譯『大方広佛華嚴經』巻下(江部鴨村 訳,昭和10年) 

370〜371頁

仏子よ、菩薩大士は十種の不動心をおこす。
十種とは何んであるか?
一には一切の所有において皆よくことごとく捨つる不動心である。
二には一切の仏法を思惟し観察する不動心である。
三には一切の諸仏を憶念し供養する不動心である。
四には一切衆生において誓って悩害を加えぬ不動心である。
五にはあまねく衆生を摂取して怨・親の別を設けぬ不動心である。
六には一切の仏法を求めて休息しない不動心である。
七には一切衆生の数に等しき不可説・不可説の劫に、菩薩の行を行じて疲厭を生ぜず、また退転することのない不動心である。
八には有根の信・無濁の信・清浄の信・極清浄の信・離垢の信・明徹の信・一切のほとけを恭敬し供養する信・不退転の信・不可尽の信・不壊の信・大歓喜の信を成就する不動心である。
九には一切智を出生する方便道を成就する不動心である。
十にはあらゆる菩薩の行法を聞き、信受して謗(そし)らない不動心である。
仏子よ、これが菩薩大士の十種の発不動心である。
もし菩薩大士がこの法に安住するならば、すなわち此上なき一切智の不動心を得るだろう。

(旧字体、旧仮名遣いは改めました)