本  【経営コンサルタントのお勧め図書】「history」から学ぶ  大東亜戦争へ至る歴史 2311

経営コンサルタントがどのような本を、どのように読んでいるのかを教えてください」「経営コンサルタントのお勧めの本は?」という声をしばしばお聞きします。

 日本経営士協会の経営士・コンサルタントの先生方が読んでいる書籍を、毎月第4火曜日にご紹介します。

 

 【経営コンサルタントの本棚】は、2012年に、経営コンサルタントがどのような書籍を読んでいるのか知りたいという、ブログ読者の声を反映して企画いたしました。

 幸い、日本で最初に創設された経営コンサルタント団体である日本経営士協会には優秀な経営士・コンサルタントがいらっしゃるので、その中のお一人である酒井闊先生にお声をかけましたところ、ご協力いただけることになりました。

 それが、今日まで継続されていますので、10年余もの長きにわたって、皆様にお届けできていることに誇りを持っています。

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■    今日のおすすめ

『(増補版)「大東亜戦争へ至る歴史」国際的視点から戦争の誘因を探る』

                    (斎藤 剛著 株式会社22世紀アート)

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■ 「大東亜戦争へ至る歴史」が追究する「真実な歴史」(はじめに) 

  紹介本との出会いは、友人の元千葉文化振興財団理事長で近現代史研究家の著者が紹介本を出版したとの情報を得たことでした。早速手に取って読みました。
 驚いたことがあります。それは著者の視点です。単なる史実(歴史の事実)に止まらず、歴史の探求(history)をnarrativeに語り、その語り方はX軸(「通史」の軸)・Y軸(国際的視点と地政学的視点)・Z軸(関係する個人個人の人間力)の立体軸で語っていることです。X軸の時間軸については、幕末まで遡り、大東亜戦争に至る思想的背景を探索しています。Y軸については、著者の得意とする西洋史観により、日本と世界のシナジーを「歴史綜合」的に語っています。X軸については、史実に係ったリーダーの人間力の良し悪しが歴史の良否を決めていることを解説します。最も貴重なことは、「ファクトに基づく真実」を追及していることです。
 ファクトに基づく真実の例として『「大東亜戦争」と「太平洋戦争」の違い』があります。戦後1945年12月、GHQは「大東亜戦争」の用語を禁止しGHQが創った「太平洋戦争」の用語を使うよう指令を出します。著者は、「日米開戦の原因は、戦略的・意図的に日本を開戦に引込んだ、アメリカにある」とします。GHQは「悪いのは日本の軍部であるという史観」を押付けるために、「太平洋戦争」の用語を使うよう指令したのです。本欄では、日米戦争の呼称を、幕末から連綿と続くアジア主義(アジアとの連携を求める)に基づき、アジアに於ける「欧米列強の植民地主義に終止符を打った(アーノルド・トインビー)」という戦争の本質を現し、史実的に正しい、「大東亜戦争」の用語を使います。
 なお、本欄で「history」を用いる意義は、語源のギリシア語historia(探究)の意味と著者の意図の合致を強調したいからです。「historia」の意味は『歴史は単に人間世界で生起する史実の連続や全体像を語るのではなく,その史実の持つ意味・示唆を探究することである』です。
 紹介本からの多くの新しい発見に基づき、次項で『「大東亜戦争へ至る歴史」の「history」から学ぶ「経営」への示唆』を記させて頂きます。

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■ 「大東亜戦争へ至る歴史」の「history」から学ぶ「経営」への示唆』

