■■【経営コンサルタントの独り言】 南海トラフ巨大地震の被災想定

 NHKで南海トラフ巨大地震の経済被害想定を採り上げ、山崎登解説委員の解説に驚いた人は多いと思います。

◇1 南海トラフ地震の巨大さを知る

 政府の中央防災会議の作業部会このほど、被害想定を220兆3000円と発表しました。

 18年前の阪神・淡路大震災の被害が約10兆円、東日本大震災が約17兆円ですから、桁違いの途方もない金額です。

 「想定外」という言葉を使えなくなった雰囲気から「自由気ままに数字を発表しても非難されることがない」というように考えているかのように巨大な数字が次々と発表されるようになりました。

 中央防災会議の作業部会は2012年8月に、南海トラフで、M9.1の科学的に考えられる最大規模の巨大地震が起きた際に、激しい揺れと大津波で32万3000人もの死者が出る恐れがあると発表しました。

 今回の発表は経済的な被害額とともに、断水や停電の影響、それに避難者の人数などを予測し、被害想定の全体像を発表したものです。

 あまりにも数字が大きいために、かえって麻痺してしまっていることが懸念されるほどです。


◇2 なぜ想定数字が巨大化するようになったのか

 昨日の当ブログで、南海トラフ巨大地の被災想定数字があまりに巨額な数値であることをお話しました。

 被害総定額などの数字が大きくなって戸惑う人、逆に大きすぎて想像できない人、逆に麻痺してしまうことを懸念する人、いろいろな人がいると思います。

 では、なぜ被害想定額がこのように肥大化してきたのでしょうか。

 その背景には、内閣府が、発表する被害想定の性格を変えたことがあります。

 阪神・淡路大震災以降、地震防災対策を進める被害想定手法を採用しました。それまでは同じ災害を2度と起こさないようにするのが目標です。しかし、それでは将来の新たな地震に備えることができません。

 そこで今後発生する可能性のある地震を具体的に想定し、建物や経済的な被害を推定して、それを減らすための対策を進める手法をとるようになったのです。

 このとき想定したのは、過去200年から300年ほどの間に繰り返し起きてきた地震で、それは自治体や住民が対策をとれる範囲、つまりは対策の目標となる想定でした。

 このように想定方法を変更したのですが、東日本大震災は、1000年に1度起こるかどうかの巨大規模でした。1000年以上前に、仙台平野を同じ規模の津波が襲っていたことが事前に広く伝えられていなかったのです。

 すなわち「想定外」が再び発生し、危機感が不充分だったのです。もし、それを前提に対策を進めていれば、今回のような人命問題は遙かに少なかったと言えます。

 このことに鑑み、対策がとれるかどうかに関わらず、最大級の被害を予測することになったのです。換言すれば、東日本大震災前は、今後も繰り返し襲ってくる可能性のある地震の被害想定でしたが、東日本大震災の後は、いつ起きるかわからない地震の被害想定ということがいえます。


◇3 災害リスクに対する対策の進め方

 前回は、想定数字が巨大化してきた背景についてお話しました。では、大きな災害に対してどのように対応するのかについて考えてみましょう。

 いつ起きるかわかりませんものの、ひとたび起きると甚大な被害が出る恐れがある災害のリスクをどう受け止め、どう防災に生かすかは難しい問題です。

 2012年8月に、南海トラフの巨大地震で震度7の激しい揺れと高さ30mもの大津波が襲ってくるとする想定が発表されました。

 その数字が極端に大きく、自治体や地域の住民の中から、対策の取りようがないということで、対策を諦めてしまうといった反応がでました。防災意識を高める狙いとは逆の反応だったのです。

 20年ほど前に、大雨による浸水被害ハザードマップが発表した時、被害が予測された地域の住民がパニックになりました。それだけに留まらず、土地の価格や取引など経済活動にまで大きな影響がでて、資産価値が下がるということまで発展してしまいます。

 その結果、この種の情報発表に反対する声が上がってしまいました。

 ハザードマップの持つ意味と役割が理解されればこのような混乱にはならないのですが、発表の方法にも工夫が欠けていたことを反省すべきです。

 内閣府は東日本大震災以降、被害想定の意味合いが変わったことをもっと丁寧に説明すべきです。そうでないと不安を煽るだけです。


◇4 被害想定をどう読むか

 巨大な数字の羅列による被害想定から何を読み取れば良いのかNHKの解説委員である山崎登氏は、3つの課題を挙げています。原文を紹介して起きます。

(1)地域別の防災策の見直し

 まず国は、超広域の災害にどう立ち向かうかを検討し直さなくてはいけません。現在、南海トラフで大きな地震が起きた時の救援救助の計画は、関東から東海地方へ、中国地方から近畿地方へ、九州から四国へと人や物資を送り込もうというものですが、茨城県から沖縄県までの40の都府県に被害が及ぶことを考えますと、この計画では間に合いません。

 東日本大震災の時には数日経っても被害の全容がつかめず、交通網が寸断されて救助や救援の手を思うように伸ばすことができませんでした。民間のヘリコプターを総動員してことにあたるといった、新しい視点からの対策を検討する必要があると思います。

(2)地域の総合力の発揮

 2つめは、被災が心配される自治体は病院や学校、企業や事業所など地域の総合力で支え合って暮らせる態勢を構築する必要があります。

 ほとんどの自治体や地域が発災から数日後には食料や水などの救援が届くことを前提にしていますし、中小の企業や事業所の対策や備蓄は遅れているといわれます。東日本大震災では、一週間近く経っても食料や物資が届かない所がありました。今回の被害想定では避難者は950万人にものぼります。この人数にくまなく食料や水を届けることは不可能です。それぞれの自治体や地域で、一定期間、助けがなくても暮らせる力を蓄える必要があります。

(3)建物の耐震化推進

 今回の被害想定の直接被害の内訳をみますと、7割にあたる119兆1000億円が住宅や公共施設などの建物が壊れることによるものです。

 したがって、建物を地震に強くすれば被害は激減することになります。現在も、全国の住宅の5軒に1軒が耐震基準を満たしていないとみられます。東日本大震災の後、どうしても津波対策に目が向きがちですが、最も重要な地震対策の一つが建物の耐震化だということは忘れないようにしないといけません。


 これまで国や自治体、地域住民が進めてきた多くの防災対策は、担当者の熱意や取り組み姿勢に左右されてきました。担当者が変わってしまうと取り組みが薄れたり、なくなったりしまうことが多々ありました。

 市町村では、防災担当者が2、3年で変わるところが多く、それをどのように引き継ぎ、継続させるか、行政も企業も住民も、担当者や世代が変わっても継続していけるかを真剣に考え、取り組んでいくべきです。
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