とある外資系プログラマーのブログ

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このブログは、主に開発に関する備忘録を共有する場所です。プログラムのコーディング、問題の解決、技術的な発見、そして学んだことを記録しています。開発者やエンジニアのための情報を提供する一方で、その他の興味深いトピックにも触れています。

今日は退院の判断日です。

喉の痛みと頭痛はすっかり落ち着き、鼻からの出血もほとんど止まりました。
「ガーゼを抜くと喉の痛みと頭痛が引く」と聞いていましたが、本当にその通り。医学、信用するね私。

とはいえ、鼻そのものには鈍い痛みが居座っています。軟骨を整える手術をしたのだから当然といえば当然。普段は無痛でも、鼻先をちょんと触ったり、鼻の下をぐいっと伸ばしたりすると「そこは今やめて」の合図が来ます。上前歯の裏の歯茎は痛みなし、でも少しだけむくんでいる感じ。

午前の診察。主治医曰く「出血も落ち着いて術後経過は順調。明日退院で大丈夫そうですね」。
その一言で、体より先に荷物が半分だけカバンに飛び込みました。
ただし注意点がひとつ。「鼻の中が乾くと出血のきっかけになるので、しばらくは綿球を軽く詰めておきましょう」。鼻の砂漠化を防ぐ小さなダム工事、続行です。

続いて麻酔科の先生のヒアリング。「術後つらかったこと、痛かったところは?」
「喉が、とにかく痛かったです。ほかは大丈夫でした」
気管挿管で擦れたのかもしれないけれど、原因探しはここでは野暮ってもの。結果として今は収まっている、それがいちばん。

歯科検診も通過儀礼のように実施。挿管のときに歯や歯茎を痛めていないかチェックです。
「グラつきは? 痛みは?」「なしです」
私の歯、よく働いた。今日のMVPは君だ。

そして午後、五日ぶりのシャワー解禁。これがもう、文明の雨。術後はずっと濡れタオルでの拭き掃除のみだったので、頭からお湯を浴びる幸福度が桁違いです。皮膚が呼吸を思い出していく感じ。はあ、さっぱり。あー気持ちいい!!

ただし驚いたのはシャンプー中の抜け毛の量。「今まで洗えてなかった分の貯金を一気に引き出しています」みたいな勢い。排水口のフィルターに小さな秋ができました。看護師さんいわく「数日洗ってないとそんなものですよ」とのこと。よかった、季節のせいじゃなかった。

夕方、病室に戻ってからは退院準備。鼻は触らない、笑いすぎて鼻の下を伸ばさない、という謎の自制ルールを作って動作を最小限に。綿球の在庫を点検し、マスクの予備とワセリン、保湿ティッシュをカバンにイン。乾燥は敵、潤いは正義。

今日のまとめ。
・喉の痛みと頭痛は解散、鼻の鈍痛はまだ居残り練習中
・出血はほぼ停止、経過よし、明日退院決定
・鼻内は乾かさない作戦を継続(綿球ダム+保湿)
・五日ぶりのシャワーは人間を人間に戻す儀式
・抜け毛は「溜めてた分」なので慌てない

病院のベッドはふかふか、ナースコールは心強い、配膳は時間通り。全自動の優しさに慣れた体で、明日からは自走モードに切り替えです。鼻の中にちいさなダムを抱えたまま、真っすぐな日々に合流します。

今日は鼻の奥に詰めたガーゼ抜き。

術後3日目。体調はじわじわ回復傾向。熱は下がり、喉と頭の痛みも昨日よりマシ。声も出しやすい。むくみが引いたせいか、iPhoneの顔認証がまた通るようになった。文明再接続。


昨夜、担当の看護師さんに「明日ガーゼ抜きですよね。どんな感じですか?」と聞いたら、ニコニコしながら一言。
「これ痛いんだよね~。がんばってください♪」
……人に向けるスマイルは、用途別で分けてほしい。

いざ本番。処置は若手医師が担当。
「では、いまから鼻のガーゼを抜きますね」
「お願いします。……痛いですか?」
「どうかな?大丈夫だと思いますよ。大きく息を吸って、吐く時にスッと抜きます。力まないでくださいね」

(“大丈夫”って、医療用語だと“たぶん痛いけど耐えてね”の婉曲表現じゃない?)