【「日米開戦の双方の戦略の巧拙」から学ぶ「経営戦略のあり方」】
 紹介本から日米開戦における日米の戦略の巧拙を見ることが出来ます。日米の戦略の巧拙を『「戦略ストーリーの5C理論〔注1〕」と「戦略ストーリーの“骨法(根本)10か条”理論〔注2〕」-楠木健「ストーリーとしての競争戦略」より-』から分析してみましょう。
 米国大統領ルーズベルトの戦略は、5C、10カ条全てを満たしています。それに対し、日本の真珠湾奇襲戦略(山本五十六連合艦隊司令長官と永野軍令部総長〈東条内閣〉が遂行)は、著者の表現『日本軍は作戦偏重で戦術には優れていても、経済、輸送・兵站などトータルな戦略を立てる システムも人材も不足していた』の通り、『長期戦では負けるとの認識による「短期決戦に勝利し講和に持ち込む」』というCompetitive Advantage(競争優位)だけに止まり、残りの4Cは欠けているのです。
 さらに言えば、日米双方の一番の戦略上の相違は、戦略における「クリティカルな検証(10カ条の③)」です。ルーズベルトの最大の「懸念」は1940年11月の大統領選における公約である「皆さんのご子息を決して海外の戦争に送らない」でした。ルーズベルトは、宣戦布告(日本外務省のミス?)もない真珠湾奇襲攻撃を事前に察知しながら、敢えて甚大な被害を受入れ、日本に真珠湾奇襲攻撃をさせ、それを「無通告のだまし討ち」とアメリカ国民と全世界に訴え、国民世論を味方につけ「議会の日本への宣戦布告決議」へと繋げていくのです。ルーズベルトはこの「懸念」をクリティカルな課題として持ち続け真珠湾奇攻撃を活用し「懸念」をクリアーしたのです。
 ルーズベルトは英国首相チャーチルの要請を受けたドイツ戦への参戦の機会を懸命に創ろうとしていましたが、日本の真珠湾奇攻撃により、大統領選での公約て「懸念」がクリアー出来、ノルマンディー上陸作戦(1944年6月6日)に向けて走るのです。
 一方日本は、「短期決戦に勝利し講和に持ち込む」戦略が失敗した場合の次の戦略は全くなく、ミッドウエー海戦以降負け続け、敗戦に至るのです。「クリティカルな検証(10カ条の③)」の欠落により、失敗する確率の高さを考慮しないまま開戦した日本の戦略上の誤りは明らかです。


〔注1〕5Cとは:
  ① Competitive Advantage(競争優位)戦略の最終的な帰結論理。起承転結の結。
  ② Concept(コンセプト))戦略目的の設定。起承転結の起。
  ③ Components(構成要素)ライバルとの差異化・差別化。起承転結の承。
  ④ Critical Core(クリティカル・コア)独自性と一貫性の源泉となる戦略の中核的な構成要素。起承転結の転。
  ⑤ Consistency(一貫性)構成要素をつなぐ因果論理。戦略ストーリーの評価基準。〔注1の補足〕5Cと起承転結:
  ² 『起』は「コンセプト」です。コンセプトを具体的な「構成要素」にブレイクダウンするのが『承』です。構成要素が相互に繋がることによって「競争優位」を確立し、戦略目的を達成・持続します。これが『結』です。そして『転』は全ての「構成要素」を実現可能にする「クリティカル・コア」です。「コンセプト」と「クリティカル・コア」が戦略の良否を左右する重要なカギとなります。「一貫性」は戦略の評価・検証基準。
〔注1〕「スターバックスの戦略ストーリーにおける『5C』」


〔注2〕10カ条とは:
  ① エンディングから考える。   ⑥失敗を避けようとしない。
  ② 普通の人々の本性を直視する。 ⑦賢者の盲点を衝く。
  ③ 悲観主義で論理を詰める。   ⑧競争他社に対してオープンに構える。
  ④ 物事が起きる順序にこだわる。 ⑨抽象化で本質をつかむ。
  ⑤ 過去から未来を構想する。   ⑩思わず人に話したくなる話をする。


【その他の学び】
 上述以外に、『大東亜戦争の開戦に繋がる「外交の失敗」から学ぶ』など、著書から多くの新しい発見が有りました。


■ 「歴史の持つ意味・示唆」に注目しよう(むすび)
 「大東亜戦争に至る歴史」の「history」から、経営への示唆を見てきました。これからも『歴史の持つ「経営」への意味・示唆』に注目していきたいです。

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【酒井 闊プロフィール】

 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。
 企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。

  https://www.jmca.or.jp/member_meibo/2091/

  http://sakai-gm.jp/index.html

【 注 】  著者からの原稿をそのまま掲載しています。読者の皆様のご判断で、自己責任で行動してください。

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