■■【経営コンサルタント竹根の起業日記】 八月五日 釈迦に説法で聴く耳を持たない


 
 【小説・経営コンサルタント竹根の起業日記】は、10年のサラリーマン生活をしてきた竹根好助35歳の経営コンサルタントとしての独立起業日記です。
 これから経営コンサルタントとして独立起業しようと考えている人の参考となることを願い、経営コンサルタントとしての実践を経験的に語るつもりです。

【 注 】
 ここに記載されていることは実在の企業とは何ら関係ありません。


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  八月五日 釈迦に説法で聴く耳を持たない


 週初めの早朝ミーティング後、部長席に行った。二日の打合せの件を問い詰めるためである。

 「そんな約束をしていたか?」「二日は、急に常務と外出することになった」「秘書が二日の日は休みでっあって、スケジュール確認をしなかった」との言い訳に終始、謝罪の言葉もない。

 今日これから、中塩係長を含め、打合せをしたいと強引にねじ込んだ。

 案の定、提案書の中身を読んでおらず、何の提案かの説明で要約し量を取り出して、打合せに入った。幸い、役員専用の小会議室が空いていたので、そこを利用することにした。

 中塩は、プロジェクターを使いながら、私に代わって説明をしてくれた。

 何のコメントもなく、聴くだけで、「うちの部としての採用はすぐにはできないので、竹根君、君の部だけで試験的にやってみてくれ」と、腕時計を見ながら言った。

 頭にきたので、何が問題で、部としての採用ができないのか、問い詰めた。中塩が袖を引っ張って、牽制するほどであった。

 「では、試用期間はどのくらいをお考えですか?」と感情を抑えていうと、「半年か、一年だね」という悠長な回答である。

 「経営にスピードが求められる今日、それでは意思決定が遅く、時間だけがムダに過ぎて言ってしまう」と釈迦に説法を詫びながら言ったが、聴く耳を持たない。


八月四日 P・D・C・Aサイクル

 昨日の日本経営士協会理事長による営業・マーケティング講習会の余韻はまだ残っている。静かな口調の中に、力強さを感じる。流暢な話方ではないのに、話に吸い込まれる。そんな理事長の講師ぶりが思い出された。

 私が自分の部下管理の一環として検討中の進捗管理の重要性も説かれた。「あたり前のことがあたり前にできる」という理事長の口癖も思い出された。

 経営コンサルタントのバイブルにあった「具体的な行動方針・方法論をともに明確にし、その実施および進捗管理を支援する」という、経営コンサルタントの業務を、異なった視点から説明をしてくれたのである。

 資格取得の口頭試問で「P・D・C・Aサイクルについてどう思うか」という質問に対する答えがすっきりと見えた。その主旨は、下記のようである。

 発展的P・D・Cの話をすると「今更P・D・C・Aでもあるまい」と莫迦にする人が多いのですが、「当たり前のことを当たり前にできる」ように変革を進めていくのが管理職の仕事であり、それを徹底して、部下が当たり前のことを当たり前にできるようにしてゆくことが管理職の管理と考えています。

 また、最近はP・D・C・Aというように言い換えられていますが、ふるくはPlan-Do-See と言われてきました。しかし、さらに突き詰めて考えてみるとPlan をたてると言っても、いきなりたてることができるわけではなく、Plan をたてるためのP-D-Sが必要です。すなわち持続的な管理業務におけるデミングサイクルは、「P・D・C」+「S/A」という形にし、P・D・Cの各段階で実行計画Scheduling を立て、調整Adjustingをすべきで、それを既述の発展的P-D-Cに結合して管理を行える企業作りが必要です。

 デミングサイクルのように、一般的に当然と思われるようなことでも、それが実情に即さなければそのまま形だけを導入するのではなく、独自の考えをもって企業支援をするのです。

 すなわち、経営コンサルタントは、既製服というお仕着せの経営手法を企業でそのまま使うのではなくて、経営陣と意思疎通を図りながら、依頼企業の全体最適を考え、最適と考えられる経営手法を創り出して、それをもとに経営支援を行ってくれます。