「はい、吸って~……吐いて~」









じゅるる~~(物理:一瞬)
じゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる~~~~~(体感:5秒)
じゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる~~~~~(体感:10秒)
じゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる~~~~~(体感:15秒)
じゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる~~~~~(体感:20秒)
じゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる~~~~~(体感:25秒)
じゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる~~~~~ッ(体感:30秒)

(うぉーーーー!? うわーーーー……イッテーーーーーー!!!)

秒針が急ブレーキ。1秒が粘って伸びる。
眉間に見えないスパナ、三叉神経を一束ごとギュッ!
前歯は感電、目の奥は金属音キィーーン。

(イッテェェ!! トゲ付きワイヤー、誰が逆牽引してるんだ!)
(今、鼻から正体不明の生命体が逆再生で生誕退場した?エイリアン幼生、確認! いや落ち着け、私は地球人。イッテーー!!)
(でも抜けた……? 終わった……? 30秒のドキュメンタリーを0.7秒に詰め込むな……!)

耳の奥は砂嵐、涙腺は非常用スプリンクラー。
――看護師さんの「スッと抜きますね」の“スッ”は、こちらの世界では“ズズズズ……(30秒)”。

「大丈夫ですか?」
「は、はい……(大丈夫なわけないだろ、涙腺フルオープン中……)」

「では、もう片方いきますね」
「え?……あっ、はい。(そうだった、鼻は二穴。人体、ツインターボ仕様を恨む)」
(でも1回目で慣れた。2回目はきっと痛くない。きっと……たぶん……お願い)

「吸って~、吐いて~」











ずずずずず~~~(物理:一瞬)
ずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずーーーーー(体感:5秒)
ずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずーーーーー(体感:10秒)
ずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずーーーーー(体感:15秒)
ずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずーーーーー(体感:20秒)
ずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずーーーーー(体感:25秒)
ずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずーーーーーッ(体感:30秒)

(う、うぅわぉーーーー!! イッテテテテテテテテ!!!)

今度は鼻道の高架に巨大生物が突入、尻尾からウインチで逆回収。
骨伝導の地鳴り「ゴゴゴ……」が頭内を横断、眉間のボルトがミシミシ。
痛みの小弾丸シャワーが鼻柱を撃ち抜く。膝カクン。

――医師の「はい、抜けましたよ」は0.7秒。こっちは30秒の長編ドキュメンタリー。

「はい、以上です。ね、大したことないでしょう。大丈夫でしょ?」
「まー(いてぇよ!!! “痛い”が名刺出して名乗ってきたよ!!)」

鼻の中をのぞいた若手医師が言う。
「特に問題なし。かさぶたができるとはがす時に痛いので、鼻を乾燥させないように気をつけてくださいね」
「ありがとうございます……(かさぶたは“自然解散”でお願いします。強制送還は不可)」

そして試しに鼻呼吸。

何これ???
すっげーーーー!!!
やっべーーー!!!
こ、こ、これが正常!?



すぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーー(解放:30秒)





吸った瞬間――今度は時間が早送り。0.7秒で世界が開通、体感では祝賀パレードが30秒。
見えないビー玉がコトンと外れ、空気が一本の透明な柱で肺の底へダッシュ。

鼻腔の壁は鏡面仕上げ、冷たい酸素がスーッと滑り、喉の奥で小さな風鈴がチリン。

背骨がカチッと一ノッチ伸び、肩が勝手に脱力。

脳内のブレーカーが上がって彩度が二段アップ、世界のフレームレートがぬるぬる。

(え、これが人類標準? 今まで省エネモードで生きてたの私?)


Unbelievable。鼻ってこんなに働くのか。鼻詰まり、完・全・解・消。手術して良かった、と心底うなずく。


解放感の追い打ち。胸の奥で、長い糸がスーッとほどける(体感30秒の余韻)。
室内の空気が新品に入れ替わり、内側から窓全開。四畳半が急に体育館。


さぁガーゼも外れたし、今日からは昨日買ったハナクリーンで鼻洗浄開始。朝晩2回、500mlの生理食塩水でしっかりリンス。


初回――

「うおぉぉぉーーーー!」

ドロッとした血の塊がするり。こんなに奥に長期滞在者がいたとは。
痛みはなく、むしろ鼻道の大掃除が終わって“原状回復OK”の判子。
鼻の「満室」プレートがカサッとはがれて「空室あります・風通し良好」に差し替え。


