※写真は左から高子景、片柳中PTA会長、教育長、片柳自治連合会長、青少年育成片柳地区会長、片柳小PTA会長


 
令和2年2月26日、『片柳小学校及び中学校の持続可能性に向けた提案及び要望書』を教育長と市長宛に提出しました!
 
本要望書は、私が調査・作成した『片柳小学校及び中学校の持続可能性に向けた提案』をもとに構築した要望書となっており、要望者は片柳自治会連合会会長、青少年育成片柳地区会会長、片柳中学校PTA会長、片柳小学校PTA会長となっています。
 
以下、『片柳小学校及び中学校の持続可能性に向けた提案』の内容を添付しますのでぜひご一読いただけると幸いです。
 
 

 

 

【問題意識】

 片柳小学校及び中学校の持続可能性が危ぶまれています。片柳小学校の生徒数は、さいたま市が誕生した平成13年には627人いましたが、令和元年では535人と、17年間で92人も減少しています。片柳中学校はより深刻で477人(平成13年)いた生徒数が288人(令和元年)と189人も減少しています。(特別支援除く)

 

 

 

 

一方で、さいたま市全体を見てみると、小学生は65923人(平成13年)から68179人(令和元年)と2256人の増加。中学生は30679人(平成13年)から31044人(令和元年)と365人増加しています。(特別支援除く)

 

 

 

 

なぜ、さいたま市全体の児童・生徒数が増えているのに対して、片柳小学校及び中学校では生徒数が減少しているのか。私は大きく分けて、以下2つの理由が挙げられると考えています。

 

1.   学区内人口の減少

2.   相対的な魅力の減少

 

本提案は、以上の2点に対する現状分析と解決手法を提示し、片柳小学校及び中学校の持続可能性を高めることを目的とします。

 

 

 

 


 

 

 

1. 学区内人口の減少について

1‐1.現状

 さいたま市内全体は、全国的なトレンドに反して人口増加を続けているのに対し、調整区域では人口減少が進んでいます。片柳小学校・中学校の学区である地域は、概ね御蔵、東新井、笹丸、山、染谷、片柳の地域であり、御蔵、東新井以外の地域では、その全域が調整区域となっています。そのため、この地域を合わせた人口規模は、平成13年(約16605人)から、令和元年(約15746人)までに、859人減少しています。

 

 

 

 

学校自体が調整区域に立地する両校では、調整区域の人口減少は持続可能性に直結する大きな問題です。しかし、さいたま市では調整区域の人口をいかに維持していくのかという計画や方針は示していません。

 

一方、他の地方都市では、市街化区域・調整区域ともに人口が減少しており、どうにか人口規模を維持したいという意思から、様々なアプローチが行われています。しかし、さいたま市では市街化区域においては、現在も人口増加傾向が強いため、調整区域の人口減少を放置している状況です。結果、さいたま市内の調整区域では、新たな住宅は建築されない一方で、資材置き場や産廃置き場が増加するという状況を招いています。

 

いずれにせよ、このままでは地域が消滅し、学校も消滅してしまいます。

 

 

 

 

1‐2.事例

全国的に見ると、調整区域内の人口維持や衰退防止を目的に、都市計画法34条11号、12号条例を運用する場合や、40戸連たん制度や地区計画などが活用されています。

 

長崎県諫早市では、調整区域内における大胆な住宅建築規制緩和を行っています。市役所出張所、小・中学校、鉄道駅の中心とする概ね半径500メートルの範囲を「拠点地区」と指定し、地区計画と40戸連たん制度による規制緩和を行うことによって定住化を促進しています。この拠点地区では、住宅、共同住宅などが、誰でも開発できるようになり、全域において開発道路の設置も可能となっています。

 

諫早市によって、拠点地区に指定された小野地区、本野地区、長田地区では、確実に成果を残しています。規制緩和された平成27年を基準に、平成23年と平成31年の前後4年間の人口を比較して、制度の影響を調査しました。

 

 

 

 

長田地区(長田町)では、平成23年には人口が1528人いました。しかし、平成27年には人口が1440人となり、-68人も減少しています。一方、規制が緩和された平成27年から平成31年では、1440人から1508人へと増加に転じました。また、小野地区(小野町)、本野地区(本野町)でも、人口減少傾向は続いていますが、規制緩和前は両地区とも-6%以上の人口減少率でしたが、規制緩和後は人口減少率が-2%にまで改善されました。

 

 

 

 

