■■【時代の読み方】 あなたの老後の資金が減らされる

 時代の流れを、時系列的に見ると、見えないものが見えてくる。



◆ 厚生年金基金廃止で、老後が危ない

 まだ若いサラリーマンにとって、老後年金や年金基金で生活できるのかと心配されている方も多いのではないでしょうか。
 NHKのテレビ番組で、厚生年金基金について藤野優子解説委員が解説していましたので、エッセンスを紹介しておきます。

◇1 厚生年金基金とは

 ご存知の方も多いと思いますが、政府は、財政悪化が問題になっている厚生年金基金の多くを廃止する方向です。

 厚生年金基金は、企業が独自に運用して、厚生年金に上乗せして支給している企業年金のひとつです。任意加入なので、加入されていない人も多いと思います。

 年金というのは、3階建てになっています。一階部分は、基礎年金といって、国民年金に相当します。2階部分が厚生年金で、企業と受益者(サラリーマン)が原資となるお金を50%ずつ、給与支給日に天引きされて積み立てられています。3階部分が、厚生年金基金です。

 大企業は企業単独で運営していますが、昨今では、中小企業が単独ではなく、数十社が集まってひとつの基金を運営しているところが多くなっていて、いわゆる公的な年金とは性格の違うものです。


◇2 厚生年金基金廃止による影響

 すでに年金を受け取っている、いわゆる年金生活者の場合から、廃止されたときの影響を見てみましょう。

 すでに年金を受給している人の三階部分は、サラリーマン寺大の年収等によっても異なりますが、平均すると1か月に6000円程度が厚生年金に上乗せされています。すなわち、月額で収入が、6000円少なくなるという計算です。

 現在現役のサラリーマンの場合にはどうなるでしょうか。

 3階建ての年金の、3階部分に相当する厚生年金基金が廃止されるので、年金受給年齢に達した場合には、この部分が支給されなくなります。上乗せ部分がなくなるだけではなく、これまでの掛け金が無駄になってしまいます。

 その対象となる人の数は、厚生年金基金の加入者と受給者の9割、約650万人に影響が出るのです。あなたも、その対象者になっている可能性があるのです。


◇3 なぜ厚生年金基金が廃止されるのか

 厚生年金基金の加入者と受給者の9割、約650万人に影響が出るのに、なぜ厚生年金基金制度が廃止されるのでしょうか。

 その原因は、厚生年金基金の財政が悪化していて、公的な厚生年金にまで悪影響が出ているからなのです。

 なぜ厚生年金にまで影響が出ているのかかといいますと、その構造にあります。厚生年金基金というのは、投資などに資金運用して、そこから利益を上げているのです。ところが、厚生年金基金用の原資だけでは、運用しても充分な金額になりません。

 そこで、厚生年金基金として源泉徴収された原資だけではなく、厚生年金の原資の一部が、前者に上乗せされて「運用」されているのです。この仕組みは世界に例がない、日本独自の特殊な仕組みといえます。

 景気が良ければ資金運用もうまくいきます。ところがバブル崩壊で状況が大きく変わってしまったのです。運用環境が悪いですから、利益どころか損失が続発してしまったのです。その結果、基金の原資が底割れしただけではなく、厚生年金の部分にまで、損失の影響が出てきてしまっているのです。


◇4 厚生年金基金破綻の損害を最小限度の押さえる

 厚生年金の原資までが、リーマンショックで少なくなってしまったために、厚生年金基金が廃止される運命になることが理解できたと思います。

 厚生年金制度が崩壊しては、社会的な影響は甚大です。

 当然、政府として、この問題を放置できません。厚生年金の損失がこれ以上広がらないうちに、早く廃止して、深刻な問題にならないうちに何とかしようということで、廃止されるのです。

 とにかく、3階部分の崩壊には目をつむり、2階部分の壊れたところを早急に修復しようということです。

 まずは、基金として運用に失敗した企業に損失を返済してもらいます。


◇5 厚生年金基金はどうしても廃止しなければならないのか

 厚生年金基金破綻の影響を最小限に抑えるために、この制度を廃止するという方針ですが、アベノミクスで株価も上がり、運用状況が良くなっているにも関わらず廃止しなければならないのでしょうか。

