雪椿姫の妄想劇場 第3部 第二十五話 「陸路、仙台へ」その1
相馬港で海路を行く琴兵衛・ビアンコと分かれ、かぐや・すみれ・ターボ婆の3人は陸路で仙台を目指した。
相馬から5里(20km)の距離に経由地の名取があるが、名取のやや西に「神次郎温泉」という地元の湯治場があった。ターボ婆の薦めで今日はここで一泊することとなった。
「お婆様、この温泉は地元の人ばかりですね」かぐやが率直な感想を述べた。
「うむ。ここはな、観光温泉ではなく地元の民が通う薬湯なのじゃ。切り傷や火傷を癒す湯もあれば美肌の湯、若返りの湯、豊乳の湯もあるぞ」
「豊乳の湯♪。私、それ行きます!」即座にすみれが反応した。
「すみれよ、勘違いしてはおらぬか?この湯は乳が良く出る薬効なのじゃが・・・」
「乳が出るということは胸が豊満になることですよね、かぐや姉さま」
「おっぱいが大きいのが必ずしも乳の出が良い事とは限らないと思いますよ^^」
「それでもいいです。『豊乳の湯』・・・なんと甘美な響きでしょう♪」すみれは喜んだ。
「やれやれ、すみれの貧乳劣等感は相当じゃのう^^」ターボ婆は飽きれ顔だ。
―――その夜
夕食を終えてかぐやとすみれが話し込んでいた。
「かぐや姉さま、ひとつお願いがあります」と、すみれ。
「なあに?すみれ」
「実は、私の大事な物を預かっていただきたいのです。」すみれは一通の書状を差し出した。
「私、偵察やら賊との格闘やらで動き回ることが多いので、これを懐に入れていては皴になったり失くしたりするかもしれません。かぐや姉さまでしたら安心して預けられます」
「そう、いいわよ。ではきちんと封をして預かりましょう。」
「ありがとうございます、お姉さま」
「もしかして、月影さんへの恋文とか?」
「きゃっ、そんなんじゃありません」すみれは赤くなった。
「私、もう1回お風呂に入ってきま~す」すみれは慌てて部屋を出て行った。
かぐやは預かった書状に『秘』の印を書き、糊で封をした。
―――こちらは「豊乳の湯」の脱衣所。
「お客様、こちらに『湯上りの水』を用意しました」湯当番の女中がすみれに声を掛けた。
「ありがとう。後で頂くわ」
「それではごゆっくりどうぞ。」女中は出て行った。
出掛けに、入り口の「婦人専用」の掛札を「掃除中」と裏返した。
暫くして・・・
「あー、いいお湯だった。少し熱めだったけれど何だか胸が大きくなった気がする♪」
上機嫌ですみれは浴衣を着た。
湯にのぼせたのか、すみれは『湯上りの水』を湯呑に注いで一気に飲んだ。
一杯を飲み干した頃、すみれは意識が朦朧としてきた。ついにはその場にへたり込んでしまった。
「すみれ」誰かがすみれに呼びかけた。
「はい。」朦朧とした意識の中ですみれは返事をした。
「お前は胸が大きくなりたいのか?」すみれの目の前で身なりの良い侍が訊いた。
「はい。」
「では、願いをかなえてやろう」
「はい♪」すみれの顔に笑みが宿った。
「かぐやの持っている書状を持って来い。」
「でも、それは・・・」
「胸が大きくなりたくはないのか?」
「分かりました。持って来ます」
「それで良い。行け」
「はい。」
―――四半刻(30分)後
「掃除中」の札が掛った脱衣所に3人の怪しい人影があった。
そこにすみれが入って来た。
「持って来たか」身なりの良い侍が訊いた。
「はい、ここに」相変わらず焦点の定まらない眼ですみれは言った。そして手にしていた書状を差し出した。
「良くやった。もう戻っていいぞ。そして今あったことは全て忘れるのだ」
「はい。忘れます」
そう言うとすみれは自分の部屋へと戻って行った。
「薬師殿、この薬は良く効いたようだな」
「うむ。拙者が開発した『傀儡(くぐつ)の秘薬』に間違いはない。薬だけではなくあのくノ一の劣等感を刺激したことで効き目が倍増したと思う」総髪で白羽織の男が言った。
「お頭、あの女は頻繁に『豊乳の湯』に入りに来ておりました。それにあの板のような平らな胸^^。きっと胸の小ささに大きな劣等感を持っていると読んだのは正解でした」先ほど『湯上りの水』を用意し、掛札を操った女が満足そうに言った。変装した黒百合である。
「うむ。女の気持ちは女が一番良く知っているということだな」と、侍。
「ん?この書状は封がしてある。密書をここで開けるわけにはいかぬな。」
「黒百合。急ぎ、早舟を手配せよ。駿府の兄上に届けねば」
「はっ、承知」
そして3人の人影は立ち去って行った。
脱衣所の外でふたりの男がひそひそと話をしていた。
「今回はワシの出番は無かった・・・」小柄な男が力なく呟く。
「お主はまだ良い。オレなどはまだちゃんとした仕事をしてない・・・」鉄砲らしきものを隠し持っている男が寂しそうに呟く。
「お頭は薬師と黒百合だけえこひいきしてるな・・・」
「お頭は兄上様の為に必死なのだ。そう愚痴るな」
「ふぅ~」「ふぅ~」どちらとも無くため息を漏らしていた。
「お、遅れるぞ。我らも急ごう・・・」
「承知・・・。」
二人は力無くとぼとぼと歩き始めた。
―――ここはかぐやとすみれの部屋。
すみれは気持ちよさそうに眠っている。
「お婆様、すみれは大丈夫でしょうか?」
「ああ、心配いらんよ。多分、催眠効果のある薬でも飲まされたんじゃろう。一晩すれば薬は体から抜けるはずじゃ」
「またあの一味でしょうか?」
「たぶんな。しかし、どうしてすみれのやる事を放置しておったのじゃ?書状まで渡して」
「すみれが湯から戻って来た時に目が虚ろでした。何か操られているような。それで様子を見ていたら書状を持ち出したので、例の一味の仕業と思ったのです。」
「書状を渡さずとも良かったのに」
「せっかく手間をかけて仕掛けて来たのに手ぶらでは可哀そうなのでわざと持ち出すのを見て見ぬふりをしたのです。これでしばらくは時間が稼げます。それに、あの書状・・・開封したらびっくりするでしょうね^^」
「謙信公の書状ではないのじゃな。では何が書いてあったのじゃ?」
「ちょっとお耳を」そう言ってかぐやはターボ婆に耳打ちをした。
「わーっはっは^^こりゃ傑作じゃ♪」何故か大笑いしたターボ婆であった。
※ターボ婆さんを大笑いさせたものは??? 次話でそれが解かります。
byリアル雪椿姫