今日の教訓。
・医師の「スッと抜きます」は物理0.7秒、こちらの体感30秒。

・医師の「大丈夫」はきっと痛いけど耐えてね。
・鼻は二穴。処置は二回。痛みも二回、でも解放感は×2(体感30秒ずつ祝賀)。
・そして、呼吸って尊い。酸素は無料、ありがたみはプライスレス。

明日も朝晩の洗浄を続けて乾燥に注意。新しく開通した「マイ・エアウェイ」、丁寧に育てていく。

術後二日目の朝。廊下のワックスの匂いと、看護師さんのスニーカーの音で目が覚めた。体はまだ重いけれど、昨日よりは確かに楽だ。人間、回復力ってちゃんとある。

出血は相変わらず続いているが、量は微量。鼻に詰めた綿球は一晩でうっすら桜色に染まる程度。喉へ落ちた血は、一時間に数回、上手に「ぺッ」と吐き出すくらい。(鼻セレブはやわらかく、とても快適。傷ついた鼻にはやさしさが正義だと知る。)

喉の痛み、微熱、頭痛はまだ残っているものの、痛みはずいぶんおとなしくなってきた。昨日は食事に三十分以上かかったのに、今日は十五分で完食。スプーン一杯ごとに勝利のガッツポーズはしないが、内心は大いにドヤ顔である。

――ここから先は二日目の細かな記録。

朝のバイタルは平常運転。看護師さんに「昨夜より表情いいですね」と言われ、単純に士気が上がる。朝食はやわらかメニューだが、味覚はちゃんと生きている。熱いお茶は喉にしみるので、ちびちび作戦で攻略。ベッドの角度を少し上げるだけで鼻の奥の圧が楽になることを発見し、今日の賢い工夫としてノートにメモ。

難敵はふくらはぎの痒み。昨夜からムズムズしていたのが、朝には「ここに存在を主張する痒みがいますけど?」くらいの騒がしさになった。看護師さんに相談すると、塗り薬をサッと処方。原因は血栓予防のストッキングらしい。

私は皮膚が敏感、ストッキングは仕事熱心。相性の問題だ。同じタイプの肌の方は、遠慮なく早めに伝えるのが吉。

塗布後はちゃんと効いた。痒みが引いていく間に、足首をぐるぐる回す軽い体操を追加。ベッド周りでできるミニ運動は、退屈の撃退にもなる。点滴ポールとケンカしない範囲で、深呼吸も数セット。鼻はまだ主役不在なので、口呼吸に加湿を添えて丁寧に。加湿器がない病室は、濡れタオル干し作戦が地味に効く。

今日は無理をせず、iPadにダウンロードしておいた映画で一日を過ごす。これはいい。病室の時計が早回しになったみたいに時間が過ぎる。入院中の娯楽は「軽い・静か・すぐ止められる」の三拍子が大事だと悟る。シーズン物のドラマは沼なので要注意。泣ける系は鼻が詰まっている今は難易度が高い。笑える短編が最適解。

そして明日はいよいよ、鼻の奥のガーゼ抜去と鼻洗浄の開始。ここで問題発生。鼻洗浄器を持っていなかったため、看護師さんに「ハナクリーン」を勧められる。素直に売店へ行って値札を見た瞬間、心拍数が一段上がった。

な、な、な、なんと、四千二百円。

いや、待って。アマゾンでは二千五百円の記憶がある。差額でアイスが何本買えるのか、脳内で高速計算が始まる。しかし今から通販は間に合わない。ここでケチって明日の鼻洗浄が遅れるのは本末転倒だ。私は静かに財布を開き、「健康は投資」と自分に言い聞かせてレジへ向かった。入院予定の方は、事前にアマゾンでの購入を強くおすすめしたい。未来の自分の財布のために。ついでに食塩パックも買っておくと、塩分濃度の迷子にならずに済む。

そしてもう一つの事件。iPhoneの顔認証が昨日からことごとく弾かれる。マスクでも眼鏡でもない。理由は簡単だった。鏡に映った私は、鼻が見事な団子状態。いつもの私が、今日は「大福を一個のせた私」にアップデートされている。どうやらiPhoneは私を別人と判定しているらしい。セキュリティが優秀なのは嬉しいが、ここは空気を読んでほしいところだ。結局、原始的なパスコードでログイン。文明は時に、腫れぼったい現実にひざまずく。Siriに「今日の私は私です」と言いたい衝動をこらえる。