 現状、株価は上がっています。しかし、2013年3月末の日経平均株価をもとに推計してみますと、全体の4分の1の厚生年金基金が、厚生年金にまで損失を出しています。その損失額総額は約4700億円にものぼります。

 今後、仮に株価が数千円あがったとしても、損失額の金額が大きすぎて、アベノミクス効果だけでは、問題の根本的な解決にはつながらないのです。それだけリーマンショックの影響の大きさが、うかがい知れる状況なのです。

 高度成長期なら、株価が2倍、3倍になることも考えられますが、過去の運用実積からみても、たとえ一時に持ち直しても、わずか数年で再び悪化するという変動リスクがあるのです。

 もし、企業が、この厚生年金部分の損失を返済できないと、厚生年金基金とは関係ない、他の厚生年金の加入者が納めた保険料を、損失の穴埋めに使うことになります。

 関係のない人にまで、影響が及ぼされることは、政府だけではなく、多くの人が納得できないでしょう。


◇6 厚生年金基金はすぐに廃止されるのか?

 これまで、怖い話ばかりをしてきましたが、厚生年金基金がすぐに廃止され、それがすぐに現実の問題となるのかということについて触れたいと思います。

 すべての厚生年金基金において、大きな損失を出しているというわけではありません。

 財政状況が悪化して、厚生年金にまで損失を出している企業や基金については、今後5年以内に廃止されます。

 それ以外の比較的影響が少ない基金においても、財政が安定していないところは、順次廃止されるます。

 ただし、中には、厚生年金から借りた資金の1.5倍以上の資金を持っている厚生年金基金もあります。このような優良基金は存続が認められます。


◇7 あなたの厚生年金基金はどうか?

 優良な厚生年金基金は存続が認められますが、あなたの会社はどうでしょうか?

 優良な基金は、全体の10%程度あります。

 では、存続が認められる10%の厚生年金基金は、今後も安心なのでしょうか。

 そうありたいのですが、かならずしもそうとは言い切れません。

 そのために、今後、運用状況が悪化すれば基金を廃止するという明確なルールが設けられます。

 また、現状で財政が安定していても、将来、悪化するかもしれませんので、それを懸念して、自発的に厚生年金基金を廃止する企業も出て来るでしょう。別の企業年金にかえて、上乗せ分の年金額を減らしたりする可能性もあります。


◇8 あなたの厚生年金基金が存続できるかどうかを知る方法

 自分が加入している厚生年金基金が存続できるのか、あるいは存続を止めるのか、サラリーマンにとっては大きな問題です。

 それを知る方法はないのでしょうか?

 自分が勤務している会社を通じて、加入している厚生年金金基金の財政状況がどうなっているのか、存続できる可能性があるのか、疑問に思っていることを問い合わせてみるという方法があります。

 是非、問い合わせて、状況を確認した上で、あなたがどうすべきかを判断すべきです。

 しかし、具体的な財政状況を問い合わせても、まともな答えが返ってこない可能性があります。その背景には、厚生年金基金の幹部に、旧社会保険庁のOBが多数入っているからです。

 高齢者や加入者にわかりやすく、各厚生年金基金がその財政状況や今後どうなりそうなのかといった情報を、早めに伝えるべきです。


◇9 政府は最善な善後策を早急に

 皆さんを脅すようなことを書いて来ましたが、国会審議はこれからです。この法案が、そのままの内容で決まるかどうかはまだ分かりません。( <m(__)m> )

 野党の中には、一部の厚生年金基金を存続させるという与党案に反対しているところもあります。しかし、遅かれ早かれ、多かれ少なかれ厚生年金基金が廃止されるという方向性は変わらないと思います。

 これは藤野解説委員も同意見のようです。

 とにかく多くの人の生活に影響が出ることですので、この問題に手を付けてこなかった政府は、その責任の大きさは認識して、最善の策を講じ、状況を国民に速やかに知らしめるべきです。