オードリー・ヘップバーン主演の映画でも有名なミュージカル「マイ・フェア・レディ」
今回は神田沙也加&別所哲也、朝夏まなと&寺脇康文のWキャストでの公演。Wキャストでのならではの楽しみがあるから、本当は両公演見たかったけれど、神田沙也加バージョンはチケットが取れず…。朝夏まなとバージョンのみの観劇。



始まる30分前からオケの音だしが始まって、テンションが上がる。生演奏ならではの高揚感。今回の舞台はステージ上にオーケストラピットがあって、音が直に届く感じ。役者と呼吸を合わせて演奏していくから、タイミングぴったりで気持ちいい。

オープニングで花売り娘が踊りながら舞台装置を見せていく演出いいなぁ。街中を案内されながらマイフェアレディの世界に連れていかれてるよう。

そしてイライザ登場。朝夏まなとのイライザはまっすぐな気質のチャキチャキした下町娘。中低音は少し宝塚っぽい発声にも感じるけれど、高音は綺麗。ダンスはさすが。手足が長いから動きに目がいく。下町娘なのに優雅。発声練習での掛け合いも面白く見せていく。下町の訛りを話す時は、喉に力が入ってるような発声だったのが、どんどん柔らかな発声に変わっていくのを聞くのも楽しい。練習の成果が出て、それを教授と喜ぶ中で恋が生まれ、眠れないのと高らかに歌い上げていくところが可愛くて見ていてもきゅんとする。
二幕からはすっかり貴婦人然としていて、立ち姿が美しい。ヒギンズ教授に褒めてもらえず、悲しそうに佇む姿、思いが伝わらず苛立つ姿、あからさまではないけれど、流す視線や握りしめる手などで細やかに演じる。いっそのこと、フレディと恋をしてしまえればいいのに、ヒギンズ教授への思いを捨てられない切なさがひしひしと伝わる。それだけにラストはもう少したっぷり演じて欲しかったかな。思ったよりもさらりと終わってしまった感じ。

寺脇康文のヒギンズ教授。登場の時に「私が刑事に見えるかね?」の台詞があったけれど、テレビドラマ「相棒」のイメージが強すぎて一人ツボにはまってしまった。高慢で鼻持ちならない教授なんだけれど、だんだんと愛嬌と感じてしまうのは、寺脇康文自身のキャラクターもあるのかも。コミカルな演技はぴったりだけど、イライザへの思いを自覚していく過程がやや唐突な感じがしたのが残念。独身主義者の教授が頑なな主義を覆してまで、イライザと共にありたいと思ってしまったことに戸惑ったり、フレディとのことを聞いて狼狽えたりする場面がややバタバタした印象。ストレートに恋をぶつける若いイライザに対して、恋に戸惑う大人のヒギンズ教授をもう少しじっくり見たかった。

今回個人的には、アルフレッド・ドゥーリトルを演じた今井清隆が見られて嬉しかった。劇団四季にいた頃、存在感のある演技が好きだった。ヒギンズ教授にも褒められる「流れるようだけれど中身のない説明」の部分は、明瞭な発声でないと効果的でないから、彼はぴったりな俳優。この人の出てくるナンバーは楽しくて、会場も手拍子で盛り上がった。

舞台をコミカルに回す役回りが、ピッカリング大佐役の相島一之。花売り娘のイライザにも優しく紳士的に接する人のよい人物を好演。とぼけた演技と掛け合いで笑いをとっていたけれど、この人が出てくると何だか場が和やかになるなぁと思った。
そして、脇をきっちりしめる春風ひとみと前田美波里の2人の女性陣。春風ひとみは頑固な主人であるヒギンズ教授の有能な使用人であり、時には厳しく嗜める母親のような存在感をつかず離れずの距離感で、前田美波里は、風変わりな息子を心配する母親ではあるものの、イライザの人柄に惹かれ、彼女を友人として扱う懐の広さを貴婦人らしい鷹揚さで演じていた。
フレディ役の平方元基は、アスコット競馬場で美しいイライザに一目惚れしてしまう人のよい貴族のお坊ちゃんを好演。声も甘くて、上背があって、花のある役者さんなので、当て馬のフレディにはぴったり(褒めてる)。

カーテンコールは4回だったかな?4回目は腕を組もうと構えた寺脇康文に対して、朝夏まなとがにっこり笑って腕を組んで幸せそうに歩いて行き、幕が閉まった後の2人のその後を暗示してるようでよかった。ラストコールでは片膝を立てて跪き、プロポーズのような構えで手を差し出した寺脇康文に客席からきゃー!と声が飛び、うーんどうしようかなぁと迷うそぶりの朝夏まなとがしばらく焦らしてから手を取り退場。下手に引っ込む寸前にぐるりと振り向き投げキスをしたら会場から悲鳴がしてた。さすが元男役トップ…。様になる。イライザカッコいい。

幸せな結末のミュージカルは見終わった後に、その幸せな気持ちを持って帰るような気がする。
何度も再演されてるのがわかるなぁと改めて思う作品でした。