”転生の鳥” 米口 實氏作品鑑賞と今日の歌 アキレスの腱 二月二十四日(金)
角川短歌二月号に心惹かれる作品があり、心に沁みるまま二読、三読した。
それは米口 實氏の”転生の鳥”と題する一連の作品のなかの数首である。ここに紹介する。
*配流のおもひ抱きてこの街に赴任せしかの日を思ふ、時すぎにけり
*死の床に人妻恋ふる歌詠みて逝きし友ありき子と妻を置きて
*音もなく来たりてわが手に触れしかばその夜の夢の紡がれてゆく
*川の瀬にさびしき鳥のかへりゆき老いびとは目をひらくおぼろに
*心拍のややとどこほる明け暮れに雲を超えむとおもふはかなさ
作者米口氏について何の知識も持たない私だが、恐らく私と同年代のお人と思う。
ここに提出の五首は、まさにわが七十余年の人生を省みて忸怩たる思いにさせられる一連である。
若々しい先進の歌はそれで又素晴らしいが、斯様な老成期の佳吟にむしろ強く惹かれるこの頃である。
歌についての評言は割愛するが、我が範とすべきお手本として此処に引用させて頂いた次第。
今日の歌
アキレスの腱
*雨音の打つトレモロの心地よきままうたた寝の夢に身沈ます
*駆けてゆく影あり追へど捕まらぬ速さに消えぬ夢はかく疾し
*をさな児の眸をふと思ふ夢のなかに艶然と佇つひとの面影
(眸=め)
*生死をすら定め得ぬ身の不甲斐なさ春 暁の夢に縋りて
(生死=しょうじ)
*アキレスの弱きポイント痛めつつ数歩を辿りたどりつつゆく