授賞式は再来週――
受賞したら
今の会社は
辞めなきゃいけない。
早く退職することを
伝えないと・・・
「社長
少しお時間よろしいですか?」
仕事中の社長に
話しかけると
手を止めて
私を見た。
思いつめた
私の表情のせい?
社長は席を立つと
”静かなところで
話そうか”って
場所をうつした。
静かだと余計に
緊張してしまう・・
今月末で
退社させてください――
その一言を
口にするまでに
時間がかかる。
まずは
「すみません」
そこから始めた。
次を続ける前に
社長が言う――
「受賞おめでとう。」
「え?・・」
大手のイベント、動向は
チェックしていると
社長は言った。
「公募と期間が
ちょうど重なっていたから
大変そうだったんだね?
相談してほしかったな。」
社内の仕事は
少しは軽減出来たかも
しれないのにって・・
「そんな。
私の勝手ですから・・
仕事は仕事。
公募とは関係ありません。」
「そうかな?
2つとも上手くいったから
よかったけど
そうじゃなかったら
そう言えた?」
社長・・
私って
大変なことをしたのかもと
怖くなる。
大きな企画と
自分の夢を
かけもちした。
失敗していたら?・・
緊張に
顔を強張らせたら
社長が不意に笑った。
「ハハ・・
今頃緊張しなくても。
無事に両方とも
上手くいったんだから。」
「・・・」
「すごいよな。
仕事の企画も
文句なしだったのに
もう一つ
受賞するようなものを
作っていたなんて・・
クリエイターとして
尊敬する。」
「社長!?」
「ハハハ
本当だよ。
本当にそう思ってる。
そんなクリエイターが
ウチのクリエイターなんて
誇らしいよ――」
私には勿体ない言葉を
社長はかけてくれる。
この会社・・
辞めたくないな・・
私の仕事を
こんなに尊重してくれる
会社って他には
ないと思う。
「だから
引き留めるよ――
社長として
〇〇さんがここに
残ってくれるように・・」
”引きとめる”と
言われて嬉しかった。
待っていた言葉を
口にしてくれた社長に
思わず胸が弾む。
だけど社長は言った。
「さ・・ここまでは
社長として・・
ここからは
クリエイターの一人として
個人的な意見だけど・・」
個人的な意見?
「〇〇さんの
作品はたくさんの人に
見てもらう価値があるよ。
ここでは
限られた範囲の目にしか
触れない・・
勿体ないよ。
戻った方が良いと
思うよ。」
こんなこと
他の社員の前で
言ったら
社長失格だからと言って
社長は笑った。
「社長・・
仕事は大きさでしょうか?・・」
ここで働いていては
いけませんか?
「そうだな・・
それだけじゃないと思う。
でも、大きな仕事を
取りたいって
思うだろ?
たくさんの人に
響く作品を作りたいって。」
そうだ・・
私の心に響いた
あの化粧品会社の
公告のように
たくさんの人の心を
動かす作品を
私は作りたい。
「クリエイターとして
そう思うから
俺もこの会社を
時間はかかるけど
そんな仕事が
出来る会社に
していくよ。
でも〇〇さんには
今すぐそれが出来る
チャンスがあるんだ。
後悔しないように
行くべきだ。」
仕事は大きさじゃない。
だけど
自己満で終わらない
作品を作りたいと
思ったらやっぱり
それは・・・
社長は
クリエイターとしての
私のことを考えてくれた。
会社のことの方が
ずっと大切なはずなのに・・
家に帰って
チャンミンに話した。
「で?
社長のこと
好きになっちゃった?」
「っ!!
何言ってるの!?」
「冗談だよ。
ムキになると
怪しく思うよ?」
「もっ!!」
からかって
置きながら
真面目な顔――
「社長の言うとおりだろ?
〇〇だって
前みたいに
大きなもの作りたいって
思ってるはずだろ?」
「うん・・」
作りたいよ・・
でもまだぐずぐず
悩んでいるのは
チャンミンに
お見通し。
「〇〇がやりたい
仕事が出来るのは
その会社じゃないだろ?」
気持ちはわかるけど
今より
先の自分を考えて見たら
答えは出ると
チャンミンが言ってくれた。
先の自分か・・
そうだね。
前の会社に戻って
一から始めて
夢見ていた
あの会社の広告を
作ったとき
きっと達成感で
満ち溢れるね――
想像しただけで
楽しくなる。
それが私の
望む未来の私――