午後はシャワーの可否を確認。傷口に配慮して今日は見送り、蒸しタオルで顔をさっぱり。保湿だけは忘れない。乾燥は回復の敵、そして鼻の天敵。枕元にはティッシュ、ワセリン、うがいコップ、そして新入りのハナクリーン。完全に戦時体制の陣形である。

総括。痛みは右肩下がり、食事スピードは右肩上がり、ふくらはぎは適切な塗り薬で沈静化。

鼻洗浄器は高かったが、必要経費と割り切った。顔認証は当面パスコード派。

明日のガーゼ抜去に備えて、今日は早めに目を閉じる。

BGMは心の中のファンファーレ。回復は焦らず、でもたしかに前へ。

 

今日も一歩、真っすぐに。

手術の翌日です。

何度か浅く眠っては目を覚まし、病室の天井の模様を数えているうちに、気がつけば朝になっていました。点滴ポールの車輪が時々コロ、と鳴り、廊下の足音が小さく遠のいていく。夜は長いのに、朝は急にやって来ます。ベッドのリクライニングを数ミリだけ上げると、背中の骨が「了解」と小さく音を立てる。体のあちこちが、現場復帰の準備運動をしている感じです。

術中の出血は少なかったらしく、寝ている間に血が喉へ流れてむせることは、ほとんどありませんでした。とはいえ、ふとした拍子に痰と混ざった鉄の味が喉に広がり、慌ててティッシュに吐き出す。ここで輝いたのが鼻セレブ。しっとり柔らかくて、口元が擦れてヒリヒリ…なんてことがない。術後の相棒として、これは大正解でした。課金してよかった。ティッシュの箱が、頼もしい補給車みたいに枕元で待機しています。

入院前、他の人のブログを読みすぎた私は「夜中に出血がひどく、血で溺れそうになる」という一文を何度も反すうして、不安のイメトレまでしていたのですが、実際のところ私の場合は拍子抜けするほど穏やか。鼻の奥でティッシュが小さくガッツポーズしている気がしました。「ほら、やれるじゃないか」と。過去の自分よ、検索の沼はほどほどに。

明け方、カーテン越しに看護師さんがそっと覗きます。
看護師:「おはようございます。昨夜から気になっていたのですが、トイレは大丈夫ですか?」
自分:「はい、大丈夫です。(声は出るようになってきたけど、喉が砂漠…)」

喉は相変わらず痛くて、声を出すと紙やすりを軽く撫でるような感覚。口呼吸が続くとこうなるのか、と体で学びます。枕元の水でうがいをし、軽く口を潤すと、声帯が「給水ありがとう」と言った気がしました。酸素飽和度を測るクリップが指をつまみ、「ピッ」と規則正しい音。機械に「生きてるね」と出席確認される朝です。

そしてイベント:尿道カテーテルを抜いてから、初めてのトイレ。
これがまた不思議でした。最初のひと押しで、なぜか「シュワッ」と空気が混じるような感覚がして、思わず「え?」と心の声。体内の配管の流速が変わったのか、新しい風洞実験でも始まったのか。二回目からは何事もなかったように通常運転へ。人体は賢い、そしてちょっとお茶目だ。戻る途中、病棟の掲示に「転倒注意」と太字。そうだ、いま私は“新品の鼻を搭載した初心者ドライバー”なのだ、ゆっくり歩こう。

ベッドに戻って腰を下ろすと、鼻の奥に詰めたガーゼの存在感がむくりと起き上がる。痛みというより、「小さなスポンジ栓」が鼻腔の壁にそっと寄りかかっている感じ。くしゃみをしたくなったらどうしよう、と一瞬焦るけれど、看護師さんの「くしゃみが出そうなら口を大きく開けて、やさしく逃がしてあげてくださいね」のアドバイスを思い出し、深呼吸でやり過ごした。ここで全力くしゃみをして栓がロケット発射でもしたら、朝から病室が宇宙開発事業。そうならなくてよかった。

しばらくすると、検温・血圧タイム。看護師さんが器用な手つきで袖をまくり、マンシェットを巻いてくれる。ギュッと締まる圧に合わせて、体のセンサーが順に起動していく感じがする。「痛みは10段階でいうと?」と聞かれ、「いまは3。鼻の中の“スポンジ栓・中サイズ”」と答えると、笑いながら記録してくれました。カルテにどう記されたかは謎です。

