藤沢文翁と言えば音楽朗読劇というイメージだけれど、その中から2022年にミュージカル化されたのが本作の「CROSS ROAD」。今回はその再演となる。


ヴァイオリンの超絶技巧で有名なパガニーニだが、その人間離れした演奏から「悪魔と契約した」と噂が立つほど。その噂のために死後も遺体を教会が受け入れなかったという。


自分には才能がないと気付く程度には才能があったニコロ・パガニーニ。しかし、彼の才能を疑わない母の期待、音楽に愛されたい苦悩から、十字路の悪魔アムドゥスキアスに持ちかけられた血の契約を交わしてしまう。アムドゥスキアスのために奏でる100万曲。命を削りながらパガニーニはやがて名声と富を得ていくが、悪魔と契約したという噂から教会を敵にし、人から恐れられ、だんだんと死を意識し自暴自棄になっていく。そんな彼を支えたのは、愛する母、口うるさい執事アルマンド、自由を愛し、パガニーニのヴァイオリンを愛する娘アーシャだった。


アムドゥスキアスは初演に引き続き中川晃教。名前は様々な舞台で見かけたことがあるものの、実際に見るのは初めてだったけれど、度肝を抜かされた。音域の広さと、ファルセットの発声の柔らかさ!第一声はまさに悪魔の囁き。男性とも女性とも思える甘い声。この舞台はこの人あってのものだと思えるほど。とにかく素晴らしかった!

パガニーニは相葉裕樹。深く考えずに契約してしまったことに苦悩し、時に自暴自棄になるながらも、最期まで音楽を愛していたパガニーニを爽やかに好演。やわらかな発声は甘いマスクともピッタリ。

執事のアルマンドは畠中洋。初演はコスタだったそう。歯に衣着せぬ物言いではあるが、誰よりもパガニーニを心配し、最後まで見守る。この人の眼差しと主人を思う姿に泣かされた。

坂元健児は、パガニーニの師匠であるコスタと若手作曲家のベルリオーズの二役。同じ人物とは思えないほど、声の強さで性格まで違うことがわかる。パガニーニとの軽妙なやりとりも秀逸。


悪魔は迷い立ち止まる者の前に現れる。そんな誘惑に飲まれるなと若いベルリオーズを諭し、悪魔に魅入られそうになるアーシャにまっすぐ進めと檄をとばす。その言葉は、今を生きる私たちにも向けられている。安易な道を選びそうになったり、自分を誤魔化しそうになったり…。そんな時でも、ただひたすらに自分の道を信じて歩んでいけばいいと背中を押されるようだった。


カーテンコールは3回。本日がラストという相葉裕樹、畠中洋、加藤梨里香がご挨拶。ラストはなぜか母親役の春野寿美礼に回すも、綺麗に返されて中川晃教がご挨拶。よい座組なんだろうなぁとほっこりした。


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