原作がついに完結してしまった「ハイキュー‼︎」だけれど、ハイステこと「舞台ハイキュー‼︎」は、春高戦の第3回戦、烏野対音駒、いわゆるゴミ捨て場の戦いがついに舞台化。



原作でも音駒贔屓の身としては、何としても見たかった舞台。コロナ禍の不安な情勢、様々な制約のある舞台ではあるけれど、演者さんを始めスタッフの方々による健康管理、環境整備のもとで舞台が運営されていることに改めて感謝。観に行く側としては、せめて自分の体調管理、身支度、消毒を徹底するばかり。当日まで何もなくてよかった。

一幕目、「因縁」。
烏野対音駒の原点でもある、烏飼元監督と猫又監督のストーリーをサラリと紹介しつつ、現烏野と音駒のメンバーのそれぞれの関わりを試合の中に織り交ぜながら見せていく。
原作である「ハイキュー‼︎」の魅力は、主人公の日向と烏野チームだけでなく、全てのキャラクターが魅力的なところだと思う。(私自身ガッツリ「ハイキュー‼︎」にハマったのは、アニメで「敗者たち」の回を見た時から)だからこそ、互いのことを、称賛しながら「嫌いだなぁ」と言い合うこの両チームのやり取りを見ることができてよかったと心から思う。
黒尾(近藤頌利)の月島(山本涼介)への「最近のバレーはどうだい?」からの「おかげさまで。」も見られてよかった。黒尾役の近藤頌利さん、バレー経験者でもあるため、立ち姿、ボールの扱いは本当にうまい。初めの頃は力み過ぎるきらいがあっだけれど、舞台を重ねるごとにいい力が抜けて、飄々とした黒尾そのものになっているように思う。研磨役の永田崇人さんとの体格差も、原作とほぼ同じで嬉しい限り。
試合の中では、2つの回り舞台に両校の選手が立って、これまでのやりとりを振り返りながら、バックに映像が流れるシーンがあり、これまで演じてきた役者さんの映像もあって胸に迫るものがあった。ハイキューといえば、斜めの周り舞台。今回は左右に配置することで、インパクトのある使い方ができていたように思う。
これまでの両校の関わりを描きつつ、それぞれの成長を実感している1セット目までが第一幕目。

第二幕は、「約束の場所」。
いきなりのゲーム場面。音駒メンバーが魔法使いや勇者になって現れる。大将(福澤侑)も蛇役で現れて会場の笑いを誘っていた。この人ちょっと細身だけれど、本当に大将くんにぴったりな雰囲気。声も聞き取りやすいし、スマートでいかにもシティボーイな感じでいいし、とにかくダンスがカッコいい。
第二幕の紗のカーテンを使ったプロジェクションマッピングの演出は流石!原作の中にもちょこちょこゲーム用語は出てくるので、研磨の心を描くのにはうまい演出だった。
2セット目、研磨(永田崇人)がじわりじわりと日向を追い詰めていくところが見所。日向(醍醐虎汰朗)の存在感が無くなっていく様子が舞台上でもよく演出されていた。鳥籠の演出も、じわりじわりと音駒メンバーが日向を取り囲んで閉じ込めていくという視覚的な演出でわかりやすい。日向の存在感がかつてなく薄まったとこからの、オープントスの場面は息を呑んだ。同時に研磨の脳内が混乱してるのもきちんと表現してくれていて嬉しい。
そして、両校力を尽くしての3セット目。必死に、そして楽しそうにボールを追いかけている選手たちを一人ひとりが演じている。崖っぷちの試合なんだけれど、互いが互いの凄さや成長を認めていて、真っ向勝負しながらこの時間を楽しんでいることが伝わってくる。
音駒戦は、これまでの青葉城西戦や、白鳥沢戦と雰囲気が違うなぁと思っていたけれど、それが顕著だったのが試合終了の時。負けた音駒に悔しさはあっても悲壮感はなく、烏野と健闘を称え合いながら納得してコートを去る。互いをよく知るチームとの全力を出し切った試合とは、こんなにも幸福なのかなぁと思えた。音駒の応援への挨拶では、会場から割れんばかりの拍手が送られた。心の底からありがとうと思いながら拍手させてもらいました。

今回の舞台で一番観たかったのが、研磨の「たーのしー」というセリフと、黒尾への感謝を示す場面。ぺしゃりと潰れての「たーのしー」の表情は伺えなかったけれど、黒尾役の近藤頌利くんの嬉しそうな表情が見られて大満足。そして、ラストは原作とは違って、倒れ込んだ黒尾の横に同じようにばたりと横たわる研磨の姿に、部活の先輩後輩だけでない幼馴染の近い関係が見て取れたし、研磨が本当に心を許してるんだろうなぁと感じられた。その後の黒尾の狼狽ぶりも微笑ましいし、それを嬉しそうに見ている音駒のメンバーの表情も自然で素晴らしかった。
試合後の3年生の前にはちゃんと大将もくんも出てきて、いい味を出していたけれど、その後の黒尾と海くん(武子直輝)、夜久さん(後藤健流)との3年生ならではのやりとりが、変わらないメンバーでやってきた音駒の3人に重なって感無量。よいラストでした。

原作のちょっとしたセリフも上手にいかしていたし、木菟さんや他の人たちのセリフも、うまい具合に振り分けていて、よく練られた演出になっていたと思う。
舞台設定もシンプルで、バックの大きなモニターもうまく使われていた。両脇のポールも選手はうまく使って遠近感だけでなく高低を出して人を見せる工夫をしていた。

何より、フェイスガードをつけてのダンスや試合の演技は大変だったことだと思うけれど、見てる側は全く気にならないほど引き込まれてしまった。これは、ぜひライブビューイングなり、配信なりして再度見たいし、見てほしいなぁと思う。

【追記】
大千秋楽を配信にて視聴。
劇場ではわからなかった表情がはっきり見える分、感情もより伝わってきた。なんといっても孤爪研磨の底知れなさ、曲者っぷりが際立っていた。いつもは無表情に近い研磨が、追い詰められる日向を見てニヤリと笑うシーンは原作でも印象的だけれど、見事に再現。
劇場でも感動したけれど、追い込まれた研磨が、打ち合わせのないままクロとする速攻の場面で、「クロッ!」て呼ぶ永田崇人さん声で泣かされ、「ありがとう、クロ」の場面でやはり泣かされ、監督とのやり取りで号泣する山本達に再度涙し、海さん役の武子直輝さんの本泣きで号泣。音駒のメンバーの気持ちの乗っかった試合は、まさに3年生の引退試合と重なって胸が詰まる思いだった。ここまでほとんどメンバーが変わることなく演じてくれて、本当に感謝。

改めて今回の舞台、舞台の傾斜、ライン、ライトをうまく駆使していたし、頭脳戦を繰り広げる研磨の思考を、チェス盤での駒の配置のようにみせる演出もよかった。

通信状況があまり良くなくて、追いかけ再生で視聴したら、舞台挨拶が途中で終わってしまった。せめて2日くらいアーカイブで見せてもらあるようになるといいなぁ。