原泰久原作の「キングダム」。「図書館戦争」を撮った佐藤信介が監督。

中国の春秋戦国時代。7つの大国が互いに覇権を争う中、秦のある村で戦争により孤児となった2人の少年の信(山崎賢人)と漂(吉沢亮)が、いつか大将軍になる日を夢に見ながら、下僕として暮らしていた。彼らに偶然王の側近である昌文君(高嶋政宏)が出会ったことから、運命が大きく回り出す。

今回映画化されたのは、弟成きょう(本郷奏多)の謀反により王宮を脱出した秦王嬴政(吉沢亮)が、信や山の民の力を借りて王宮のある咸陽に戻るまでの話。

信と漂の別れ、政との出会い、追ってくる刺客との対決、山の民との駆け引き、そして王宮での死闘と盛りだくさんな内容を、2時間で一気に見せたため、追撃の戦闘シーンがあっさりしていた感は拭えない。しかし、これだけの内容をよくもここまでポイントを押さえて編集したなぁとも言える。原作を知らなくてもストーリーがわかるよう主要人物に絞り、エピソードも信と漂にまつわることに留めたことが功を奏していると思う。余計な情報が入らない分、話に集中できた。

一番気になっていたのは、原作の中でも人気の高い王騎(大沢たかお)がどのように表現されるのか…だったけれど、個人的には十分及第点。馬上に微笑みを浮かべて現れたその時から王騎そのものだった。撮影に入るために15キロも増量したとのこと。王騎の二の腕がちゃんと再現されているうえ、笑い方まで再現されていてただただ嬉しかった。今回王騎の戦闘シーンはほとんどないのが残念だけれど、信の目指す大将軍の雰囲気は十二分に味わえた。満足。

再現度でいえば、ピカイチだったのは成きょう。あの酷薄そうな目つきといい、頬を歪めた笑い方といいイメージ通り。政を筆頭に、身分の低いもの達を嫌悪し、血統こそが最上と信じて疑わない気位だけが高い憎まれ役をきっちり演じていた。しかも政にボコボコにされるところまで完璧。本郷奏多ファンにはあの姿は辛かろう…と思ってしまうほどの再現度だった。この人、政についた後の演技で見てみたいと思う。

 山の民の王、楊端和を演じたのは長澤まさみ。賛否両論はあるだろうけれど、人を束ねることのできる年齢、刀を振り回しても違和感のない腕の太さ、壁が一目で焦がれる程の美貌…と考えていくと妥当な配役だったのではないかな。声がもっと低い方が好みだけれど、違和感はなかったし、よくぞあの衣装で戦ってくれましたという感じ。

役者として美味しかったのは、漂と政を演じた吉沢亮。明るく真っ直ぐな漂と、生い立ちと立場ゆえに常に気を張っている政という真反対の人物を演じ分けていて、ちゃんと別人格に見える。ぱっと花が咲いたように笑ういかにも漂らしい笑顔もよかったし、政が信と初めて出会う場面ですっと眇めた目がよかった。この人目がいいんだなぁ。

山崎賢人は、あまり好みではない役者だったのだけれど、今回その印象が払拭された。ちゃんとほほが削げて、貧しい暮らしの中、体を鍛えている信らしい姿になっていた。それだけでも好印象。よく体も動いてるし、強い視線も、ガラの悪さも信そのもの。やんちゃだけれど周りに愛される信というキャラクターを違和感なく表現していた。

河了貂(橋本環奈)はどうなんだろうと思ってたけれど、あの衣装を見事に再現していて感服。惜しむらくは、「河了貂也!」のあのポーズしてほしかった。

刺客達のシーンが短かったため、その強さとか凄まじさが伝わりにくいし、戦いの中で信が強くなっていくという部分が見えにくかったかな?特にムタとのやり取りで、どんどん相手の間合いを見切って行くようなシーンがさらりと流されていてもったいなかった。

全体としては、ストーリーも、役者も概ね満足。
場面転換が単調(パワー○イントのアニメーションみたいだった)で、もう一工夫欲しいところだけれど、瑣末なこと。戦闘シーンがやや小規模なのも時間を考えると致し方なし。
娯楽大作と捉えて見るなら充分に楽しめる作品になってるなぁと思うのでおススメ。