物音に目覚めた。
夜間見回りの看護師さんの
足音と懐中電灯の光。

23時53分である。


朝かと目覚めるとこのくらいの時間
ということがままあって

どうやらそれはこの物音のせい
とわかった。


相変わらず向かいからは
イビキが聞こえている。

音に敏感なくせに
それが案外気にならないのは
それが
ほぼ終日聞こえる規則的なものだからだろう。

今夜はそれに時々隣りのコイキさんの
ちょっと高めの寝息や咳払いも混じる。


彼らはそれを聞くこともない、
自分でありながら知らない自分…


もちろん昼間のハナシだが
ドクゴさんには独り言の他に
TVを見ながら笑う癖がある。

それはそれは楽しげに
コロコロと笑うので
よほど楽しい番組を見ているのだろう。


その独り言も独り笑いも
彼女には聞こえていない。




さて私は?と気になって
思い起こしてみると

これまで一緒に過ごした相手から
イビキや独り言を指摘されたことはない。

「死んでる?と思うくらい静かに寝ていた」
と言われたことはあるし

「何やら寝言を言ってた」
ということも時にはあったが。

それに
手術後見回りに来た夜勤の看護師さんが
わざわざカーテンをめくって
懐中電灯で私を照らしたのも
「あまりに静かで心配だったから」
だそうだし。
(その不意打ちは不気味すぎて
思わず目を覚ました)

昼間はともかく
寝ている間は
概ね静かな女であるらしい。


改めて
一緒に旅する友人たちに
「私イビキかく?」
と聞いてみようかと思うが、

きっと彼女たちはホントのことを言わないだろう。
私がホントのことを言えないように。


ここは一応
孫あたりが言うのを
信じるに如くはないようだ。


うさぎうさぎうさぎうさぎうさぎうさぎ


入院当初
手洗いをした後
紙ナプキンで洗面台を一拭きしていたら
看護師さんに
「あら、ずいぶんキレイ好きなんですね」
と言われた。

アタリマエと思うことが
必ずしもそうではないらしい。


コイキさんの後トイレに入ると
辺りに水が飛んでいることも多く
手摺が濡れていることもある。

トイレの小さな手洗い場で手を洗った後の
飛沫のようだ。

滑らないように注意しなから
まず手摺を拭くところから始めねばならない。

洗面台も然り、
元気な子どもが使った後のようなありさまだ。

また
イビキさんは
まだ立てないために
シャワーを浴びることができず
看護師さんがベッドで全身の清拭をしている。

「お尻に汚れが溜まっているよ、
トイレではウォシュレットを使うようにしてね」

という看護師さんの声を聞いてしまって以来、

なんだかゾワッとして
トイレを使う前に
クリーナーであたりを拭うのが
習慣になった。


母や弟は
超の付くキレイ好きだが
私はごくフツーだ
と思っていた。

だがどうやら
私のフツーは
アタリマエではないらしい。






夜中のトイレの音で
目覚めることも多い。

ドアを開閉する音、水を流す音、

ドアは車椅子も入れる大きな重いドアだし
水は音を立てて勢いよく流れる。

私はトイレから遠いベッドだが
それでもかなり音が響く。

そうっと開閉し
水が流れ終わってから
ドアを開ける
それだけでも音はずいぶん違うはずだが。



ともかく
4人部屋は夜も賑やかだ。

眠れないと思えば
本当に眠れなくなるほどに。



うさぎうさぎうさぎうさぎうさぎうさぎ



そろそろ病院生活にも
終わりが見えて、

リハビリの先生から
"退院したら食べたいもの"
を訊かれた。


「既に退院見込みで牛肉を注文してあるし
やはり刺身や寿司が食べたい」

と答えると

「王道ですね〜、あとは天ぷらですかね」

と言う。

それが多数派の意見らしい。

「とにかく卵が食べたい❣️」
と力強く言うと

かなり怪訝な顔をされた。

病院だって卵は出るだろうということか。
卵はご馳走ではないということかもしれない。


ある日の病院食、

この一品の名は海老と野菜の卵とじ。

その名を裏切って卵の存在感がまるでない。




フツーの卵とじは

こんな感じの料理だ。



卵大好きけいあゆとしては

卵一個の固いオムレツ、

カチカチの固茹で卵などなど

とても卵料理とは呼びたくないものに

ウンザリしていて



帰宅したら

ブランチには卵たっぷりのスクランブルエッグか巣ごもり卵、




 

晩ごはんには大好きな卵焼きが食べたい。



休止している

大江の郷の卵を再開して



卵三昧…

そう思うだけでワクワク。


天ぷらはそのずっと後でもいい。


眠れない夜の

食いしん坊の起きてみる夢は

まずはそんなところだ。