■■【経営コンサルタントのお勧め図書】初の日本発経営論:知識創造


 「経営コンサルタントがどのような本を、どのように読んでいるのかを教えてください」「経営コンサルタントのお勧めの本は?」という声をしばしばお聞きします。

 日本経営士協会の経営士・コンサルタントの先生方が読んでいる書籍を、毎月第4火曜日にご紹介します。

      今日のおすすめ

 『知識創造企業』

The Knowledge Creating CompanyHow Japanese Companies Create the Dynamics Of Innovation』=英語版タイトル

    (著者:野中郁次郎+竹内弘高 訳:梅本勝博 発行所:東洋経済新報社)

      1970~80年代の日本企業の成功要因を解く(はじめに)

 この本は1995年に米国で出版され、当時の、全米出版社協会「ベストブック・オブ・ザ・イヤー」を受賞しました。英語版のサブタイトルにあるように「いかにして日本企業はイノベーションのダイナミズムを作り出したか」と、1970~80年代の日本企業の成功した要因を、当時の成功企業の事例を取り上げつつ、理論的・体系的に説明した本です。

 20年も前に書かれた本であれば、現在のマネジメントに役立つのかと思われるかもしれませんが、その理論は今でも十分役立つ内容と思います。

 この本が示す理論の中で、最も有名なのが、いわゆる、「SECIモデル」といわれるナレッジ・マネジメントに関るフレームワークです(次項で詳述)。これ以外にも連続的にイノベーションが起きる組織・企業はどの様な要件を備えているのかについて、この本で述べられています。現在の企業経営においても大いに参考にすべき、傾聴に値する理論と思います。    

 それでは早速、この本が説明する、「成功する日本企業」「組織的知識創造企業」「イノベーションの継続的創出企業」の要件を見てみましょう。

      日本企業の成功要因は「知識創造」による連続的イノベーションの創出

【「知識創造」による連続的イノベーションを創出する要件】

 この書では、連続的イノベーションを創出する要件として、七つの項目を挙げています。

 第一は、「知識創造」は個人レベルにとどまらず、他者との共有、グループや組織レベルで共有され、相互作用の中で、知識が組織的かつスパイラルに高度化される、「組織的知識創造」になる必要があります(存在論的次元)。

 第二は、「知識創造」プロセスに関する深い理解が必要としています。即ち、暗黙知と形式知の2種類の知識を区別することから始まります(認識論的次元)。この2種類の知識の相互作用・知識変換つまり共同化(暗黙知の共有による暗黙知の高度化=Socialization)、表出化(暗黙知を言語・数値化による形式知へ=Externalization)、連結化(形式知と形式知が連鎖し新たな形式知を生む=Combination)、内面化(形式知の共有が新たな暗黙知を生む=Internalization)という4つのプロセスが、第一で述べた、組織軸(存在論的次元)と相俟って、スパイラルに高度化して行くプロセスを深く理解できることが必要です(これが「SECIモデル」と呼ばれるものです)。

 第三は、「組織的知識創造」を可能にする組織環境が必要です。知識スパイラル・高度化を可能にする、5つの組織条件を上げています。意図、自律性、ゆらぎ/創造的カオス、冗長性、最小有効多様性です。言葉だけでは解りにくいと思います。詳しくは、本書(読みごたえがありますが)読んでいただくと成程と解って頂けます。私は、この5つの条件の中で「ゆらぎ/創造的カオス」即ち、事業の状況を常に「不確実性」と捉える経営者の姿勢、組織の緊張感が、成功するかどうかの分岐点になると思います。

 第四は、「組織的知識創造」が、実際のケース・スタディを通じて、非線形的(単純でない)相互作用プロセスであることを理解する必要があります。本書では「ファイブ・フェイス・モデル」と呼び、暗黙知の共有(共同化)、コンセプトの創造(表出化)、コンセプトの正当化(内面化)、原型(プロトタイプ)の構築(連結化)、知識の転移(連結化)のプロセスとして表れ、4番目までは「水平的」な動きですが、5番目の知識の転移は非水平的(縦・放射的)に動き、別の組織での新たな活動(イノベーション)に結びつくとしています。詳細は本書お読みください。