 たとえば管理職研修においては、既述のような既存のカリキュラムをそのまま適用するのではなく、依頼企業の現状に即した研修コンセプトを明確にして、そのコンセプトをもとにその依頼企業だけに特化した研修目的を構築し、それに基づいたカリキュラムが作成されるのです。A社とB社とでは当然抱える問題点も異なれば、企業が目指す方向も異なります。企業が目指す方向や目的を着実に達成するためには当然それに即して採るべき方法論も異なってくるのです。

 換言すると、どの企業においても同じカリキュラムを、社名だけを変更して研修を行うような経営コンサルタントであれば敬遠すべきです。

 この考え方は、部長への提案である進捗管理手法に盛り込もうと、先般提出した提案書を書き換え、それを中塩係長に送付した。


八月三日 営業・マーケティング講習会

 七月の知修塾の時に、笹本先生がすすめてくれた、理事長による営業・マーケティング講習会の日である。笹本先生は、毎週第一土曜日は、ご自身が主催する勉強会があるので参加はしていない。

 自己紹介の中で、理事長が商社マンであったことを知り、一層親近感を覚えた。営業・マーケティング講習会の講師をするにあたり、理事長は「生産財製造業のマーケティング思考による経営戦略支援を中心に、三五年間経営コンサルタントをやってきました」と紹介した。

 大学の先生かと間違うような風貌としゃべり方と、営業・マーケティング講習会講師というギャップが、その自己紹介で一気に埋まった。

 経営コンサルタントとしてのコンセプトの重要性は、いろいろな先輩からも聞いてきたが、理事長の経営コンサルタントへの取り組み姿勢を聞いて、自分の経営コンサルタントとしてのコンセプトづくりがやりやすくなってきたように思えた。

 自己紹介だけでも、多いな示唆のあることに、営業・マーケティング講習会への期待が膨らみ、受講に身が入った。

 単なる座講だけではなく、グループ討議などを織り交ぜ、配付された資料をもとに個別作業も含めた、今までに体験したことのない一日であった。

 厳しい一日を予想していたが、あっという間に終わってしまった。しかし、学んだ中味は多い。帰宅の足は、疲れを感じるどころか、軽かった。


八月二日 部長のすっぽかし

 午後三時半に、部長と進捗管理システムに伝手の打合せをすることになっている。先日、名古屋出張の折に同行した中塩係長から、活用マニュアルの骨子資料が出ていたので、彼にも同席をしてもらうことにした。

 一番奥の第一商談室に予約を入れていたので、二人で時間より十分前に着席をし、今日のすすめ方について簡単に打合せを始めた。約束の時間を十分過ぎても部長が来ないので、携帯電話にショートメールを入れた。すぐに返事が返ってくるものと思っていたが、何の応答もない。

 中塩が、部長席に呼びに行ってくれたところ、外出中で、今日は直帰だという。

 前日に、部長にこの打合せについて確認をしなかった私が悪いと、中塩に謝罪をした。彼は、苦笑いをしながら、「以前にもすっぽかされたという話を聞いています」と、私を慰めるように言ってくれた。


八月一日 月初めの早朝ミーティング

 月初めの早朝ミーティングは、七時に集合し、トーストとコーヒーの軽食付きで始まる。いつものように、前月の集約を見ながらの問題点、対応策、今後への具体的な実積計画について意見交換をした。

