが、会社を乗っ取られたと

  きにはじめて、『自分に味方がいないこと』に気づきました。なるほ

  ど、知識と技術はマニュアルがあれば一定レベルには簡単になれる

  でしょう。ビジネスモデル自体は間違っていないと今でも思っていま

  す。しかし・・・」

ハロウィン「しかし・・・ドキドキがついてこなかったんですね」

藤田社長「そういうことです」


ハロウィン「今では『3年以内に若者が辞める』という本がベストセラーになる

  くらい、若者の退職が問題になっていますが、我が業界、もっと言え

  ば我が社でも、それは同じことです。でも良く考えてみると、会社に入

  った若者は、『この会社では自分の未来を描けない』『あれが10

  年後の自分の姿か』『この会社の将来像が見えない』と、不安に

  なったり、絶望しているのに、それに我々が答えていないのですね」

藤田社長「まったく、そのとおりだと思いますよ。私の仕事も、単にプログラミン

  グを行うだけの職人としてのSEを派遣するのではなくて、人間的にも

  優れたSE、管理職としてリーダーシップを発揮できるSEを育て、

  派遣することです。ですから、常に『人づくり』が私の仕事だと思ってい

  ます」



ハロウィン「それにしても、どうして派遣社員を全員正社員として雇われたので

  すか?」

藤田社長「そうですね。たしかに正社員として雇うのは、グループ企業がつくる

  グループ内の子会社や関連会社に対する派遣会社が多いですが、

  うちはそういうのとはちがいますからね」

藤田社長「そうそう、この前、社員のひとりが、こんなことを言ってました。『僕

  たちはもっと上を目指さなければならない。そうでなければ、自

  分たちに憧れている後輩たちに夢を与えられないから』、とね」

ハロウィン「・・・」

藤田社長「ニワトリさん、私はどんな成功も、真似をすることから始まるん

  だと思っています。『真似るは、学ぶに通じる』・・・使い古された

  言葉ですが、これほど本質をついた言葉はないと思うんですよ。

  そして、私ができることは、真似をしたいと思わせる人間を、次

  々に育てることなんですよ。今の若者は、IT長者やデイトレーダー

  とか、華々しい結果だけを見て、その虚像を追おうとしますが・・・ま

  あ、これは我々大人の責任でもありますが・・・それだけじゃぁない

  ぞと証明をしたいのですよ」

ハロウィン「まったく、そのとおりだと思います。・・・今日は、本当にお忙し

  いところ、ありがとうございました」

藤田社長「いやいや。お互い、志は同じだと感じました。私にできることが

  あれば、ご支援します」

ハロウィン「重ね重ねすみません」



 あっという間に、30分が経ったのでした。


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【補足】

 さて、「なぜ若者は3年で辞めるのか」ということについて、よく言われる答えが登場しました。これだけではないでしょうが、これらは、年功序列が崩壊し、実力主義が中途半端に導入された結果、起こってしまったんだろうなと思う次第です。

 今、現場には、真似したいと思わせる人間が、どれだけいるでしょうか。

 20代の若者が辞めることが問題なのではありません。それ以上に問題なのは、30代がそれ以上の世代から継承されるべきものを、継承できなかったことにあるのだと私は考えています。すべては、バブル崩壊という黒船来航や第二次世界大戦クラスの日本の根幹を揺るがす事件が起こした悲劇なのかもしれません。