万葉の恋歌Ⅲ(奈良大 上野教授新訳) 一月十九日(木)
万葉恋歌新訳抄
⑤噂ばかりするヤツは、くたばっちまぇー
あらかじめ 人言繁し かくしあらば しゑや我が背子 奥もいかにあらめ(大伴坂上郎女 巻四の六五九)
はじめっからさぁ
みんなわたしたちの噂でもちきりよーー
そんなことじゃ
コンチクショウメ!
アナタ、この先、いったいどうすりゃいいの
よ・ ・ ・
作者は、大伴坂上郎女、大伴旅人の異母妹であり、大伴旅人歿後、大伴一族のゴッド・マザーとなった。
「恋の噂はお茶を美味くする」というが、人はこの噂にどんなに傷つき、そして悩んだか、いな、悩んできたか。今も昔も変わらない。その噂に手を焼いた女の声である。
⑥わたしを信じるの? それとも噂を信じるの!
汝をと我を 人ぞ放くなる いで我が君 人の中言 聞きこすなゆめ (大伴坂上郎女 巻四の六六○)
あなたとわたしを
引き裂こうとしている人がいるのよ・・・
だから、だから、お願いあなた、
人の言うことなんて聞いちゃダメーー
絶対!絶対!けっして!けっして!
前の歌に続くうた。「中言」とは、他人の仲を裂くために流される噂、誹謗中傷をいう。彼女は、よほど噂に苦しんだのだろう。だから、男に対して、念を押すかたちで、歌っているのである。しかし、残念なことに、男の名も、噂の内容も、今となっては」わからない。
(奈良大学教授 上野 誠教授訳)
ー続くー
今日の歌
夢の情死行
*夢に逝くわれとをみなの情死行は冬ざれの灯のまたたきに似つ
*たゆたふはあやしき夜をひびき合ふたましひかそは冬の銀月
*眠りとは甘きに向かふぬばたまの夜に伏せ居る影にさも似つ
*冥界も雪降りつらむキラキラと光りつつ墜つ此の世の此処に
*逝きしもの残りしもののへだて無く風花は舞ふ泣けとごとくに