譯『大方広佛華嚴經』巻下(江部鴨村 訳,昭和10年) 

263〜264頁


 また次に仏子よ、たとえば大海に四種の宝珠がある。この四種のたからは、ことごとく海中のあらゆる宝を生む。もしこの宝がなければ、海中のもろもろの宝は、皆ことごとく消滅するだろう。

 四種とは何であるか?一を衆宝積聚と名づけ、二を無尽宝蔵と名づけ、三を遠離熾然と名づけ、四を一切荘厳と名づける。これが四種の宝である。

 仏子よ、一切の阿修羅・迦楼羅・もろもろの龍神等は、ことごとくこの四種の宝を見ることが出来ない。なぜなら、娑伽羅龍王が密(ひそ)かにそれを深い宝蔵のうちに蔵(しま)っておくから。この四種のたからは倶に端厳であって方正である。

如来・応供・等正覚の海にもまた四種の大智の宝珠があって、あらゆる声聞・縁覚・学・無学の智慧、及びもろもろの菩薩の智慧の大宝を生む。

 四種とは何である?

一を汚(けが)れなきたくみな方便の浄(きよ)らかな智慧のたからと名づける。

二を有為と無為とを分別し演説する浄らかな智慧のたからと名づける。

三を一切諸法を分別し演説して法界を壊(やぶ)らざる浄らかな智慧のたからと名づける。

四を衆生に応化して未だかつて時を失はざる浄らかな智慧のたからと名づける。

 これが如来の大海の四種の浄らかな智慧のたからである。

 仏子よ、この如来の四種の浄らかな智慧のたからは、一切衆生の見うるところでない。なぜなら、この四種の智慧のたからは、如来の微密な法宝の蔵のうちに安置されてあるから。それは端厳殊特であつて、能くあまねく諸菩薩のむれを利益し、彼等をしてことごとく智慧の光明をえしめる。

 仏子よ、これが如来・応供・等正覚のこころを知見する菩薩大士の第四の勝行である。


(旧字体、旧仮名遣いは改めました)