多くの場合、言葉にならない人の気持ちや隠している感情などは、その人の表情や行動などに表れることが多く、人は普段言葉だけではなく、これらの非言語的コミュニケーションもやりとりしながらコミュニケーションを図っています。

 

しかしながら、感情が表情に極端に出にくかったり、感情とは別の、あるいは場にそぐわない表情や行動をしてしまう人も居て、そういう人は周囲から理解されにくいだけではなく、往々にして誤解されやすく、ややもすると叱責や指導の対象になってしまうことがあります。

 

相談室で対応する方の中にも、前述のような特徴・特性で周囲に理解されづらく、誤解や軋轢がうまれてしまうことで、二次的にうつ状態などのメンタルヘルスのリスクを抱えた状態になられている方もいらっしゃいます。

 

学生の場合、先生から「わかってるのか!?」と指導されてしまったり、反省していない、と誤解を受けてさらに指導を受けたり、周囲が離れていったり、理解されなくてつらい気持ちになられたり、と様々な場面に遭遇してしまいます。

 

社会人だとさらに厳しく、上司や同僚からの叱責や評価が下がるなどにつながってしまうこともあり、本人も周りも苦しい状況にいたっているケースもあります。

 

そんなつもりはないのに否定的・批判的なエネルギーを周囲から受けるというのは、精神的には大きなショックです。

そういうことが続けば、心のエネルギーが枯渇してしまっても無理はありません。

 

一方で、幼少期と違って、社会的には、年齢や社会的場面に応じて本人にもそれ相応の対応を求められることが増え、「そんなつもり」かどうかではなく、見えている現象や限度、結果に対して反応が返ってくるし、時には責任も求められます。

 

でも、自転車の練習と同じように、練習しないとできないことってあると思うし、疾患や障害など、何かしらかの個別の事情があるケースだったり、そうではなくとも苦手という特徴・特性を持っておられる方もおいででしょう。

 

苦手分野がたまたま表情や場に合った言動だという方がいらっしゃっても不思議ではないのですが、暗黙のうえでは、言語的・非言語的コミュニケーションは、ある年齢になると誰しもできる前提になっていると、できない人、苦手な人への風当たりが強いという側面もあるように感じます。

 

ただ、たとえ自然に場に合う表情をすることは難しくとも、どんな場面でどんな表情が良いのか、TPOに応じて服装や言動を学ぶのと同じように、パターンやマニュアルとして学んでいくことで、ある程度適応行動がとれるようになる方もいらっしゃいます。

 

もちろんそのためには「自分がどんなつもりか」ではなく、「自分が他者(外界)にはどう見えているか」を知ることから始まります。

どちらかが悪いとかではなく、違いを知り、違いに対する対応法を少しずつ身につけていくのです。

 

私が出逢う方の中にもそういう方は少なくありませんが、鏡を見て自分の表情を知ってもらったり、ロールプレイで練習したり、それを家庭や学校で実際にやってみてもらったりしながら、少しずつ練習することで、徐々にできるようになる方もいらっしゃいます。

特に子どもたちの成長は著しいなと感じます。

 

また、近しい人に対して、自分から「自分はこういうときにこうしてしまう癖があるので、もしそんなことがあったら教えてください」といえるようになり、事前に自分を知ってもらうことで誤解を減らすような作戦ができるようになる方もいらっしゃいます。

 

どちらにしても、その人の生きづらさを、周りだけでもなく、本人だけでもなく、両方が理解し対応していけるように考えていく。

ただ「わかってください」と配慮を求めるだけでもないし、自分だけが頑張ったり我慢するのでもない、あるいは「自分なんて・・・」と自分を責めるのではなく、まず本人が自分を理解し、受けとめ、そして周囲とも共有し、お互いがお互いの違いやできること・できないことを受けとめ、支え合っていくということなのだと思います。

 

もちろんそこには、本人がどうしたいか、どうなりたいか、という本人のお気持ちが一番大事であることは言うまでもありません。

 

けれど、自分のことを十分に知らなかったり、まだ理解できていなかったり、ある側面しかみえていない場合は、単に本人にどうなりたいかの自己決定を求めても、限定的なものになってしまうこともあります。

 

まずは良いところもそうではないところも、両方含めた自己理解が必要なのだろうと思います。

その理解は「できなくてダメな自分」ではなく、「こういう所が苦手だけど、ダメなことじゃない。今からできるようになればいいし、それはできる自分」で良いのかな、と思うのです。

 

もし冒頭のようなことで誤解されやすかったり、うまくいかないなと感じている方がいらしたら、そういう自分と向き合う作業を専門職と一緒にすすめてもらえればと思います。