■■【経営コンサルタントのお勧め図書】世界標準の経営理論から学ぶ
「経営コンサルタントがどのような本を、どのように読んでいるのかを教えてください」「経営コンサルタントのお勧めの本は?」という声をしばしばお聞きします。
日本経営士協会の経営士・コンサルタントの先生方が読んでいる書籍を、毎月第4火曜日にご紹介します。
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今日のおすすめ
「世界標準の経営理論」(入山 章栄著 ダイヤモンド社)
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「世界標準の経営理論」の目指す経営理論(はじめに)
著者は日本の経営学に一石を投じた学者です。それは、世界の主流の経営学である「演繹的理論」「実証性経営理論」を日本に持ち込み、広めたことです。その様な観点から紹介本に注目して頂ければと思います。(経営学の「演繹的理論」⇔「帰納的理論」、「実証性経営理論」⇔「規範性経営理論」の詳細については本ブログ「経営コンサルタントの本棚2015.3.24」をご覧ください。)
紹介本では「世界標準」と言える約30理論を選び解説しています。著者は『「ビジネスの真理に肉薄している可能性が高い」理論』『歴史の浅い経営学にしっかりとした基盤を持たせる「経済学、心理学、社会学ディシプリン」理論』として生き残ってきたものの中から「説得性(Whyに応える)」「汎用性(無数の事象に適用できる)」「普遍性(時代を超えて不変)」を基準に「世界標準理論」を選んでいます。
この結果、「コンサルティング実務等から生まれ、ビジネス現象を分類・整理しているだけで、Whyに応えていない」多くのフレームワークは「経営理論と関係のないフレームワーク」として紹介本には全く触れられていません。紹介本で触れているフレームワークはポーターのSCP理論に基づく「ファイブ・フォース」「コスト主導、差別化戦略」、バーニーのRBV理論に基づく「VRIO分析」のみです。
紹介本には斬新的な視点の経営理論が多く掲載されています。“はじめて知って得する”経営理論も発見できます。約30理論の一つ一つの理論から、「思考の軸」を通して、「思考の探索と深化」を行い、多くのビジネス事象に対し時代を超えて、有為な意思決定を可能にします。
字数の関係もあり既知の理論はさておき、先ずは“はじめて知って得する”経営理論の中から、日本企業に有益と思うbest twoを次項で紹介します。
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はじめて知って得する『日本企業に有益な「経営理論」』best two
【未来を創り出す「センスメイキング理論」】
アメリカの組織心理学者カール・エドワード・ワイク (1936年~) が1969年に発表した「センスメイキング理論」とは「組織のメンバーや周囲のステークホルダーが、事象の意味について納得(腹落ち:センスメイク))し、それを集約する(方向性を揃える)プロセスを把握する理論」と定義されています。さらに発展させたヘンリー・ミンツバーグ(1939年~ )は「新規事業の計画に於いて、まず初めはとにかく行動し、やがて次第に大まかな方向性が見えてきて、さらに形(センスメイク)になっていく理論」と定義します。
これらの理論は「ものの見方・認識は、主体と客体の相互依存関係の上で成立する」という認識論的相対主義に基づいています。具体的には『行動して試行錯誤を重ね、もがいていく間に、やがて納得するストーリーが出てくる。そしてそのストーリーに納得しながら前進する。そのことにより新しい未来を創り出せる』理論と言えます。
事実、ホンダがアメリカ市場に大型バイクの市場開拓を目指しましたが、失敗をします。そこで小型バイクの市場開拓のストーリーを描き、実行し大成功をおさめます。行動を起こし、もがいていかなければ、成功への納得ストーリーは出てこない事実を示しています。
新規事業については、『新しい環境に行動で働きかけ(enactment)、環境への新たな感知・認識(scanning)をし、それを分析・解釈・意味付け(interpretation)をし、納得(レトロスペクティブ・センスメイキング:事後的腹落ち〉)する』センスメイキング・プロセスを通して策定されるストーリーが大切なのです。ここで強調しておきたいことは、事後的にしか腹落ちストーリーが生まれてこないことです。
「センスメイキング理論」は事業環境が大きく変化する日本企業にとって前進を促す経営理論です。
【“競争”オリエントの「レッドクイーン理論」、
“知の探索”オリエントの「新レッドクイーン理論」】
レッドクイーン理論は、アメリカのウィリアム・P・バーネットとモーテン・ハンセンによる「The Red Queen in Organizational Evolution」論文の発表(1996)に遡ります。論文名の「The Red Queen:レッドクイーン」は、アメリカの生物学者リー・ヴァン・ヴェーレンの生物学進化論「赤の女王仮説」に由来します。
ヴェーレンは、進化に関する仮説「敵対的な関係にある生物種相互間では進化するために競走が必要」の発表(1973年)に際し、英国作家ルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」の続編「鏡の国のアリス」に登場する「赤の女王(レッドクイーン)」の台詞である「他の場所に行きたいならば2倍速く走らねばならない」を想起し、論文名に「レッドクイーン」を使用したのです。
経営学の「レッドクイーン理論」について簡単に説明します。ポーターの「SCP理論」は、『差別化による「競争を避ける」』戦略を説きますが、 レッドクイーン理論は、『ライバル企業と切磋琢磨の「競争をする」ことで互いを高め合う』戦略を説きます。レッドクイーン理論により競争力を互いに高めているのは日本の自動車産業です。
一方、レッドクイーン理論の重要なメッセージは「レッドクイーン理論の罠」です。それはライバル企業領域では進化出来ても、他領域での競争や環境変化には対応できないことを警告しています。(「新レッドクイーン理論」)
大変化時代の本当の競争相手はライバル企業ではありません。「真の競争相手」は「自身のビジョン」です。「自身のビジョン」は「知の探索」をサーチ∞確立(腹落ち)を続けることで求める事が出来るのです。「鏡の国のアリス」の台詞で暗喩するならば『相手より2倍速く走ることを目指すべきではない。空を飛ぶことを考えるべきなのだ』と提言しているのが「新レッドクイーン理論」です。
これからの日本企業にとっては「新レッドクイーン理論」がより重要となるのではないでしょうか。
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「世界標準の経営理論」の知見により経営を革新しよう(むすび)
紹介本は経営の思考に新たな光を与えてくれます。既知の理論においては、思考を深めることで新たな発見があります。初めて知る理論からは新たな思考経路からのひらめきがあります。
800ページを超える紹介本は読みでがありますが、一つ一つの理論の「思考の軸」に従い、自身のビジネス現象に対するHow When Whyを問い、行動すべき答えを出してみましょう。必ず得るものがあります。次に、答えとして出て来た行動を「深化」してみませんか。さあ、経営の革新へのスタートです。
【酒井 闊プロフィール】
10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。
企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。
http://www.jmca.or.jp/meibo/pd/2091.htm
【 注 】
著者からの原稿をそのまま掲載しています。読者の皆様のご判断で、自己責任で行動してください。
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