2020年11月12日付の大阪日日新聞に、週刊コラム「金井啓子の現代進行形」第232回分が掲載されました。 本紙のホームページにも掲載されています。

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問われる根深い分断の終焉 次期米大統領にバイデン氏

 

 大阪では、「敵」と「味方」に分かれた戦いを終えて10日余りがたった。一方、米大統領選挙は投票日から数日たってようやく結果が判明し、バイデン氏が次期大統領になることが決まった。

 それと同時に、ハリス上院議員が女性初の米副大統領となる。当選確定後の演説で「私が最初の女性の副大統領になるかもしれませんが、最後ではありません」と語った彼女の言葉は、明るさと重みに満ちている。アフリカ系でありアジア系でもある彼女であるから人種問題の観点からも、なおさらである。

 私の知人で米国に住む人たちには、バイデン支持派が多かったようで、当選確定後からメールやSNSで喜びの声が届いた。ただ、その声には単に自分が支持する人が当選したうれしさだけではないものが感じられた。むしろ、激しい対立による恐怖や疲弊感が和らぐことへの安堵(あんど)の方が大きいように思う。

 トランプ大統領には多様性を否定する発言が多かった。そのため、これまで対立の激しさをあおってきたのはトランプ支持者の側であって、バイデン支持者側はそういったことはないのだろうというイメージを、実を言うと私は抱いていた。

 だが、米国に住むある知人から話を聞くと、どうやらそうでもないらしい。その人はトランプ大統領を支持するとまではいかないまでも、「嫌いではない」「過激に嫌う理由もない」といった気持ちを持っているそうだ。だが、その人が住むのは、激しくトランプ氏を嫌いバイデン氏を支持する人々が多い土地。そういった場所で、その人がもしそんな言葉を口にすればトランプ支持と受け取られ、うっかりすると殺されかねないほどの空気があるのだという。言論の自由がない雰囲気の息苦しさを嘆いていた。

 つまり、米国の分断をあおっているのは、片側の陣営だけではないということであり、どちらにも過激で極端な人々はいるということなのだろう。

 2017年1月、トランプ新大統領の就任式典の日に、米国民の反応の一端を見たくて私はワシントンDCを訪れた。そこで目にしたのは、トランプ新大統領への歓迎と反対をそれぞれ声高に叫ぶ人たちの姿だった。だが、少なくとも私が一日中街を歩いた限りでは、互いをののしり合うような場面に出くわすことはなかった。4年前には全てが和やかだったとは言わない。だが、この4年間に確実に分断は激しくなっている。

 バイデン次期大統領が勝利演説で述べた「前に進むためには、互いを敵とみなすことをやめなければなりません」という言葉が心にしみる。いったん「敵認定」をした人をそうでないとみなすのは容易ではない。だが、「敵」を互いにののしり合う戦いを終えたばかりの大阪にいると、「分断ではなく統合を求める大統領」を目指すと語ったバイデン氏のようなリーダーが待ち遠しくてならない気持ちになる。

 (近畿大学総合社会学部教授)