朝食は、やさしいラインナップ。重湯、煮物、少しの卵。湯気がふわっと立ち上がるのを見るだけで胃が目を覚ます。スプーン一杯ずつ時間をかけて口に運ぶ。喉の砂漠に、にわか雨が降る。味覚はちゃんと働いている。ああ、生活が帰ってくる音だ。点滴がコロコロと転がる音、配膳車の金属音、遠くで誰かの笑い声。病院の朝はBGMが多い。

日中は歩行の練習も兼ねて、廊下を一往復。壁の鏡に映る自分は、マスクの上からでも「慎重」の二文字。鼻に近づく風が怖くて、エレベーター前の空調は迂回。「今日は風なしコースでお願いします」と心のマップにルート設定。部屋へ戻る頃には、足の裏がひさしぶりの仕事に満足げでした。

午後、主治医の回診。
先生:「出血は落ち着いています。喉の痛みはもう少しで引きますよ」
自分:「鼻の奥の、この“スポンジ栓”感…」
先生:「明日以降、様子を見て一部抜きましょう。くしゃみと鼻かみだけは、まだ優しく」
正式名称はガーゼでも、私の中では“スポンジ栓”で定着。存在は控えめ、役割は堅実。まさに名脇役です。

こうして迎えた術後1日目の朝から夕方。恐れていた“血の海”は来ず、代わりにやってきたのは、渇いた喉と静かな胃の音、そして鼻セレブの安心感でした。点滴の滴下が少しずつ減り、体が内燃機関を再始動し始めるのが分かる。眠気も、痛みも、退屈も、すべてが回復の一部だと受け入れられる余裕が、ほんの少しだけ生まれました。私の一日は、重湯の湯気のようにゆっくり立ちのぼり、天井の模様の向こうに薄い青空を想像できるくらいには、明るかったのです。

——ただ、これが「嵐の前の静けさ」なのか、それとも順調な回復の序章なのか。
鼻の奥で静かに踏ん張る小さなスポンジ栓(=ガーゼの栓)が、その答えを握っているような気がしました。明日、栓が少し抜けたら、世界の音はどう聞こえるのだろう。鼻という小さなトンネルの向こうに、日常という光が、もううっすら見えている気がします。

さあ手術です。

開始5分前、看護師さんが迎えに来た。ドラマだとストレッチャーで「カラカラ~」と運ばれるイメージだったが、現実は「歩けるなら歩くスタイル」。たしかに元気に歩けるのにストレッチャーは恥ずかしい。自分の足で手術室へ向かう。

時間が来た。ドラマで見るストレッチャー…かと思いきや、歩行で手術室へ。
「え、歩きですか」
「歩ける方は歩きです。経費削減じゃないですよ」
点滴ポールをカラコロ押し、廊下を進む。足元はスリッパ、心はランウェイ。自動ドアが開くたび、ほんのり冷たい空気。遠くに「手術室」の光る文字。BGMがないのに、なぜか頭の中で勇者っぽいメロディが鳴り出す。

「手術室」と書かれた重い扉をくぐると、廊下を挟んで左右に手術室がずらり。赤いランプが点いた部屋からは、遠くで機械の「ピッ、ピッ」という音。おー、ここだけはドラマと同じだ。ふと「今この瞬間、世界中で何件の手術が進行中なんだろう」と無駄に壮大なことを考える。考えたところで私の手術件数は確実に「1」だが。

手洗い場では先生が念入りに手洗い中。オペ看さんたちは小刻みに動きながら準備に追われていた。手術室前で担当オペ看さんと挨拶。私のフルネームと術式を口頭で確認し、腕のバーコードを「ピッ」。この音、今日一番運命感のある「ピッ」かもしれない。

数分待機して、いよいよ入室。
「ではベッドに横になってください」
言われるがままに自分でベッドに乗る。……せまっ。子ども用? というくらい幅がタイト。しかもほんのり温かい。あ、これは寝落ちさせるための罠だな(※違います)。

左腕に血圧計を巻かれ、指先に酸素濃度のセンサーが挟まり、胸には心電図の吸盤がペタペタ。口元には酸素マスク。機械たちが一斉に私の生命を見守り始める。

そこへ麻酔科の二人が登場。
「よろしくお願いします。これから麻酔を入れていきますね」

そこへ後ろから冷ややかに鋭い声。
鬼教官:「その枕、低すぎるわよ。上気道、もう少し開けて」
新米:「す、すみませんっ! 厚みを替えます!」
(ビクッ)——と同時に私も(ビクッ)。今日いちばんのシンクロ率を記録。人間、驚きは伝染する。