以上のことから、調整区域内人口の維持や衰退防止において、諫早市の拠点地区制度が有効であったことが確認できます。

 

そして、この制度の重要なポイントは小中学校を中心にという点です。本来の調整区域では、新住民による新たな住宅は建設できないため、小中学校が調整区域にあれば、自然と学校を中心として人口が減ってしまいます。これを逆に小中学校の周りに限って住宅開発を許可すれば、学校周辺に住むことにインセンティブを感じる世帯、すなわち子育て世代の転入が望めるということです。

 

 

 

 

1‐3.提案

 これを片柳地区に当てはめると、片柳小・中学校・支所から半径500メートルの地域とは御蔵、東新井、笹丸になり、とくに笹丸は、そのほぼ全域が区域内となります。

 

現在、笹丸は市街化区域から最も近い調整区域でありながら、さいたま市合併当初からの人口減少率では-17%(-58人)と、片柳地区の旧村単位では、最も人口減少率が高いという結果になっています。市街化区域から笹丸よりも遠い染谷の人口減少率が-6%(-116人)であることと比較すると、その減少率の高さが窺えます。小中学校に隣接し、市街化区域にも近いなど、調整区域の中でも利便性の高い地域である笹丸の衰退は、既存宅地などの制度が廃止された以降にも、なにも対策をしてこなかった、さいたま市にも大きな責任があると考えます。

 

以上を踏まえ、諫早市の拠点地区制度をローカライズ化して、さいたま市で運用することが出来れば、諫早市のように人口減少傾向に歯止めをかけ、また笹丸という小中学校周辺の地域に住むことにインセンティブを感じる新住民の転入が大きく期待できます。

 

 

 

 

1‐4.小括

 都市計画の制度を活用する際には、住民の理解が必要不可欠です。笹丸という地域は、片柳地区の中でも、面積・人口規模が小さい地域であり、他の地域よりも住民の合意形成が容易であると考えられます。また今後、大規模に農振農用地区域が除外される予定があるなど、都市計画法以外の法令において条件が整っている希少な地域です。そして、笹丸での人口減少傾向を改善できれば、他の人口減少に悩む地域における試金石となることも期待されます。

 

以上を踏まえ、笹丸という地域に特定して住宅建築における規制緩和実施を提案します。

 

 

 

 




 

2. 相対的な魅力の減少について

2‐1.現状

 片柳中学校の生徒数を減らした理由は、相対的魅力の減少であり、その一番の要因は自由学区制度の導入です。自由学区の制度がなかった時期、東新井団地に住んでいる子供たち、また御蔵に住んでいる子供たちは全員が片柳中学校に通っていました。しかし、現在この地域では自由学制度の導入によって第二東中学校が選択できるようになりました。その結果、平成30年度には、東新井団地から31人、御蔵から63人の併せて94人が片柳中学校から第二東中学校に流出しています。

 

 

 

 

この第二東中学校に流失した子たちが、本来通学するはずであった片柳中学校に通っていたと仮定すれば、生徒数は390人になります。すると片柳中学校の生徒数は平成21年度時点の340人よりも多くなります。(このときも既に自由学区が始まっているので、単純な比較はできませんが少なくとも、片柳中学校の持続可能性は今よりも担保されます。)

 

 

 

 

しかし、残念ながらすでに緩和されたものを再規制することは極めて難しいと考えます。そうなると現状の制度のまま、片柳中学校に通ってくれる子供たちを増やす必要があります。

 

それでは、まずなぜ自由学区制度が導入された結果、片柳中学校の生徒数が大幅に減少したのでしょうか。その答えは相対的な魅力が減少したからであると考えられます。もともと、自由学区が導入される前は、御蔵や東新井の子供たちは片柳中学校に通うという選択肢しか与えられていない相対的価値が存在しえない状況でした。しかし、自由学区が導入され、比較対象として第二東中学校が急に現れたため、急速に片柳中学校の相対的価値が減少していきました。

 

第二東中学校は片柳中学校よりも校舎は新しく、また大宮駅に近く、そして校庭(グランド)も広いなどハード面において大きく優位性を誇っています。

 

また、先ほどの平成21年度と30年度の比較データをみると、年々片柳中学校の相対的魅力が減少していることが理解できます。平成21年度は自由学区が導入されながらも、340人を維持していました。しかし、生徒数が年々減少する片柳中学校では、部活動の廃止などが相次ぎ、どんどん相対的魅力が減少していきました。結果として、ハード・ソフト両面において相対的魅力が減少した片柳中学校は、御蔵、東新井の子供たちから選ばれなくなり296人まで減少しています。

