本  【経営コンサルタントのお勧め図書】 ドラッカー、渋沢栄一を評価『「渋沢栄一とドラッカー」未来創造の方法』  2406    

経営コンサルタントがどのような本を、どのように読んでいるのかを教えてください」「経営コンサルタントのお勧めの本は?」という声をしばしばお聞きします。
 日本経営士協会の経営士・コンサルタントの先生方が読んでいる書籍を、毎月第4火曜日にご紹介します。
 【経営コンサルタントの本棚】は、2012年に、経営コンサルタントがどのような書籍を読んでいるのか知りたいという、ブログ読者の声を反映して企画いたしました。
 幸い、日本で最初に創設された経営コンサルタント団体である日本経営士協会には優秀な経営士・コンサルタントがいらっしゃるので、その中のお一人である酒井闊先生にお声をかけましたところ、ご協力いただけることになりました。
 それが、今日まで継続されていますので、10年余もの長きにわたって、皆様にお届けできていることに誇りを持っています。
本
■    今月のおすすめ
   『「渋沢栄一とドラッカー」未来創造の方法』
         (国貞 克則 KADOKAWA)

出版社 ‏ : ‎ KADOKAWA (2020/11/20) 発売日 ‏ : ‎ 2020/11/20
単行本 ‏ : ‎ 224ページ      寸法 ‏ : ‎ 13 x 1.6 x 18.9 cm
ISBN-10 ‏ : ‎ 4041109116   ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4041109113

本
「新紙幣の人物」渋沢栄一を称えた「知の巨人」ドラッカー(はじめに)
【新紙幣の渋沢栄一(1840-1931)とは】
 新紙幣は今年の7月3日に発行されます。新1万円札の肖像画は「近代日本経済の父」「日本資本主義の父」渋沢栄一です。1万円札の肖像画の採用は、聖徳太子(1958年)、福沢諭吉(1984年)に次いで3人目となります。
 渋沢栄一は、「論語と算盤」「士魂商才」「細心にして大胆なれ」等の言葉、「道徳経済合一」の思想でも知られています。また、明治維新の直前、第15代将軍となった徳川慶喜の実弟徳川昭武に随行し、パリ万国博覧会を見学の後1年半に亘り、イギリス、スイス、イタリアなど欧州諸国を訪問し、銀行、株式会社の仕組みや貨幣制度、株式・債券・為替の仕組みを学んでいます。倒幕を機に帰国し、帰国後は、大蔵官僚として造幣、戸籍などの政策立案で活躍。退官後は、産業界に於いて500以上の企業の設立に係り、また約600の教育機関や社会公共事業、研究機関等の設立・支援に携わりました。具体的には、「第一国立銀行(第一銀行)」「東京株式取引所(現;東京証券取引所)」「日本鉄道会社(現:JR東日本)」「東京電灯会社(現:東京電力)」「商法講習所(現:一橋大学)」「博愛社(現:日本赤十字社)」などが挙げられます。
【渋沢栄一を称えたドラッカー(1909-2005)】
 「マネジメントの父」「現代社会最高の哲人」「知の巨人」として、現在も世界中から注目されているドラッカーは、渋沢栄一と日本を次の様に称えています。それは、『渋沢は、新しい日本は、古い日本の基盤の上に築かなければならないことを、よく認識していました』、『・・イギリスに住んでいましたが、(西洋の日本化、教育制度、日本の伝統美術、など)すっかり「明治」に魅了されてしまったのです』の言葉です。(「NHKスペシャル 明治1 変革を導いた人間力」〈NHK出版〉より)
 一方、ドラッカー自身の著書でも、『渋沢栄一は、論語にねざした理想の「専門的経営者」像を描いたが、この像にはやがて魂が宿った。渋沢による卓見の奥底には、「マネジャーを支えるのは、財力でもなく地位でもなく責任である」という考え方があり、現実の成り行きを見通すものだった』、『渋沢栄一は、企業と国家の目標、企業のニーズと「個人の倫理」との関係という本質的な問いを提起した。この渋沢栄一の思想と業績が、20世紀における日本の興隆に、大きく貢献した』『プロフェッショナルとしてのマネジメントの必要性を世界で最初に理解したのが渋沢だった』と渋沢栄一を称えています。(「マネジメント、務め、実践、責任」〈ドラッカー著 有賀 裕子訳 日経BP社〉より引用)
 
