様々な舞台や物語の題材とされてきたアーサー王の伝説。聖剣エクスカリバー、円卓の騎士、魔法使いマーリンとその魅力は尽きない。

そして、史実を元に「もしかしたら史実の隙間にこんな逸話があったのかも…」と思わせる脚本を書く藤沢文翁。今回もエクスカリバーや円卓の騎士を登場させつつも、そのエクスカリバーに拒否されたアーサー王という独自の視点から物語を紡ぎ出した。



聖剣エクスカリバーに選ばれたアーサー王だが、戦況は芳しくなく、軍は壊滅し戦場にランスロット、ガゥェイン、モードレッドのみが取り残された。エクスカリバーを使えないアーサー王は戦場に出られず、頼みの綱の魔法使いマーリンも衰えから魔法が弱まっておりランスロットを救い出せなかった。怪我を負い死を悟ったランスロットは、たどり着いた湖でせめて一口水を飲もうとするが、そこで乙女に取引を持ちかけられる。

王がエクスカリバーを持てなくなった真相、モードレッドが円卓に座れない事情が、マーリンの秘密とともに明らかになっていく。


アーサー王を演じるのは諏訪部順一。エクスカリバーに拒まれ苦悩しながらも、騎士を愛し民のための王であろうとする人間臭い王を演じた。この人の声音で鼓舞されると心が揺さぶられる。ラストの騎士たちへの台詞は圧巻。

円卓の騎士であり、湖の乙女の加護を受けるランスロットに中村悠一。モードレッドやヴィヴィアンとの軽妙なやり取りはこの人の真骨頂。高潔な騎士であるランスロットもこの人が演じるとチャーミングな魅力が増す気がする。

湖の乙女を沢城みゆき。真の勇者が亡くなると向かうアヴァロンの湖の乙女。人ならざる者を、独特な台詞回しと絶妙な間で表現。兼ね役のアーサー王の少年時代はまっすぐで可愛らしい。

呪われた騎士という不名誉な二つ名を持つモードレッドに杉田智和。誰よりも勇敢な騎士でありながら円卓に拒まれる運命にある人物。ただの悪役ではない複雑な人物を好演。

ガウェインは安元洋貴。熱血漢で真っ直ぐな騎士。この人の低音は、信頼に足る人物にピッタリ。

ガウェインの弟であり軍師ガレスを梅原裕一郎。冷静かつ真面目な青年だが、間の悪さも天下一品。最大の見せ場でしっかり会場を笑いに持って行った。この人の誠実そうな声でやられるともう笑うしかない。

そして魔法使いマーリンに大塚明夫。大魔法使いでありながら、大ペテンをうち、最後まで子どもたちを愛おしむ愛情深さ。さすがの存在感。


悪役はおらず、誰もが誰かに見つけて欲しいと願い、決められた運命に抗おうともがき、最後まで希望を胸に生きていく…。毎日を必死に生きていく人の背中を押してくれるようなストーリー。


会場は約8000人収容の東京ガーデンシアター。舞台は真ん中に石積み。会場はいつものように雨音に包まれ、雨が上がると物語が始まる。

アリーナ席の端ではあったけれど、舞台までが近く、スクリーンもあってとても見やすかった。


カーテンコールは挨拶含めて3回。中村悠一が「拍手が大きいと後ろの人がでて来るよ」と客席を煽ったり、諏訪部順一が空気ポンプを押しながら登場したりと茶目っ気たっぷり。

目にも耳にも楽しい舞台だった。^_^