博多座にVOICARIONが戻ってきた!と、原作・脚本・演出の藤沢文翁さんの言われる通り、待ってました!VOICARION!幟も帰ってきました。



今回は、幕末の京都が舞台。
忍者で有名な服部半蔵の12代目当主正義(山口勝平)は、佐幕派である松平定敬(さだあき:高木渉)の家老として仕えている。そんな彼のもとに、忍術を教えてほしいと江戸から仏生寺弥助(ぶっしょうじやすけ:石川界人)と名乗る男がやってくる。もとは桂小五郎(諏訪部順一)が塾頭を務める斎藤道場で風呂焚きとして雇われていたが、小五郎に稽古を許され、わずか2年で免許皆伝になったほどの腕前なのだが、講談師の語る服部半蔵に憧れ、京まで弟子入りにやってきたと言う。
同じ頃、尊王攘夷を目指す桂小五郎は新政府の樹立を目指し、高杉晋作(立木文彦)と行動を共にしていた。禁門の変以降、小五郎は姿を変えながら逃げ延び、ついに定敬たちを追い詰める。
定敬と半蔵は、伊賀の里を越え伊勢へ…と300年前家康と2代目半蔵のように山中を進んでいくが、小五郎と晋作に追い詰められる。今こそと、半蔵がついに秘伝を明らかにする。

幕末の佐幕派の松平定敬と12代目服部半蔵、尊王攘夷派の桂小五郎と高杉晋作。
関ヶ原の戦いの東軍の徳川家康と2代目服部半蔵、西軍の毛利輝元と世鬼正時。
2つの時代を交互に見せることで、幕末の混乱が幕府対新政府という単純なものでなく、300年という時を経ても受け継がれる人の思いがあってこそだった…と思わされた。また、服部半蔵の伊賀忍者と世鬼正時の外聞衆の生き方の違いも描かれていて面白かった。
そして、幕府側の新撰組沖田総司と、尊王攘夷派にいる岡田以蔵が敵対しているのに、刀で「人を殺す」という点では同じ。そんな彼らと対極にあるのが、凄腕ではあるが人を殺したことがない(殺したくはない)仏生寺弥助であるのも上手い設定だと思った。
ただ、関ヶ原の戦いの背景、幕末の各藩の情勢など情報量が多いので、目まぐるしい感じは否めなかった。

今回は、「どう生きるのか」を突きつけられたように思う。服部半蔵たちの伊賀者にとって忍術とは「しのぶ」こと。人の中で忍んで(耐えて)生きぬいていくことが一つのテーマだったと思うが、弥助を通して、新しい時代の到来も描かれているのがよかった。弥助のお陰で、未来への希望が示されているようだった。

タイトルロールの服部半蔵は山口勝平。
有名な二代目のために、苦労しているとはいうものの、人当たりが良く、明るい人柄が、声からも伝わってくる。ラストで服部家の秘伝が明かされた時、それまでの言動の裏にあったものが見えて鳥肌がたった。

服部半蔵のよき理解者で、鷹揚な主人である松平定敬と、そのご先祖にあたる徳川家康を高木渉。
定敬は、明るくカラカラと笑う快活な人物として演じ、家康は飄々としながらも、狡猾な一面も少ない場面ではあるもののしっかり見せてくれた。

尊王攘夷派の中心人物である桂小五郎と、毛利輝元を演じたのが諏訪部順一。桂小五郎は、新時代を生きるため刀を置いた人物らしく柔らかな声音で、毛利輝元は、戦国時代を生き抜いてきた武将らしい低く強い声で演じ分けた。どちらの役も、大事な友を失うシーンがあり、今回も泣かされてしまった。

桂小五郎の友である高杉晋作、毛利家の家臣(外聞衆)の世鬼正時は立木文彦。聞き馴染みのある低く通る声は、安心感がある。その安定感が、桂小五郎を時に叱咤激励し豪快に笑う心強い友、主人のために命を賭す強い信念を持つ忍者にピッタリだった。

新撰組の沖田総司は緒方恵美。今回初めて生でお声を聞いて感動。優しげで、爽やかな青年沖田総司だけでなく、剣に生き、剣でしか生きられない狂気じみた一面も、この人が演じると凄みがある。軽やかな声なんだけど、かえって空恐ろしい気配が伝わってきた。

幕末の有名な人斬りである岡田以蔵と、服部半蔵の息子の弥太郎を演じたのは朴璐美。不気味な岡田以蔵と真逆な弥太郎。全く印象が変わるのはさすが。緒方総司と朴以蔵の掛け合いが、凄くカッコ良かったし、贅沢な配役だなぁと感じた。

ドロドロとした政権争いとは無縁の男、仏生寺弥助を石川界人。考えなしの馬鹿なのか?と思わされるほどの明るい声。でも彼の言葉を聞いてると、つい微笑んでしまうくらい楽しそうに語る。この人のこういう明るい役の声、好きだなぁ。

今回は、吉田兄弟の吉田良一郎が音楽監督。随所で三味線の演奏も入り、場を盛り上げた。17弦琴の音も迫力があったし、個人的には能管好きなので、聴いてても楽しい舞台だった。

カーテンコールは3回。ご挨拶の後、演者の紹介、その後スタンディングオベーションで迎えたら、高木渉さんが「嬉しいねぇ〜」と呟かれてた。その後もう一度幕が上がって、皆さんが手を振ってくれた。石川界人さんが、幕が閉まるのに合わせてしゃがんで手を振ってくれてたのが可愛かったし嬉しい姿。

今回のパンフレットは巻物。それだけでもテンション上がる。
場内に仕掛けもあり、3種類のQRコードを読み込むと終演後に特典がいただけた。これは楽しい企画!




11月6日昼公演 博多座