【渋沢栄一とドラッカーに共通する思想】
 著者は、渋沢栄一の思想「論語と算盤」とドラッカーの思想「integrity of character」には、深い共通点があると指摘します。ドラッカーも渋沢も、新しい時代のリーダー(経営者)のあるべき像を提起していたのです。共通するキーワードは、以下で詳述しますが、「正しさ(道徳・高い視点・責任)」です。
 渋沢栄一は、著書「論語と算盤」の中で、『「道義を伴った利益を追求しなさい」それと同時に、「公益を大事にせよ(経営者だけが利益を得るのではなく、社会全体が利益を得る“理念”“倫理”にかなう志の高い経営を行わなければ、幸福は持続しない)」』、『論語〈道徳〉と算盤〈経営〉を一致させること(道徳経済合一)』など、“道徳をベースとしたビジネス”、及び、“企業人に必要なのは、一企業の利益を超えた、高く広い視点“、の二つの考え方を提起したのです。これこそ渋沢栄一の偉業の本質なのです。
 ドラッカーが最も大切にした「integrity of character」は「人の資質としてのintegrity」と置き換えることが出来ます。辞書では、「正直,誠実,高潔,廉直」ですが、その他、「真摯さ」(「マネジメント- 基本と原則」2001年版・上田 惇生訳・ダイヤモンド社)、「仁」(「ドラッカーと論語」2014年販・安冨 歩著・東洋経済新報社)等の翻訳・解釈もあります。私(筆者)は、『リーダーシップとは正しい事を行うこと即ち責任である。このリーダーシップの極みがintegrity of characterである』(「ドラッカーが伝えたかったこと“未来企業(1992年)第15章を読み解く”」―シックスセカンズジャパン―より引用)との解釈がドラッカーの意に沿うと考えます。
 
【二人の共通した思想に基づく「未来創造」の考え方】
 この共通する思想を視点として、著者は、ドラッカーと渋沢の『「未来創造」の方法論』について解説しています。その解説を、本質と具体的方法論に分けて述べています。次項では、本質について記させて頂きます。二人が実行した具体的方法論については紹介本をお読みください。
本
■ 渋沢栄一とドラッカーに共通する『「未来創造」の方法論の本質』
 著者は次のように述べています。『過去の経験が生かせない大きな変化の時代には、何をどう考え行動すればよいか分からなくなる。この様な時に立ち返るところは変化しない本質である。本質を理解するために学ぶべき人は、ドラッカーとドラッカーが高く評価する渋沢栄一である』。
 加えて著者は言います。『日本人は「本質を見極める」という能力に秀でており、過去もそうであったように、新しい時代の課題に応え、新しい日本を創ってくれると確信している』。
 著者は、この様な考えに基づき、ドラッカーと渋沢の二人に共通する『「未来創造」の本質』を、以下の3項目に要約して、示します。
【「高く広い視点で時代が要請するものを見極めていた」】
 渋沢は、常に天下国家という意識がありました。明治という時代が求める、ありとあらゆる、事業を設立していきました。この事業の設立の順番も理に適っているのです。まず、経済の血流と言われる銀行を設立しました。銀行の次に、明治になり紙幣による納税や、義務教育で学校の教科書が必要になる等、大量の紙が必要になることを踏まえ、製紙会社を設立したのです。
 ドラッカーは、社会が、19世紀に主流の個人事業から、20世紀には人類の大半が組織で働くようになり、組織のマネジメントが機能しなければ人類は幸せになれないという時代の要請に応え、マネジメントの研究に向かいました。ドラッカーの思想の根底にあるのは「人間の幸せ」「仕事を通して人間はどうすれば幸せになれるか」を考え続けた人でした。
 
