何かされたわけじゃない。
何かされるか
わからない。
相手は取引先の人・・・
色んな思いが
交錯して
大声を出して
騒ぐことも
腕を振り払って
逃げることも
出来ない自分が居た。
だって本当に
ただの打ち合わせ
だったらどうする!?・・
でも不安で
怖くてたまらない・・・
部屋の中に
足を踏み入れると
オートロックのドアが
ゆっくりと閉まって行くのが
わかる。
閉まってしまえば
外から開けることは出来ない。
どうしよう・・・・・
閉まり行くドアに
背を向けて
覚悟を決めようとしていたのかも
しれない。
何の覚悟だろう・・
諦めかけたその時
ドアのそばにあった
私の右手を誰かが掴んで
引き留めた。
強い力に
驚いて振り向くと―――
チャ・・・ンミン!?・・
どうしてここに!?!!
「何してるんだよ
こんなところで。」
明らかに
怒り口調のチャンミン・・
誤解してるみたいだった。
「仕事で・・」
「遅くなるって言ったら
ホテルで別の男と会うのか?
お前は・・」
”お前”?・・
チャンミン!?
「キミは何だ?」
「あなたこそ
何ですか?
彼女とホテルの部屋で
何をしようと??」
完全に誤解してると
思っていた・・・
だってチャンミン・・
演技が上手だったから・・・
「・・打ち合わせだ。」
「打ち合わせ?
部屋で?二人きりで?
今時そんな打ち合わせを
する会社はないと思います。」
動揺を見せた部長・・・
倫理がどうのこうのって
難しい話で
チャンミンが部長を
やり込めた。
「では、彼女は
連れて帰ります。」
「おい!打ち合わせは・・」
「まだ打ち合わせだと
言い張るんですか?」
「・・・」
チャンミンに連れられて
部屋を出たら
ちょうど部屋の前に
社長が来た
ところだった。
「社長!」
「社長・・?」
私の声に
反応するチャンミン・・
チャンミンに腕を
掴まれている私を
状況が把握できないと
眉間に皺を寄せて
見る社長・・・
「〇〇さん・・?
彼は?・・」
「あの・・」
私が説明する前に
チャンミンが答える。
「社長さんですか?
ちょうど良かった。
打ち合わせ・・ですよね?
彼女は連れて
帰ります。」
「・・キミは?・・」
「彼女の恋人です。
恋人をホテルの部屋で
男性と二人きりで
打ち合わせさせるほど
僕は寛大ではありません。」
「二人きり?」
社長が私を見た。
「はい・・まだ
XXさんは戻られなくて・・」
二人きりでも
仕事は仕事だと
社長は言うだろう・・
仕事中に
恋人が出て来て
大事な契約の
邪魔をするなんて
あり得ないよね・・・
「とにかく
彼女は連れて帰ります。
この件でクビになるなら
それでも
構いません。」
「ちょっとチャンミン!」
凄い勢いで
私の腕を引いて
歩いて行くから
小走りについていかないと
腕が痛くてしょうがない。
あの状況から
逃げられた安心感からか
今度は
契約をダメにしてしまったと
思うと罪悪感が生まれる。
「チャンミン!
放して。仕事・・
戻らなきゃ!
クビになるなんて
困るよっ!!」
ホテルを出ると
チャンミンが
私の腕を振り放して
こっちを向いた。
「何考えてるんだよっっ!!!!」
凄く怒っているのが
伝わってきた。
一言だけ行って
スタスタと一人
歩いていくチャンミンの後を
また追いかけた。
”戻らなきゃ”と
言ってみたものの
やっぱり
あの場所には戻りたくない
気がしたから・・
後を追いかける私を
振り向きもしない。
まったく存在を無視して
歩く・・・
その足取りは
早くて普通に歩いていては
とても追いつけない。
早足で歩くけど
息があがってくる・・・・
チャンミン・・・
呼びかけるなって
チャンミンの背中が
言っているから
黙って追いかけるしかなかった――





