譯『大方広佛華嚴經』巻下(江部鴨村 訳,昭和10年) 

368〜369頁

仏子よ、菩薩大士に十種の宮殿がある。
十種とは何んであるか?
一に菩提心は菩薩の宮殿である。つねに忘失しないから。
二に十善業道の福・徳・智慧は菩薩の宮殿である。欲界の衆生を教化するから。
三に四梵所住の禅定は菩薩の宮殿である。色界の衆生を教化するから。
四に浄居天(じょうごてん)に生ずるのは菩薩の宮殿である。あらゆる煩悩に染著しないから。
五に無色界に生ずるのは菩薩の宮殿である。もろもろの衆生をして難処を離れしめようとするから。
六に雑染の世界に生ずるのは菩薩の宮殿である。一切衆生をして煩悩を断ぜしめようとするから。
七に現じて内宮の妻子・眷族と住するのは菩薩の宮殿である。往昔の同行の衆生を教化しようとするから。
八に現じて輪王、護世の釈・梵となるのは菩薩の宮殿である。自在心の衆生を訓練しょうとするから。
九にあらゆる菩薩行に住し、神通遊戯してみな自在をうるのは菩薩の宮殿である。よく一切もろもろの禅定・解脱・三昧・智慧に遊戯するから。
十にあらゆる仏のみもとに於いて此上(このうえ)なき自在の一切智王の灌頂の記を受けるのは菩薩の宮殿である。十力の荘厳に住して一切の法王の自在のことを作(な)すから。
仏子よ、これが菩薩大士の十種の宮殿である。もし菩薩大士がこの法に安住するならば、すなわち一切法王の受記・自在の法を得るだろう。

(旧字体、旧仮名遣いは改めました)