第二次世界大戦 ドイツ暗号解読の最前線-Bletchly Park | 鉄道/ダム/橋etc.マニアの英国滞在記

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鉄道/飛行機/船/ダム/橋/近代産業土木遺産/気象/地形/BCLを愛する某日本企業の中年ロンドン駐在員。英国各地のマニアックな場所を探訪した記録を自らの記憶整理を目的に編纂したが当地を訪れる方の情報の一助になれば幸いである。2021年8月帰国により本ブログ更新を終了する。

第二次世界大戦当時、連合国はドイツの暗号解読に全勢力を注いだ。特にENIGMAと呼ばれた暗号は、その解読が困難であり、米国からの輸送船団がことごとくUボートに沈められていく状況下、イギリスの最高レベルの頭脳がロンドン北の郊外、Milton Keynesの近くにあるBlecthly Parkに集められ、政府暗号学校(Government Code and Cypher School[GC&CS])が設置された。

当時、9,000人を超える人員がここで秘密裏に暗号解読法の開発、無線傍受、解読業務に従事していたらしい。この研究機関で天才数学者のアラン・チューリングがENIGMAの解読に成功した実話は、映画「Imitation Game」でスリリングに描かれている。

その後、ドイツはさらに高度なLORENZ暗号機によるテレタイプ通信を開発。それを解読するため、マックス・ニューマンとトミー・フラワーズのチームが、世界発のデジタルコンピューターとされる「COLOSUSS」を開発しその解読に成功した。

現在、Bletchly Parkは博物館になっており、隣接する「National Museum of Computing」には完全作動するCOLOSSUSが復元されており、当時の歴史的科学遺産を目にすることができる。

Milton Keynesに住む会社の同僚からこの博物館の話を聞き、かつて「Imitation Game」に感銘を受けた私としては、是非行きたくなった。我が家からはNorth Cercularを経てM1を北上、約1時間のドライブだ。[N 51.997443 W 0.739154]

当時の兵舎、建物がそのまま博物館に使用されている。


受付でチケットを買って博物館に入る。2018年2月24日現在、£18.50。シーズンチケットなので1年間、再訪することが可能。

ENIGMAの実物。想像していたよりシンプルだった。実際に数万台が使われていたらしく、現場での実用性も十分に考慮されていたのだろう。


当時の解読員が使用していたノート


日本語の勉強も入念に行っていたらしい。


ドイツ海軍艦船の詳細は記載されたマニュアル。大きさ、速力、武装の種類、数まで非常に詳細に分析されている。

モールス信号を聴取していた受信機


ひと通りENIGMA関係の展示を堪能し、一旦博物館を出て敷地内の「National Museum of Computing」に移動。こちらも当時の建物を転用した小さな博物館。入館料は£7.50。


中は小部屋が連なっており博物館というより大学の研究室のよう。入ってすぐの小部屋にはいきなり、多数の機械が無造作に展示してありテンションがあがる。

別の小部屋にはアナログコンピューターがその原理の解説とともに展示してある。

通路には計算尺の展示も。実家には父が昔使っていた計算尺があり使い方を教えてもらったことがあったが、電卓が無かった時代、科学者や技術者はこのような単純な道具で複雑かつ高度な数学計算を行っていた事実に感銘を覚える。

その奥の大部屋には、1960年代からの、数々のデジタルコンピューターが所狭しと展示(無造作においてある)されていて圧巻。一つ一つをじっくりと見てみたいがそれはまたの機会にしよう。

1950年代のWITCHコンピューター。一部稼働するように復元されている。

世界初の電卓「ANITA MK8」。初めて見る実物に感激!


数々の初期のデジタルコンピューターを堪能し、お目当てのCOLOSSUSの部屋に向かう。まずはドイツ最強の暗号機、LORENTZの実物。内部構造は極めて複雑。



GC&CSの研究者や技術者は、見たことの無いLORENTZ暗号機の仕組みを、種々傍受した情報と理論計算で推定し、その暗号をテレタイプで送信する機械本体を組み上げた。


この部屋には、暗号無線・テレタイプ等を傍受するために使用されていた受信設備が復元されている。


そして隣の部屋にあるのが、LORENTZ暗号解読のために設計された世界発のデジタルコンピューター「COLOSSUS]。完全稼働の状態に復元されて展示されている。


昔、技術者であったであろうボランティアガイドが詳細を説明してくれる。


当時の最先端の科学技術の粋を集めた展示品の数々に、時を忘れて見入る。

しかし、一方で軍事が科学技術を発展させる大きな原動力になってきた冷酷な事実を決して忘れてはいけない、という思いを強くさせる展示であった。

ここで解読された情報の一つ一つが、日本含めて何千、何万という兵士や民間人の人生に大きく関わってきたという事実を踏まえて、再び、Imitation Gameを観てみたいと思う。

*写真は館員の許可を得て撮影。