 今月の行動基本は、進捗管理である。

 「先日、進捗管理の方法について部長に提案をしたが、部長が多忙で了解を取ることができなかった」と部下に説明。

 進捗管理のやり方と使用の様式書類を部下に配布し、その説明をした。

 これについては、事前に二人の係長と主任数人を交えて打合せをしているので、ネガティブな質問は出ず、その積極的な取り組みについての意見に溢れた。


七月三十一日 月末業務

 月末は、一か月間の業績集計表を基に、明日の早朝ミーティングの題材を整理する。
 今日の経営士ブログも示唆の多い内容であった。

 経営コンサルタントという職業は、ローマと同様に一日では成りません。先輩コンサルタントについていろいろと教えてもらうのが一番の近道です。
 でも、その先輩がいろいろと教えてくれるとは限りません。経営コンサルタントは、また知識や情報だけでも成り立ちません。コンサルタントとしての技術は、経験を積まないと向上しません。講演やセミナーの講師を進んでやりましょう。

 経営コンサルタントの実力をつけるには、先輩コンサルタントの鞄持ちをするのが近道であるという。しかし、プロの経営コンサルタントが、我々素人に容易に鞄持ちとして連れて行ってくれるとは思えない。どうしたら、先輩が連れて行ってくれるのだろう。
 講師を進んでやりましょうという部分は、私のように話し下手な人間には耳の痛い言葉である。


七月三十日 管理職の活用マニュアル

 一年先輩ではあるが、私が先に課長になってしまった、中塩係長とは馬が合う。彼は、一流国立大学の商学部出身である。

 日帰りで名古屋に二人で出張。往復の新幹線の中で、進捗管理システムの件で、部長をいかに説得するのかで意見交換をした。彼は、記入マニュアルだけではなく、活用マニュアルを作ってはどうか、と言うのである。

 要は、部下には記入マニュアルを持たせ、課長クラス以上の管理職には活用マニュアルで、部下にアドバイスをするという方法である。

 彼は、私と話をしながら、活用法のポイントをパソコンに打ち込み、名古屋に着くまでに勝つようマニュアルの目次骨子が出来上がった。八月二日の部長とのミーティングまでには、それを簡単な追加資料として整理してくれるというのである。


 七月二九日 部長に声を荒げる

 この前の土曜日にまとめた、「進捗管理のあり方」というタイトルの提案書を部長に提出した。その場で、パラパラとでも見てくれるのであれば良いが、「そこに置いといてくれ」と、自分は書類から目を離さず言った。

 こちらは、夜中までかかって書いたのに、その態度にカーとなった。

 「落ち着け、落ち着け」と自分に言い聞かせた。

 「部長、本件について、簡単に説明をさせてください。十分もあれば充分です」といったが、「月曜日なのでいろいろと仕事が溜まっている」と相変わらず、私の方を見ずに返事が返ってきた。

 「部長!・・・」声が荒立った。

 「落ち着け、落ち着け」と再び自分に言い聞かせた。

 「では、いつになったら時間をいただけますか?」

 ようやく、私の方を向いて、「後で連絡する」と言って、再び書類に目を移した。

 以前にも、このようなことがあり、結局こちらから声をかけるまで、その件で、部長から声はかからなかった。

 「部長!後っていつですか?」

 社員の目が、一斉にこちらを向いた。

 その時は「後は、後だ」という部長の答えで引き下がったが、今日はその気にはならなかった。

 部長も、私の剣幕に押されて、手帳を取り出し、「八月二日の午後三時半はどうだ」と返ってきた。私は、スマホのスケジュール表を見ながら、「承知しました。よろしくお願いします」と言って、頭を下げ、その場を下がった。


七月二八日 平凡な日曜日と比叡山

 旅行などに出かける以外の日曜日は、いつも同じことの繰り返しである。早朝ウォーキングと妻の買い物支援で午前中は潰れてしまう。

 午後は子供の相手が多い。七歳の娘は、小さい頃からお父さん子というか、私にまとわりつく。性格も私によく似ていて、大雑把なところがあるくせに、子供ながら人の気持ちを読んで、人の世話をする。

 今日は、経営士ブログを見ている私のパソコンを横から覗き込む。比叡山の写真が紹介されていた。昨年の春休みに家族で京都旅行に行ったので、比叡山を覚えているらしい。ブログの写真を見て、「お父さんがここへ行く途中で転びそうになったね」と思い出し笑いをしていた。

 
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