譯『大方広佛華嚴經』巻下(江部鴨村 訳,昭和10年) 

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 仏子よ、たとえば大火は、あらゆる世界において火事をおこし、草木を焼き尽さぬと云うことはない。然しながら、その火も、草木・都市・村落のない処に行くときには、おのずと消滅する。諸大士よ、どう思う? そのとき、あらゆる世間の火はことごとく消滅してしまうだろうか? 答えていう、「いな」と。
 如来・応供・等正覚もまた此のごとく、あらゆる世界において仏事をなし、あるいは一仏国土を教化しおわって、あまねく涅槃を示現したもう。諸大士よ、何(ど)うおもう? そのとき、あらゆる世界の如来はことごとく済度したもうだろうか? 答えていふ、「いな」と。
 仏子よ、菩薩大士は如来・応供・等正覚の大涅槃をかく知見する。

(旧字体、旧仮名遣いは改めました)