鬼教官は私の顔の位置を覗きこむ。
鬼教官:「はい、顎を少し上げて。そう、楽に息ができる高さ。ほら、胸の波形が安定したでしょ」
新米:「SpO₂良好、血圧もOKです」
鬼教官:「説明は簡潔に、でもぬかりなく。導入行くわよ」

新米:「Accaさん、いま点滴から眠くなるお薬を少しずつ入れます。マスクは酸素です。深呼吸しましょう」
私:「はい……(スーハー)」
新米:「もし冷たく感じたり、腕が重くなっても正常です」
鬼教官:「合図に合わせて、目を閉じてね。閉じるの、いま」
(言われるがままに目を閉じる。主治医どこかな……くらいで、地面がふっと抜けた。)

…………

…………

「Accaさん!」
看護師さんに名前を呼ばれて、脳内に急に明かりがついた。

(だ、だれ……? ここどこ……?)

「手術終わりましたよ」

(え、もう!? 目を閉じるタイミングを考えてたら、エンディング迎えてるってどういうこと)

声を出そうにも喉が砂利道のよう。かろうじて「……の、ど……いた……」と発音できたかどうか。

「大丈夫ですよ。病室に戻りますね」
大丈夫じゃない気もするが、プロに運ばれればすべてよし。ベッドごと帰還。

病室に到着。「いっせーのーせ」で病室のベッドに移され、ふくらはぎには血栓予防のマッサージ機が装備される。脚だけ高級エステ。

「酸素マスクは2時間後に外しますね。口に血が落ちてくるので、飲み込まずティッシュに吐き出してください」
了解。ティッシュの出番である。

と、その時——視線の先に見慣れないチューブ。
(あれ? なんか付いてる。……尿道カテーテル、だーーー!!!)
話が違う! と心の中で土下座。違和感の存在感が圧倒的だ。ガスが出るたびに「じょろじょろ~」と袋に流れるのが分かる。うわー、実況はいらない。しかも微妙にチクっとする。痛みに弱い自覚はあるが、これはなかなかのメンタル試験。


術後2時間。酸素マスクが外される。

「痛いところありますか?」
「つ、ば……飲むと……のど……めっちゃ……痛いっす……。で、あの、その、カテーテルは……いつまで……」
「初めて? 辛いよね。先生に聞いてみます」
神。


術後4時間。看護師さんが戻ってくる。

「先生が、辛かったら抜いていいって」
その言葉、待ってました。確定申告の還付通知くらい嬉しい。


術後6時間、主治医登場。
「意識ははっきりしてきましたか? 手術は無事終了。出血は5cc程度でした」
5cc!? え、指先のカサブタの方が多いんじゃないかというレベル。先生の爽やかな笑顔がまぶしい。
念のため再確認。「あの、カテーテル……」
「辛ければ取って大丈夫です。看護師さんにお願いしてくださいね」

よし、正式許可。


ナースコールを押すと、看護師さんが手際よく処置。痛みもほとんどなく、スッと撤去。世界が一段明るく見える。自由って素敵。
「最初のトイレは付き添いますから、必ず呼んでくださいね」
はい、人生の一歩め、足元注意で参ります。

喉の痛みと頭痛がセットでやってきたので鎮痛剤を投与。すると、波が引くように楽になって、またうとうと。全身麻酔って、うたた寝して一瞬落ちて、次の瞬間に“未来”で起きる感じ。夢は見ないと聞いていたけど、私はうっすら何か見た気がする。内容は、起きて二言三言しゃべったら綺麗さっぱり消滅。夢の記憶、短期保存すぎる。

そして今回、地味にMVPだったのが“しっとり系の高級ティッシュ”。柔らかさが別次元で、血混じりの唾を何度も出しても口元が荒れない。手術前の買ってよかったものランキング、堂々の一位。もし過去の自分にひとつだけアドバイスできるなら、

「いいティッシュを持ってけ」

これに尽きる。

こうして手術当日は終了。まとめると——
手術室までは徒歩、麻酔は瞬間移動、喉は砂利道、カテーテルはサプライズ、ティッシュは相棒。
明日からは「出血」「痛み」「寝不足」との三つ巴だが、今日を越えた私はちょっとだけ強い(はず)。