 第五は、マネジメント組織として、「ミドル・アップダウン・マネジメント」が最適であるとしています。それはトップ・ダウン・マネジメントモデルとボトム・アップマネジメント・モデルの欠点を意識し、長所を取り入れた「ミドル・アップダウン・マネジメント」が「組織的知識創造」企業に必要な組織としています。つまり、ミドルがトップとボトムの「架け橋」「結節点」になることにより、はじめて「組織的知識創造」が可能になるとしています。私は、「失われた20年」の初めに社会に出た世代が、今のミドル層だと思い、この層の育成・活用に十分な投資と対応・マネジメントが成されていなかった処に、一部の不振企業の不振の要因となっているのではと思いました。

 第六は、これも組織論ですが、形式的な「階層(ヒエラルキー)組織」と柔軟な「任務(タスクフォース)組織」の短所と長所を意識し、「ハイパーテキスト(多組織連結)型組織」が最適としています。本書で事例として上がっている企業で、今も成功している企業として、花王の例が上がっています。花王の研究開発組織、市場の声を誰もが検索できる「エコーシステム」などは、今日でも十分参考になる「ハイパーテキスト(多組織連結)型組織」の事例と思います。

 第七は、「組織的知識創造」における日本的な方法と、西洋的な方法の長所の統合(synthesis)が必要と説きます。日本的な弱点は、分析方法や文書化に弱いところに加え、過去の成功体験に過剰反応しやすい点、誤った多数派・強硬派の意見に流されやすい点を挙げています。西洋的な弱点は、個人的な知識創造の要素が強く、「組織的」知識創造が弱い点を挙げています。「失われた20年」はまさに日本の弱点が、顕になってしまった点にあると思います。傾聴したいところです。

【七つの要件はどれも重要】

 「知識創造企業」と聞くとすぐに思いつくのが有名な「SECIモデル」です。

 このモデルの理解も大切ですが、この「SECIモデル」が可能となる「ミドル・アップダウン・マネジメント」「ハイパーテキスト(多組織連結)型組織」の組織つくりや、組織環境つくりのための5つの組織条件も重要です。またグローバルに展開している現地で、「組織的知識創造」を可能にする仕組みつくりも大切です。

 この機会に、本書を熟読され、成功する企業、連続的にイノベーションを生み続ける「組織的知識創造企業」を創ってみませんか。それはマネジメントの仕事です。

      「知識創造」によるイノベーションを実現したマツダ(むすび)

 最近久々に嬉しいニュースに触れることが出来ました。「マツダ、過去最高益を更新。どん底から8年ぶりの『ものづくり革新』の成果。」(FACTA 2014年5月号)というニュースです。

 マツダは、2007年の世界金融恐慌の中で、フォードの傘下から離れました。そこには、著者の言う“ゆらぎ/創造的カオス”“不確実性”があり、「ものづくり革新」という組織の“意図”を掲げ続けることが出来たのではないでしょうか。それを“ミドル”が中心となりトップとボトムを連結し、“SECIモデル” と“ファイブ・フェイス・モデル”を具現化し、ハイブリッド車を除けば、世界で始めて1ℓ当り30kmを超える好燃費の新技術エンジンを開発し、レイアウト設計の共通化・工程の単一化・車体のフレーム構造の相似化・10年先までを俯瞰した企画等により、大幅コストダウンと商品力の向上を実現し、2009年3月期から2012年3月期までの赤字、2013年3月の僅少黒字から抜け出し、2014年3月には1,100億円の過去最高の黒字を出すに至ったのです。

 赤字体質からの脱却は、国内工場を中心とした国内生産比率70%という中での達成です。「知識創造企業」が現在も生きていることを証明してくれた明るいニュースと思いました。

 マツダは、今年1月にメキシコに本格的海外工場を稼動させました。メキシコの工場が本格稼動しても、日本の工場をマザー工場として「知識創造」を通じイノベーションを生み続け、メキシコにも「日・墨統合の知識創造」を植えつけていくことでしょう。

 「知識創造企業」の成功要件を学び直し、マネジメントに生かし、マツダに続く新たな日本の成功企業が出てくることを願って止みません。

【酒井 闊プロフィール】

 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。

 企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。

  http://www.jmca.or.jp/meibo/pd/2091.htm

  http://sakai-gm.jp/

 

【 注 】

 著者からの原稿をそのまま掲載しています。読者の皆様のご判断で、自己責任で行動してください。


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