【「本質を見極めていた」】
 渋沢は、事業において極めて重要なのが「専門的経営者」であることを見極めていました。著書「青淵百話」で、「事業の成否は、経営者に適切な人物がいるかどうか」と述べています。事業を起こす際に、事業を始める遥か前から、経営者に相応しい優秀な人材を探していました。この様に本質を極めたことで、500社もの企業を設立できたのです。
 ドラッカーは、現在の大変化の本質を、産業中心の社会つまり資本主義社会が終わりを告げ、知識社会の到来と捉えます。この知識社会において、事業を切り開いていくために見極める本質を提起しています。それは、『事業の本質としての「顧客」と「知識」』、『顧客を知り尽くすための「分析」と「知覚」』、『知識の生産性を高めるための「統合」』、『古いものの上に新しいものを載せて「一体化する独創性」』、『改革の原理としての正当保守主義(持っている「強みを生かす」)』の5つです。詳細は紹介本をお読み頂ければと思いますが、一つだけ、ドラッカーの本質の深さの例として、上述の「知識」について、説明させて頂きます。ドラッカーは「知識」の本質をこの様に解説しています。『「知識」は本の中にはない。本の中にあるものは情報である。「知識」とはそれらの情報を仕事や成果に結びつける能力である』(「創造する経営者」より)です。
 
【「誰もやっていない新しい道を歩むことを決意した」】
 渋沢は、論語などの思想の影響もあり、高い志を持っていました。心の奥底には官尊民卑への憤りを持っていました。大隈重信の「新しい日本のために一肌脱いでくれ」の言葉もあり、大蔵省の役人になるも、大久保利通との意見の相違から上司の井上薫と共に官を辞するに当たり、民間の実業界に出ることを決意します。「民間に出たら役人にあごで使われるだけ」と慰留を受けるも、決意は変えず、論語の道徳観をベースに、民間における品位と才能のある人材の育成の道を歩んだのです。この高い志・決意が、人材の育成を含め、日本の近代資本主義社会の盤石の礎を築いたのです。
 ドラッカーは、まだマネジメント学のない時代に、GMからの依頼もあり、GMを調査して書いた「企業とは何か」(1946年)を出版します。しかしGMの経営陣から否定され、当時勤務していたベニントン大学の学長からも認められなかったのです。ドラッカーは「成果を上げる責任あるマネジメントこそ全体主義に代わるものである」と述べている通り、ユダヤ系オーストリア人であったことから、ヒトラーの出現を機に、勤務していたドイツを離れ、オーストリアを経てイギリスへ、更にはアメリカへと移ります。家族と別れ、母国を離れ、ユダヤ人同胞の悲劇を知り、ドラッカーの心の奥底には、人間への絶望、独裁者への怒りなど、他人からは推測できない辛い感情を持ちながら、一方で何としても、組織で働く人々を幸せにしようとの強い思いで、マネジメントの研究に突き進んでいったのです。そして「マネジメントの父」と言われるまでになったのです。
本
 渋沢栄一が紙幣の肖像になることの意義(むすび)
 産業人が紙幣の肖像になるのは、渋沢栄一が初めてです。この機会に渋沢栄一の偉業とその本質、及び、渋沢栄一を称賛したドラッカーとの二人に共通する『「未来創造」の方法論の本質』を学び、私たちの経営に生かしていこうではありませんか。
本
【酒井 闊プロフィール】
 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。  企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。
【 注 】  著者からの原稿をそのまま掲載しています。読者の皆様のご判断で、自己責任で行動してください。
本
■■ 経営コンサルタントへの道 ←クリック
 経営コンサルタントを目指す人の多くが見るというサイトです。経営コンサルタント歴半世紀の経験から、経営コンサルタントのプロにも役に立つ情報を提供しています。