課に着くと
彼は当然のように
ジャケットを
脱いでラフな
格好になる。
フロアを
見渡せば
みんな現場仕様の
服装だった。
頭だけ
使っている
戦略部の
着飾った空間とは
全然違う。
「みなさん!
おはようございます!
今日から
うちの課に配属された
〇〇〇〇さんです。
よろしく――」
「よろしくお願いします。」
誰も私を
歓迎していないことは
わかっていた。
ずっと頭の中だけで
仕事をしてきた人間が
現場で何が出来るのかと・・
私だって
ここに留まるつもりはない。
早く成果でもあげて
戻るまで・・
でもそんなの
甘かった。
初めは
わからないから
チーム長に
着いて仕事を覚える。
建設会社の現場・・
現場管理は
図面を読んで
進捗状況を確認して
安全に
気を配ってしていれば
いいと思っていた。
だけど
実際の現場は
トラブル続きで
朝から晩まで
走り回ってばかり。
気が休まる暇さえ
なかった。
現場に適応しようと
パンツスーツに
したけど
足元のヒールは
脱ぎたくなかった。
ドロドロで
汗臭い自分が
耐えられなくて
家に帰ったら
すぐにシャワーを
浴びる。
そんな生活を
1週間続けた。
私の中では
限界が来ていた。
私の言い方が
悪かったのか
チーム長が
到着する前の
現場の作業が
止まってしまった。
私の指示では
もう動こうともしない。
「どうしたんですか?」
そんなとき
チーム長が
到着した。
現場の雰囲気を
察知して
私と現場監督の
話しを交互に聞く。
ゆっくり話せば
双方のちょっとした
取り違いだっただけで
話しは簡単だった。
チーム長の
登場で
すぐに元通りになり
作業は開始された。
だけど
私に対する
暴言は聞こえた。
”チャラチャラした
奴に任せて大丈夫なのか”って・・・
もう最悪!!!
”チャラチャラ”って!?
地味なスーツに
泥まみれになって
誰が使ったか
わからない
ボロボロの
ヘルメットに
縛った髪も
夕方にはボサボサ・・
どこがチャラチャラ
してるの!?
限界だった。
現場を
抜け出した私は
人目につかない
物陰に座り込んだ。
もう嫌・・・・
「コラっ!!
こんなところで
何さぼってる!!」
え!?
怒鳴り声に
驚いて
立ち上がった。
「ハハハ
冗談です。
びっくりしましたか?」
満足そうな顔。
冗談なんて
気分じゃ
ないんですけど・・
わかりやすい
愛想笑いをして
立ち去ろうとしたら
止められた。
「いいですよ。
休憩時間ですから。」
時計が
3時を示していた。
15分の休憩タイム――
「お疲れさまです。
大丈夫ですか?
前の仕事とは
全然違うでしょ?」
誰も
私の行動なんて
見ていないと
思ったのに
どうして
ここにいることが
わかったんだろう・・・
手に
缶コーヒーを
二つ持っていた。
渡しながら
チーム長は言う――
「僕も初めはよく
逃げ出してました。
良い人たちなんですけどね・・
言葉遣いが
荒いんですよね~・・」
人の良さとか
言葉遣いが
少々きついとか
そんなこと
どうでもよかった。
ただ私は・・・
戻りたい・・
戦略部に・・
ここにはもう
居たくない・・・
だから私は
隣で
爽やかに
コーヒーを飲む
チーム長の横顔に
向かって言った。
「チーム長には
わかりませんよ
私の気持ちなんて!」
自分から
現場という選択を
したチーム長に
私の気持ちが
わかるわけない。
「私のどこが
チャラチャラ
してるんですか?
勝手に見た目だけで
判断して
話しなんて
聞こうとしない・・・
それじゃ
無理ですよ。」
どんなに
話したって
私の指示は
届かないのに
どうしろって
言うんですか?
優しい目を
していた
チーム長が
少し怖い顔をした。
「〇〇さんは
彼らの話を
聞いていますか?」
え?・・・
「現場管理の
僕たちは
いくつもの
現場を行き来しています。
でも彼らは
一つの現場に
付っきりで
作業しているんです。
僕らより
現場の知識が
あるのは当たり前です。」
当たり前のこと
だけど
私はきっと
気付かなかったと思う。
この仕事に
真剣に
取り組む気持ちに
欠けていたから・・
上手くやって
早くここから
抜け出す――
それしか
考えてなかった。
「机上では想定
しなかったことが
起こったりするんです。
まずは彼らの話を
聞かないと。」
チーム長の
言葉は
もっともだった。
でも
素直になれない
自分が居て
そこをしばらく
立ち上がれなかった。
「では僕は
次の現場へ行きます。
あとは
お願いします。」
チーム長は
そんな私を
見越してか
先に帰って行った。
仕事に
戻りたいのに
気持ちの整理に
時間がかかった。
もう一日の
作業が終わりを
迎えようとした頃
ようやく私は
立ち上がった。
現場監督に
謝りに行く・・
邪魔だと
あしらわれて
終わったけど
無駄じゃなかったと思う。
きっと・・・
来週の私は
違う見方が
出来るように
なっていると思う。
帰って行く私に
すれ違っても
挨拶をしてくれる
人など
誰もいない。
だけど一人だけ――
「お疲れさまです。」
現場を出ようとしたら
もうとっくに
帰ったはずの
チーム長が居た。
「!?・・・」
なんで?
次の現場に
行くって言ってなかった?
戻って来たの?








