私にとっては、アマデウス以来のモーツァルト物。

 

オペラ「フィガロの結婚」で成功を果たしたものの、息子の死、妻とのすれ違いなど家庭的には悩みを抱えていたモーツァルトが、プラハの友人に招かれ新作オペラの作曲にとりかかる。そこで偶然出会った美しく歌の才能豊かなスザンナ、彼女に執着する猟色家のサロカ男爵との三角関係を軸に、新作オペラ「ドン・ジョバンニ」が形作られていく。

 

貴族の中にある優劣感情、主従のつながり、力をもつ者への傾倒、策略・・・いろんなものが渦巻く世界を、少しノスタルジックな映像で見せる。

 

モーツァルト役のアナイリン・バーナード(イギリスの俳優)が、横顔がモーツァルト!この顔、音楽室で見た!て思った。(笑)

自分はもともと王侯貴族に望まれた音楽を提供する職人のようなものだったという自覚があるから、使用人とも距離が近くて愛嬌のある、人間的な魅力にあふれたモーツァルトを好演。アマデウスのような、天才って怖いわ…というトリッキーな感じはない。

ヒロインのスザンナは美しいソプラノの持ち主、モーフィッド・クラーク。貴族の娘として、親の言葉に従いながらも、初めての恋にまっすく向き合う、芯の強いスザンナを演じていた。

この映画の肝はやはりこの悪役、サロカ男爵。ジェームズ・ピェアフォイ。劇場のパトロンという立場をとことん利用して、気にいった女なら歌手だろうがスタッフだろうが自分が手を出すことに戸惑いはない。手に入れたい女(スザンナ)のために、他の女優を役から降ろしたり、本意ではなくとも親に気に入られるためにモーツァルトをプラハに招く手筈を整えたり、気持ちいいくらいの悪役っぷり。

本当は、妻に「プラハに早く来てくれ、君がいないと寂しいよ」という手紙を書いてるそばから、スザンナを口説きにかかってるモーツァルトに「おいおい、節操無しかよ」と言いたくなるけれど、サロカ男爵があまりにもなため、そこはスルー。

頭に血が上ったサロカ男爵が自滅することで物語に決着はつくけれど、個人的に一番心に残ったのは、新作オペラの上演が迫る中、スザンナを失ったことで沈むモーツァルトを、避暑地から駆け付けたモーツァルトの妻が、完璧にサポートし上演成功につなげていく場面。さらりと流されただけだったけど、あのプロデュース力ってすごいんじゃない?

ストーリーとしては、二人の恋の場面まではぐわーっと盛り上げていくけれど、そのあとがあまりにもあっさりしていて(モーツァルトをがサロカ男爵を新作オペラで追及していくのでは!と勝手に想像していただけに)ちょっと拍子抜け。

 

でも、当時の衣装や舞踏会の様子、オペラハウスの内装なんかは見ていて本当に楽しい。コスチュームプレイの作品はそこが楽しいよね。