谷口稜嘩(すみてる)さんが、自身が16歳の時に長崎で被爆した体験を、ピーター・タウンゼンド氏が小説にした「THE POSTMAN OF NAGASAKI」。この本を復刊しようとする谷口さんの思いを聞いた川瀬美香監督が、父の遺志を受け継ぎたいと願うイザベルさんと出会ったことから始まったドキュメンタリー。

 

飛行機に憧れ、第二次世界大戦中に英国軍パイロットとして活躍したピーター・タウンゼンド。退官後はイギリス王室に仕え、エリザベス女王の妹であるマーガレット王女と恋に落ちたが、周囲の反対で破局(この世紀の悲恋が、映画の傑作「ローマの休日」のモチーフになったらしい。こういう背景を知ると俄然わくわくしてしまう…)。その後、世界を巡る旅に出てジャーナリストとなった彼が、谷口さんと出会い、彼を取材して書き上げられた小説が「THE POSTMAN OF NAGASAKI」である。

 

2018年8月にタウンゼンド氏の娘で俳優のイザベルさんが、実際に長崎を訪れ、小説「THE POSTMAN OF NAGASAKI」に描かれた街並みを歩き、時には父の取材テープに耳を傾けながら当時に思いを馳せる。また、谷口さんのご家族と対面したり、当時の通訳の方に話を聞きながら、父と谷口さんとの交流を知っていく。二人の平和への思いに触れる中で、イザベルさん自身にも「後の人に伝えなくては」という思いが生まれていく。

 

彼女のいう「次は私が郵便配達人として、思いを渡す番」という言葉。

声高に「平和」を叫ぶ映画ではないけれど、観終わった後に、自分に何かできることはないだろうか、と考えさせられる。

 

監督:川瀬美香 2021年、日本映画