 

以上のことから、片柳中学校が自由学区であっても選ばれるためには、ハード・ソフト面において相対的魅力を向上させる必要があります。そこで提案したいのが、片柳小学校及び中学校を義務教育学校化する「(仮称)片柳義務教育学校」の設置です。

 

 

 

 

2‐2.事例

義務教育学校とは「学校教育制度の多様化及び弾力化を推進するため、現行の小・中学校に加え、小学校から中学校までの義務教育を一貫して行う」学校であり、初等教育と、中等教育の一部の合計9年間の課程を一体化させた学校です。

 

現在運営されている義務教育学校では、早期カリキュラムの導入、小学校段階からの教科担任制、小学校段階からの定期考査(中間試験、期末試験。ここでは中学校と同様な定期的なテストを指す)、学校行事の小中一体化(小学生と中学生が一緒に運動会を行うなど)、小中一貫の部活動など、特色のある学校運営が行われており、ソフト面の相対的魅力を向上させることが可能であると考えます。

 

文部科学省の「小中一貫教育の導入状況調査について(平成29年)」によると、「全国学力・学習状況調査の結果が向上した」について61%の学校で効果があったと回答。また「地域との協働関係が強化された」についても80%の学校で効果があったと回答しています。

 

また、平成17年に高知県高知市に合併された旧土佐山村の土佐山小・中学校では、合併によって高知市街の学校への児童・生徒流失が懸念されていました。そうした現状を踏まえ、持続可能な地域づくりの一環として、土佐山小・中学校を統合して、平成27年に土佐山義務教育学校を設置しました。結果、高知市街の住民が通わせたくなる中山間の学校として有名となり、全校生徒141人中87名(平成29年)が校区外通学者であるという人気校となっています。

 

 

 

 

2‐3.提案

 片柳地区では、片柳中学校の生徒を中心に染谷八雲神社のお祭りである天王様のお祭りが開催され、片柳小学校の児童も参加して大きな盛り上がりを見せています。それは、このお祭りに参加することを目的に片柳地区に引っ越してくる家族がいるほどです。

 

一方で、中学生と小学生では、現在別々にお祭りに向けた活動をしていることもあり、当日のコミュニケーションが万全であるとは言い難いものです。これを義務教育学校の「学校行事の小中一体化」を活用すれば、小学生にとってもより魅力のあるお祭りになることが期待され、ソフト的魅力の向上に資するものであると考えます。

 

また、施設一体型にすることにより、どちらかの校舎をすべてグランド化することができれば、調整区域でありながら狭かったグランドを拡大することができ、ハード的な魅力向上にも繋がります。

 

そして片柳中学校の生徒の約99%が、片柳小学校の卒業生であることを考えれば、むしろ別の校舎で運営されている方が非効率的であり、片柳義務教育学校が設置できれば、大きく相対的魅力を向上させられるものと考えます。

 

 

 

 

2‐4.小括

 義務教育学校の設置にはいくつかの条件が当てはまらないと難しいと考えます。例えば、単独小学校に対して単独中学校であること(概ね市内では、複数の小学校に対して中学校が1校である場合が多い)、小中学校の統合に地域や保護者が前向きであることなどです。

片柳小学校及び中学校では、そうした義務教育学校設置に向けた前提条件が、他の学校よりも整っている状態であり、またこの義務教育学校の設置が実現し、生徒数減少に歯止めをかけることが出来れば、他の生徒数が減少する小中学校へのモデルケースとなることが期待できます。

 

以上を踏まえ、片柳小学校及び中学校を統合し、(仮称)片柳義務教育学校を設置することを提案します。

 

 

 


 

 

 

3.総括

 2つの問題に対して、2つの提案をさせていただきましたが、どちらか1つだけでは、片柳小学校・中学校の持続可能性を高めることには繋がりません。相対的魅力だけが向上して一時的に生徒数は増えたとしても地域全体の人口が減っているので将来にわたる持続可能性は担保されません。また学区内人口だけが増えても、相対的魅力が向上しなければ自由学区によって選ばれないため生徒数は増えません。2つの提案が実現するからこそ片柳小・中学校の将来にわたる持続可能性を担保することが出来るのです。

 

以上、片柳小学校及び中学校の持続可能性を高めるために、笹丸における住宅建築の規制緩和実施と(仮称)片柳義務教育学校の設置を提案します。